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公園の童話

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じいさん桜と公園の仲間たちの物語です。
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#桜

桜じいさんの話(「公園の童話」より)

その公園には、年寄りの それは立派な 桜の木があります。 花の頃になると、電車や車に乗って、遠くの町からも たくさん人がやって来て、 思い思いに 写真を撮ったり お弁当を広げたりします。 隣に植えられた若い桜は、そんな人々の桜を見上げる時の表情を見ると、 桜であることを誇らしく思うのでした。 * 若い桜がその か細い枝にやっと、かたい芽を少しつけた時、一人の老人が うつむいたまま通り過ぎました。 「桜じいさん、私には よく 解らない。もうすぐつぼみがふくらむのに

やさしい黒、やわらかな闇(「公園の童話」より)

 公園の秋も過ぎてゆき、じいさん桜のきれいに紅葉した葉もすっかり落ちてしまいました。 「なんだか寂しくなっちゃったね、桜じいさん」 立ち止まって眺めていく人もなくなった自分達の裸んぼの姿を少し不満げに見ながら、若い桜は言いました。 「やって来るのは 猫だけだ」  じいさん桜の幹は立派で太く、冷たい風をしっかり遮ります。葉を落としたこの時期には、そばに気持ちの良い陽だまりもできます。黒猫はいつもどこが公園の中で一等暖かいか知っていて、のそりやって来てはうつらうつら眠っ