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スタートアップのピッチに無作為に賞金を配ったときのランダム化比較試験

スタートアップのピッチに無作為に賞金を配ったときのランダム化比較試験。まあ、賞金をもらったほうが、利益や売上、雇用の拡大において顕著な成長したらしい。結果は明らかなような気がするが、ピッチコンテストにランダム化比較試験を用いているのが面白い。というか考えたこと無かった。


タイトル (Title):
Identifying and Spurring High-Growth Entrepreneurship: Experimental Evidence from a Business Plan Competition
高成長起業家の特定と促進: ビジネスプランコンペティションからの実験的証拠
URL:https://www.aeaweb.org/articles?id=10.1257/aer.20151404

ジャーナル名 & 出版年 (Journal Name & Publication Year):
American Economic Review, 2017年

最初と最後の著者 (First and Last Authors):
David McKenzie

最初の所属機関 (First Affiliations):
Development Research Group, The World Bank

全体の要約

この研究は、2017年に「American Economic Review」に発表されたもので、発展途上国において高成長を遂げる企業家を特定し、公的政策を通じて支援できるかどうかを探求しています。ナイジェリアで実施された大規模なビジネスプランコンペティション「YouWiN!」を事例として取り上げ、約5万ドルの助成金を受け取った企業家がその後の5年間でどのように事業を成長させたかをランダム化比較試験(RCT)を用いて評価しました。結果は、助成金を受けた企業が新たな事業の創出や生存率の向上、利益や売上、雇用の拡大において顕著な成長を遂げたことを示しています。この研究は、成長が制約されている潜在的な高成長企業家が存在し、ビジネスプランコンペティションが彼らの制約を克服する上で効果的であることを結論付けています。

各章ごとの要約

序論

序論では、発展途上国において大多数の企業が従業員10人未満であるという共通の問題が提示されています。この章では、潜在的な高成長企業家が存在するのか、そして公的政策が彼らを特定し、支援できるかという重要な問いを投げかけています。ナイジェリアのYouWiN!プログラムを事例として、この問題を探求するための背景が説明されています。

ビジネスプランコンペティションとランダム化比較試験のデザイン

この章では、YouWiN!コンペティションの設計とランダム化のプロセスについて詳述されています。ナイジェリアの若手企業家を対象としたこのプログラムは、優秀な応募者に対して多額の助成金を提供しました。準決勝進出者の中からランダムに選ばれた勝者を対象とすることで、このプログラムの影響を因果的に推定するための基盤が整えられました。

結果:企業の創出、生存、成長

結果の章では、YouWiN!コンペティションが企業の創出と生存に与えた大きな影響が示されています。コンペティションの勝者は、コントロールグループと比較して、新しいビジネスを立ち上げたり、既存のビジネスを持続させたりする可能性が大幅に高まりました。また、これらの企業内での雇用が大幅に増加し、多くの企業が従業員10人以上という重要な閾値を超えることができました。

インパクトのメカニズム

この章では、YouWiN!コンペティションが企業の成果に影響を与えたメカニズムについて検討しています。助成金は、企業が資本を調達し、労働者を雇用することを可能にし、結果的に利益と売上が向上しました。一方で、ビジネスネットワークやメンターシップに大きな変化は見られませんでしたが、資本制約が主要な障害であり、このプログラムがそれを克服するのに役立ったことが示されています。

コスト効果と政策的示唆

最終章では、YouWiN!プログラムの雇用創出と企業成長促進におけるコスト効果について議論しています。この分析では、大規模なビジネスプランコンペティションが、発展途上国における高成長企業家の特定と支援において有効な政策手段となり得ることが示唆されています。また、制約を受けながらも能力のある企業家を対象にすることの重要性が強調されています。

まとめ

この研究は、公的政策が発展途上国における高成長企業家を特定し、支援する上で重要な役割を果たせることを示しています。YouWiN!コンペティションは、企業の創出と成長を促進する上で成功を収め、資本制約を克服して従業員を雇用する企業の成長を促進する大きな可能性を秘めています。この研究の成果は、雇用創出や経済成長が重要視される文脈において、起業家政策の可能性を示唆するものです。


Table 2—Impact on Start-Up and Survival

Table 2 では、YouWiN!コンペティションが企業の創出や生存に与える影響を示しています。この表は、コンペティションに応募した新規ビジネスと既存ビジネスの応募者が、それぞれ1年目、2年目、3年目のフォローアップ時点で企業を運営しているかどうか、そしてその企業で自己雇用に従事している時間についてのデータを提供しています。

Table 2の構造と内容

Panel A: 新規ビジネス応募者

  • Operates a firm at time of survey (企業を運営しているか):

    • 1年目のフォローアップでは、コントロールグループ(プログラムに選ばれなかったグループ)の55%が企業を運営していました。これに対して、コンペティションで勝者となったグループ(トリートメントグループ)は、21.5ポイント高い確率(約77%)で企業を運営していました。

    • 2年目では、トリートメントグループはコントロールグループに比べて35.9ポイント高い確率で企業を運営していました。

    • 3年目には、トリートメントグループの企業運営率はさらに上昇し、コントロールグループよりも37.3ポイント高くなっています。

  • Weekly hours worked in self-employment (自己雇用に従事した週の労働時間):

    • トリートメントグループは、1年目には自己雇用に13.5時間多く従事しており、2年目にはその差が21.7時間、3年目では19.5時間と、いずれもコントロールグループより多くの時間を自己雇用に費やしていました。

Panel B: 既存ビジネス応募者

  • Operates a firm at time of survey (企業を運営しているか):

    • 既存ビジネス応募者の場合、1年目にはコントロールグループの87.1%が企業を運営していましたが、トリートメントグループはこれより8.3ポイント高い運営率を示しました。

    • 2年目には13ポイント、3年目には19.5ポイントと、トリートメントグループの企業運営率がさらに高まりました。

  • Weekly hours worked in self-employment (自己雇用に従事した週の労働時間):

    • トリートメントグループは、1年目に約9時間、2年目に8.6時間、3年目には11.7時間、コントロールグループより多く自己雇用に時間を費やしていました。

Table 2からの主要なポイント

  1. 企業運営の増加: コンペティションの勝者は、新規ビジネス、既存ビジネスのいずれにおいても、企業を運営している可能性が高くなっている。特に、3年目までにその差が顕著に広がっています。

  2. 労働時間の増加: トリートメントグループは自己雇用に従事する時間が増加しており、これは企業運営の活発さを反映しています。

  3. 影響の持続: 助成金の提供による影響は一時的なものではなく、少なくとも3年間持続していることがわかります。特に、自己雇用時間が長期にわたり増加している点は、持続的な企業活動を示唆しています。

この表は、YouWiN!プログラムが新規および既存の企業に対して、企業運営と成長を促進する実質的な効果をもたらしていることを明示しています。

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