見出し画像

パスカル・シアカムのトレードまとめ

トレード・デッドラインまで20日もある中、シアカムのトレードが成立しました。トレード直後は指名権含めてかなりの情報が錯綜し、なかなか全体像を把握できなかったと思いますが、次第に情報も出揃って落ち着いてきたので一度まとめてみたいと思います。

このシアカムのペイサーズへのトレードは2段階に分かれています。

PART 1. ペイサーズとペリカンズのトレード

ラプターズとペイサーズのトレードの前に、ペイサーズとペリカンズのトレードがありました。これはラプターズに送るサラリーマッチ要員を獲得するためです。

ペイサーズ獲得:

  • カイラ・ルイス($5.7M)

  • 2024年の2巡目指名権でペリカンズかブルズの低い方(ペリカンズから)。45~51位の間になると予想

ペリカンズ獲得:

  • キャッシュ$110K
    *$5.7Mのトレード・エクセプション

ペリカンズは今シーズンのタックスを回避するために、カイラ・ルイスの契約を2巡目をつけて、ペイサーズの$6.4Mのキャップルームにサラリーダンプしました。これにより、ペリカンズはタックスまで$2.7Mになりました。

このトレードがなければ、ペイサーズはシアカムのサラリーマッチにオビ・トッピンかジェイレン・スミスを含めなければいけませんでしたが、それを避けらる事ができました。もしかすると、ラプターズはPFよりも控えのガードを欲しがっていたのかもしれません。

ペイサーズはこのトレードを成立させるために、ロスター枠をひとつ空けなければいけなかったので、12月中旬に契約したジェームズ・ジョンソンをウェイブしています。後にジョンソンは10デイ契約でチームに復帰。

PART 2. ペイサーズとラプターズのトレード

これでシアカムのトレードの駒が揃いました。トレードの内容は次のようになります。

ペイサーズ獲得:

  • パスカル・シアカム

ラプターズ獲得:

  • ブルース・ブラウン Jr.

  • ジョーダン・ウォラ

  • カイラ・ルイス

  • 2024年のペイサーズの1巡目指名権

  • 2024年のジャズ/ロケッツ/クリッパーズ/サンダーの中で最低の1巡目指名権

  • 2026年のペイサーズの1巡目指名権トップ4プロテクション(2027年もトップ4プロテクションで、その後は2つの2巡目指名権に)

*ウォラはニックスとのトレードでつくったアチウワのトレード・エクセプションで吸収
*$10.7Mのトレード・エクセプション

ラプターズはこの3対1のトレードを成立させるために、ロスター枠をひとつ空けなければいけなかったので、クリスチャン・コロコをウェイブしています。

ここでチームごとにこのトレードについて詳しく解説していきます。

インディアナ・ペイサーズ

ペイサーズはパワーフォワードのポジションをアップグレードしたがっていたと言われていて、シアカムのチームへのフィットが良さそうだったのもあり、割と早くからシアカムを狙っているという噂がありました。また同じようにパワーフォワードのポジションを強化したがっているマーヴェリックスやキングスもシアカムを狙っているという情報も出ていました。

ただ、シアカムは契約が今年で切れるために、彼をトレードするチームは夏にシアカムを失ってしまうリスクも大きく、なかなかラプターズがオールNBAチームに2度選出された選手に求めていたリターンを出せるチームはありませんでした。簡単に言えば、レンタルになるかもしれない選手にラプターズの高い要求に応えられるチームがいないため、交渉が難航していました。そのため、ラプターズが妥協に入るトレード・デッドライン近くまで交渉は落ち着かないのではないか、またはシアカムは2/8を過ぎてもラプターズにいる事になるのではないかとも言われていました。

ところが、トレードデッドラインまで3週間もあるタイミングでペイサーズが動きました。

まず最初に思ったのは、シアカムのチームへのフィットではなく、シアカムは来シーズンもペイサーズに残るだろうという事です。

裏でシアカムと来季以降の契約を握っていなければ、ペイサーズもシアカムのシーズン半分のレンタルのために1巡目指名権3つを無駄にするようなリスクは冒さないでしょう。

さっそくESPNのWojが「ペイサーズはこの夏シアカムと再契約する事に自信を持っている」とか「シアカムは夏にペイサーズと再契約の話をしたがっている」とレポートしていました。

ペイサーズはシアカムにマックス、またはそれに近いサラリーを払う意思があると言う事です。ペイサーズは夏にがんばれば$30M後半のキャップルームを空けられて、指名権を犠牲にせずともシアカムと契約できる可能性がありました。

その場合はブルース・ブラウンをFAにして、バディー・ヒールドとオビ・トッピンのキャップホールドをあきらめ、マコネルをウェイブしなければいけません。いずれにしてもシアカムをゲットするならブラウンはキープできませんでした。ブラウンもこのようにトレードピースになる事は$22Mで来シーズンはチーム・オプションの契約をした時点でわかっていた事だと思います。

ヒールドに関してですが、ペイサーズのプレースタイルに彼のシュート能力が必要になっています。夏にシアカムを得てヒールドを失うよりも、今シアカムのチームへのフィットとヒールドを試して、うまくいけば夏にヒールドと再契約をする事を選んだのだと思われます。

ペイサーズの来シーズンのキャップは11人(シアカムのキャップホールド含む)で$153Mなので、タックスまでまだ$20M近く残っています。シアカムと契約をすればキャップももう少し空くはずなので、ヒールドとの再契約も十分可能になります。

ペイサーズが出した1巡目指名権に関しては、不作と言われている2024年の後半の指名権は必要ないとの判断でしょう。そうなるとシアカムのトレードで犠牲にしたのは実質的に2026年の1巡目指名権だけになります。FAでシアカムが出て行ってしまうリスクを考えると出し過ぎだと思いますが、The Athleticのシャムズによると、ラプターズは若いベネディクト・マサーリンやジェレイス・ウォーカーを欲しがっていたので、代わりにこの1巡目をつけたようです。スポーツネットのマイケル・グランジは、ラプターズがプレドラフトのワークアウトで気に入っていたアンドリュー・ネムハードもパッケージに含めるつもりはなかったとレポートしています。

ただ、ここで疑問になるのは、ペイサーズ以外に1巡目指名権を3つつけるチームがあるかという事です。

ペイサーズの場合はシアカム獲得をFAまで待ってしまうと、ピストンズやシクサーズのようなマックスが出せるチームがあるため、シーズン中に獲得しようと急ぐのは理解できます。しかし、30歳のシアカムに、彼が希望する1年目$42.6Mで5年のマックス$247M、または4年のマックス$190.8Mを払うつもりがあるチームと競合していたのでしょうか?マックスまでいかずとも$40M近くは払う覚悟はいるはずです。セカンドエプロンが本格的に導入される中、今そこまで確約ができるチームはないと思います。

そうなると、シアカムの市場で残るのはペイサーズだけとなり、すでにトレード・デッドラインまではどちらが折れるかのチキンレース状態になっていたはずです。トレード・デッドライン近くまで引っ張れば、2024年の1巡目2つだけでもリーグ中からのベストオファーになっていたかもしれず、2026年の指名権はキープできていたかもしれません。

しかも、Wojによると、シアカムはずっとトレード先にペイサーズを希望していて、タイリース・ハリバートンと継続的にコミュニケーションを取っていたそうで、その事はエージェントも知っていたはずです。また、B/Sのクリス・ヘインズも、シアカムとキングスとの間で何か悪い事があって、「今はそれは私の口からは言えない」とすら言っていました。エージェントはキングスが競合から落ちている事は知っていたはずです。シアカムもこれから所属するチームのアセットを守った方が将来的にプラスです。

このように、シアカムにとってペイサーズが最有力移籍希望先だったにも関わらず、なぜ彼らはもっと厳しくネゴらなかったのでしょうか?

考えられる理由はいくつかあげられますが、そのひとつに、シアカムをできるだけ早くペイサーズのシステムに慣れさせたかったというのもあると思います。特に今プレーオフ進出をかけて、キャヴス、ニックス、ヒート、マジックと争っているところです。早めにシアカムを入れて少しでも白星を稼ごうとしたのかもしれません。

また、ペイサーズのオーナーのハーブ・サイモンの性格も関係していると思います。サイモンはトレード交渉の駆け引きが好きではなく、2019年にバックスからマルコム・ブログドンを獲得する時も、RFAで彼を取る事ができていたにも関わらず、バックスへの敬意を示すためにサイン&トレードして1巡目指名権&2巡目指名権ふたつを差し出していました。今回もプレジデントのケヴィン・プリチャードにフェアに行けと伝えた可能性も考えられます。

肝心のシアカムのチームへのフィットですが、攻守で幅広く合いそうです。オフェンス的には、シアカムはファーストブレーク・ポイントがリーグ1位で、タイリース・ハリバートンはファーストブレーク・アシストがリーグ1位で、走るのは問題ないでしょう。ハーフコートのオフェンスも、シアカムにとってはラプターズとは違ってシューターがいるためやりやすくなると思います。ハリバートンとのPnRや、エルボーからのオフェンス、相手のディフェンスのスキームに対するカウンター、シアカムを5にしたラインアップの柔軟性など、オフェンスの幅がかなり広がりました。

ディフェンス的にも4にサイズが出たため、ヤニスやテイタムに対しても、これまでよりも良い守備が期待されます。クロージングでシアカムとニィスミスがフロントラインに入ればかなり良くなると思います。

ペイサーズのディフェンスは現在リーグ27位ですが、オフェンスはリーグ1位です。これでディフェンスがリーグ中間まで行ければ、プレーオフ進出はかなり現実的になるのではないでしょうか。

シアカムはペイサーズに残るか?

シアカムのエージェントによると、ペイサーズはシアカムを長期的にキープしたがっていると言っています。

またシアカムもペイサーズの事は気に入っているようです。シアカムが一緒にプレーしたい選手の1位はケヴィン・デュラントで、2位はなんとマイルス・ターナーだそうです。シアカムとターナーは攻守でもお互いの弱みを補完し合えて相性が良さそうです。

それに加え、The Athleticのサム・エイミックによると、シアカムはペイサーズからリスペクトを得ていると感じているそうです。ペイサーズのGMのチャッド・ブキャナンはホーネッツのGM時代に1巡目でシアカムを取ると真剣に検討していた程シアカムを高く評価していたそうですし、ヘッドコーチのリック・カーライルも去年のオールスターでシアカムに投票していました。シアカムがペイサーズを希望していた理由もわかります。

この先、ペイサーズが30歳のシアカムにいくら払って、どのようなチームづくりをするのかにも注目です。

トロント・ラプターズ

シアカムのトレードで、2019年に優勝した「We The North」チームのスターターが全員いなくなりました。まずカワイ・レナードとダニー・グリーンが抜け、ガソル、ラウリーもいなくなり、ヘッドコーチのニック・ナースも解雇され、2024年についにシアカムがトレードされました。とは言え、優勝が狙えない中、契約が切れるシアカムのトレードは去年からするべきだと言われていて、良くここまで引っ張ったと思います。

ラプターズはシアカムのトレードではOG・アヌノビーと同じようにスコッティー・バーンズにフィットする若い選手を求めていたそうです。しかし、結果は歩くトレード・エクセプションと呼ばれるブルース・ブラウンとウォラ、ルイスでしたが、1巡目指名権3つを得る事ができました。シアカムレベルの選手のリターンにしては良くやったと思います。アヌノビーのトレード記事でも紹介しましたが、同じようにFAになるカイリー・アーヴィンのシーズン中のトレードリターンは1巡目指名権ひとつ(スワップもありますが)、ジェームズ・ハーデンが2つです。不作と言われている2024年のドラフトの1巡目指名権後半が2つになりますが、殿堂入り確実のアーヴィンやハーデンですら3つは行かなかったので、これは良くやったと思います。

現実には3つと言っても不作と言われている2024年のドラフトの後半ふたつなので、合わせて1つと言ってもいいかもしれません。実は、ラプターズが昨シーズンにスパーズからヤコブ・ポートルをトレードした時に、スパーズに2024年の1巡目を渡した理由は2024年のドラフト候補選手は良くないと判断していたためだったそうです。今回は皮肉にも必要ないと言っていたドラフトの後半2つを得る事になりました。本心では尚更必要とは思っていないのでしょう。

状況的にもかなり不利でした。シアカムはラプターズのトレードパートナーにマックスを要求する事によりトレード先を操れていましたし、ラプターズも立場的にはFVVのように2年連続でスターターからリターンなしで出て行かれるのを恐れていたはずです。結果、トレードパートナーから足元を見られ、二束三文でのトレードになるリスクもありました。ペイサーズからネムハードやウォーカーのような有望な若手が取れずとも仕方ありません。その中で3つの1巡目指名権は良い仕事をしたと思います。

とは言っても、ここまで苦労することになったのはラプターズのプレジデントのマサイ・ウジリのハンドリングミスでしょう。これは去年のドラフトに向けてのトレードの話なのですが、もちろんラプターズは契約が切れてしまうシアカムのトレードを模索していたようですが、ラプターズとのスーパーマックス契約延長を狙っていたシアカム側が、トレード先に再契約はしないと伝えていたと言われています。それを知ったウジリは、シアカムがラプターズにとってのトレード価値を下げたと怒っていたと言われています。TSNのジョッシュ・レウェンバーグによると、ラプターズのフロントオフィスは夏にシアカムとのほぼ全てのコミュニケーションを切っていて、シアカムはそれに対して罰せられたと感じていたそうです。更に、マイケル・グランジによると、ラプターズはシアカムに、もし今年オールNBAチームに入れてもマックスは払わないと伝えていたそうです。

ウジリはトレード後に、記者会見でシアカムにコミュニケーションを切った事について謝罪していますが、割と酷い内情でシアカムのシーズン中のトレードは避けられなかったようです。

このトレードでラプターズのキャップは$156.1Mになり、タックスまで$9Mになっています。来シーズンはブラウンを切れば8人で$101.Mになり、キャップルームはマックス級のおよそ$41Mにする事もできます。

ただ、ウジリはトレードは終わりではないと言っているので、今後どうなるかわかりません。契約が今年までのゲーリー・トレントの状況はシアカムと同じですし、トレードで受け取ったばかりで来シーズンはチーム・オプションのブラウンもトレード候補です。個人的にはマックスに相応しいFAがいないのと、確約がないフリーエージェンシーに賭けるよりも、ブラウンやトレントをトレードして未来のスター選手獲得のための契約やアセットを得た方が良いような気もします。

ブラウンのエージェントはCAAなので、ニックスの噂も出ています。笑。マーク・スタインによると、ラプターズは少なくても1巡目指名権ひとつを求めているとの事。ブラウンはナゲッツでチームメイトだったMPJの弟から背番号「11」番を$10,000で買ったばかりですが、数週間後にはトレードされる事になりそうです。もったいないですね。

また優勝チームから唯一生き残っているクリス・ブシェーもトレード候補に入っているそうです。

ラプターズに必要なのは3から4でプレーできるウィングとポートルのバックアップ・ビッグでしょう。このトレード・デッドラインからドラフトまで多くの判断をしなければいけません。ウジリはバーンズのまわりにどんな選手を揃えて行くのでしょうか。こちらも目が離せないチームです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?