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レヴュースタァライトの「アタシ再生産」をPowerPointで再現した猛者を直撃、独特の作業工程に気が遠くなる

こちらの記事は、エンガジェット日本版さんにパワポの取材を受けた際に書いていただいた記事を、執筆者のつくね伯爵さんに許可をいただいて転載したものになります。元記事が掲載されていたエンガジェット日本版は2022年4月をもって閉鎖されました。

取材・つくね伯爵さん

勤務中に日課のTwitterパトロールをしていたら、PowerPoint(パワポ)で作ったものすごい作品を発見しました。まずは、下にあるツイートの動画を再生してください。

アニメ「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」の変身バンク「アタシ再生産」をパワポで再現した動画です。

なんじゃいコレ!僕が知ってるパワポじゃない!

▲元動画はコチラ、再生を押すと該当する「アタシ再生産」のシーンからはじまります

元ネタを知らない人でも再現度がスゴイのが分かりますよね。なによりそれをPowerPointで再現しているということ。絵を描いたり、モーショングラフィックを作ったりするのは見かけたことがありますが、これほどまでの完成度のアニメーション動画はみたことがありません。

専用ソフトでなく無理矢理PowerPointで作成しているのだから兎に角、どんな作業工程なのかが気になります。ということで、このパワポを作った円さんにお話を伺ってきました。

▲愛用のNECのPCを持ち、パワポでの動画製作についてイキイキと語ってくれた円さんは大学4年生

──まずは円さんとパワポとの出会いを教えてください。
円:中学生の時に入部したパソコン部の端末に、Officeソフトが入っていたのがきっかけです。はじめて触ったときに絵を描けることに感動しました。パラパラ漫画を書くのが好きだったので、よくパワポで遊んでいました。

──初っ端からして使い方が違うような............
円:その後、理系の高校に進学しました。卒業研究を発表しなければいけなかったのですが、研究自体が正直全然うまくいってませんでした。パワポをかっこよくすれば発表自体はいい感じになるかなと思い、スライド作成にめちゃくちゃこだわりました。

鳥に自動で餌をあげる機械についての発表で、構造をひたすらアニメーションで紹介しました。それをみたある先生には「こんなことしてないでちゃんと研究をやれ!」と怒られましたが、もうひとりの先生には「お前のパワポはなかなかスゴイ」と褒められたのはいい思い出です。

──内容は無いけど「スライドの見た目でごまかしたれ!」ってことは社会人になってもありますよ。大学生になってから本格的にパワポでアニメーションの製作をはじめるようになりましたか?
円:はい、タイピングゲーム「寿司打」のOPを再現したPowerPointを作ってTwitterにアップしたら反響があって、パワポで作るアニメーションの可能性を感じました。その後は、好きなアニメをもとにした作品をパワポで作成していました。

▲円さんのPowerPoint作品群

──そして最新作の「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」の変身バンク「アタシ再生産」。これはかなりの気合と工数がかかってそうですね。
円:元になった「アタシ再生産」の動画は33カットなのでそれに合わせて33スライドで作り、1スライドの中で図形をアニメーションの設定で動かしたり消したりしています。

そのアニメーションの数は1040個になりました。プラグイン等は使わずにパワポで作った図形と、パワポの機能だけで何処まで再現できるのかという挑戦です。ファンムービーとして妥協のない48秒間にしたかったので、色々こだわっていたら結局1年くらいかかってしまいました。


──参考にしたサイトやパワポ職人の方たちはいますか?
円:全部独学です。私みたいなパワポ職人さんが沢山いることに最近ようやく気づきました。動かしているオブジェクトや背景は元のアニメ動画のスクショをトレースして作成しています。

──パワポでこの動画を作るのにあたって、一番苦労したところはどこですか?
円:遅延の誤差の調整です。元のアニメーションは24fpsなので絵1枚あたりの秒数は0.0416666・・・秒となっていますが、パワポだとコンマ2桁までしか秒数を設定できないので、近似値の0.04秒などで設定すると、枚数が増えていけばズレが生じてしまいます。

さらに、パワポは動画制作ソフトではないため、そもそも0.04秒と設定しても、その通りの秒数にならないこともあります。この誤差をしっかり調整しないと動画としてちゃんと動きません。なので、オブジェクトのアニメーション毎にその誤差をエクセルで計算して数値を設定しています。

最初の1カットは、147個のアニメーションが設定されていてオブジェクトの作成とその誤差の修正の工程だけで1か月ぐらいかかってしまい、流石に挫折しかけました。

▲各アニメーション毎にEXCELで計算した誤差を踏まえた数値を計算して、遅延を設定します

──アニメーション作成ソフトでないパワポならではの苦悩ですね。ほかに、こだわりのカットがあれば教えてください。
円:右にパンするカットですね。元の動画に準じて右にパンしたかったのですが、パワポでこれを再現するには背景を動かすしかありません。この背景を動かすという工程が非常に複雑でした。

▲長いレールのオブジェクトを作成してそれをアニメーションで徐々に動かすことでカメラがパンしているかのようにみせます

一番こだわったのは最後のカットですね。十字星が沢山光るのですが、パワポには光るというエフェクトがないので、どう再現するかが課題でした。まず、半透明なオブジェクトを置いて、まわりに光彩を付けたオブジェクトを置き。それらを沢山重ねてアニメーションで動かすことで、十字星が輝いているような見た目にしました。

元のアニメ版では、背景のスポットライトと十字星の2つの要素が合致していることにケレン味があります。最後のカットのスライドデータは非常に重くて、何かオブジェクトを移動するたびに処理落ちで「応答なし」になってしまいます。しかし、そのケレン味をなんとかパワポで再現したかったので背景とオブジェクトのアニメーションを丸一日かけて微調整しました。

──なんたる涙ぐましい努力。ほかの専用ツールを使えばもっと楽に動画を作れるはずなのになぜパワポにこだわるのですか?
円:学生や社会人にも馴染みのある「PowerPoint」は、普段はスライドづくりの為の地味な作業をしなくてはならないツールです。しかし、そのパワポでもこんな動画がつくれるんだぞ。っていうことを多くの人に知って欲しいからですかね。

──粋狂な志ですね! 尊敬します。これからパワポで作りたい作品はありますか?
円:大学生のうちにもう1作品つくりたいですね。題材は決まっていて、車窓から見える風景を描きたいです。なにより、キャラクターを細かく動かすよりも風景のオブジェクトを動かす方がパワポで表現しやすいですから。

──大学4年生なのに、こんなにパワポに時間をかけていて大丈夫でしたか?
円:卒業研究がやばいです(笑)。しかし、私の研究テーマはアニメの効果音なので変身バンクを何度も観たり、レヴュースタァライトという作品を深く考えたりしたことで、沢山の気づきを得られました。

そこから、効果的な音響の演出のフローチャートを作成できたので卒業研究には役立っているのかなと思います。卒業後はテレビ関連の音響の仕事に就職する予定ですが、将来的にはアニメ音響の仕事に就くの夢です。

──本日はありがとうございました。

軽い気持ちで作業工程を聞きに行ったら度肝を抜かれました。オブジェクトを作成すること自体はトレースである程度のクオリティのもはできますが。PowerPoint特有の遅延の誤差を修正する作業工程を聞いているうちに、気が遠くなりました。

動画製作専用ソフトでなく、あえてPowerPointで「アタシ再生産」を再現する。意地と根性がヒシヒシと伝わるインタビューでした。円さんの作品には、効率化が大きな指標となるプロの現場には無いものがあります。

あふれんばかりの愛と時間をレヴュースタァライトとPowerPointに捧げた素晴らしいファンムービーだなぁ。と、しみじみ感慨に耽りました。僕はこんな工程で絶対やりたくありませんケドね!


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