8月 母の誕生日(けっして忘れないこと)
「鍛えておかないとね。足はすぐ弱るから」
いつもこうやって体操をしているのと母は病院のベッドの上、伸ばした足を交互に持ち上げて笑った。
手すりや歩行器、点滴の器具まで支えにして病棟の廊下をくるりと一周、母はひとりでよく歩いた。ポータブルのトイレを嫌い、無理やり許可してもらっての「お手洗いのついで」の散歩だ。無理をしてでもしゃんと伸ばした背中は、私は生きてここに居るのだ、そう宣言しているようだった。
廊下の突き当たりの大きな窓には、吸い込まれそうなくらい奇麗な夕焼けが広