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【詩】『飛び降りたかった誕生日、出来なかったの、16歳』

帰る場所が家しかないなんて、恐怖だ。

おとうさんはもうずっと居ないし
おかあさんは怒りながら帰ってくるんだろう
おにいちゃんは勝手に独り立ち
おねえちゃんは部屋の中で妄想だけを謳ってる

帰る場所が家しかないなんて、恐怖だ。

スクールカウンセラーに何が出来るの
わたしの今日を、どう救うの
わたしの今を、どう癒すの

親戚も遠くに住んでいるし
友達だって手一杯で生きてるし
先輩の正論はそれだけで痛いし
先生はお仕事大変そうだし
バイト先では他の悪口が盛り上がっているし

そのくせ 帰る先は 家しかない。

16歳の誕生日
靴も 靴下も すべて脱ぎ捨て
住んでるマンションの八階から

わたしは 飛び降りようとした

時刻は夕方

学校から帰ってきて
その足で
階段のぼった

階段の手すりに 両足乗っけて
身を乗り出した

体を徐々に傾けて
水泳の飛び込みをするみたいな
不格好な姿勢で

もうどうでもよくなってきて

風が下からごうと吹いて
ブレザーごと体を揺らす

あと少しで、実は儚くなれた

儚く飛び散れた

だからやめた
やめた
やめなくちゃいけなかった

だってわたしは

止めて欲しかっただけだから

泣きながら後ろから抱きついて欲しかっただけだから

やめてよ 生きてるだけでいいんだから
って

言って欲しかっただけなんだから

16歳のわたしは、
その時ゆっくり振り返る

だれもわたしを知らなかった

人はいなくて
風も通りすぎるばかり
雲の動き方が無関心そのもので
空の色すら白けていた

もはや涙も垂れない光景

わたしは疲れて

手すりから降りて
のろのろ
下の階へ足を進める

わたしはどこに行くのだろうか

分かりきっている

――帰る場所は家しかないんだから。

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