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★#2 なずなが普段している読唇のお話

TwitterのDMに質問を寄せてくださり、ひとつ前の記事にて、質問の回答を書かせていただきました。
読唇メインというが、想像つかないから教えて
 というふたつめの質問に、今日はお答えしたいと思います。

早いもので、もう6年ほど前の話。
次男が幼稚園に入園して、慣れてきたころ。
同じバス停に、次男の同級生で女の子がいました。今でもその女の子のお母さんと、よいお付き合いをさせていただいています。

園バスに乗り込んで、席に座った女の子が、お母さんに向かってなにかを話しかけたのです。お母さんは「窓越しに言われても、わからないよ」と困惑。

しかし、私は女の子が話した内容を読み取れてしまいました。
可愛くて笑ってしまいました。お母さんのこと好きなんだなと微笑んで。
「ね、『ママにおみやげ持って帰ってくるから、待っててね』と話していたよ」と伝えました。
「え、わかったの?口の動きで?しかもそんな長い文を?」とびっくりされました。

自然の多い幼稚園で、子どもたちは花や木の実を持ち帰ってくることがよくありました。

『ママにおみやげ持って帰ってくるから、待っててね』

「ママに(3文字)おみやげ(4文字)もって(3文字)かえってくるから(8文字)まっててね(5文字)」

瞬時に文字の数を計算しています。口が動いた数をとっさに計算しています。
1、「ま」の動きが2回動いたからママ。
2、「お」、から始まった4文字の持ち帰るもの、「おみやげ」を想起。
3、「ままにおみやげもってかえる」だけではなかったな。
4、「もってかえってくるから」に追加されたものとしては、お母さんと一時的に離れる子どもが言う言葉、「まっててね」だな、と推測をしています。

そのような形で、20秒以内に、読み取り完了です。

文字の数を数える、そういったやり方を教わったのは5歳の時です。
言語聴覚士さんと一緒に言語訓練していて、覚えたものですが、一生使い続けるスキルとなりました。言語訓練を始めたばかりの私に、「単語がいくつの音でできているか」「単語のどこに、何の音があるか」を根気よく教えてくださいました。

※太字が言語聴覚士さんです。
平仮名で書かれた、単語カードを見せながら。
「ひまわり」の「ま」は、何番目?
2ばんめ!
そう、なずなちゃん出来てる!「ひこうき」の「う」は?
3ばんめ!

すごい!!それじゃね、そのふたつの言葉の、ひまわりと、ひこうき、
どこが同じ?

「ひ」が、ひまわりも、ひこうきも、1ばんめ!
あとは?なにかおなじもの(共通性)ないかな?
ひこうきもひまわりも、4こ(4文字)あるよ?
そうだねえ、なずなちゃん、よくわかってる!


「単語がいくつの音でできているか」「単語のどこに、何の音があるか」
その教えを40年近く経った今も、大切に使い続けています。
単語の数、言葉の音を把握する力を「音韻処理」というらしいのですが、
音韻認識力の上に、語彙力をつけていくことで、「ことば」は強化されていくのでしょうね。
多くの人の口形のくせを把握、私自身に語彙がたくさんあることで、相手の話を読み取りやすくなります。

読唇が飛躍的に向上したのは、大学時代です。
中学時代は聴力低下で入退院。思うように勉強はできませんでした。大学で取り戻すかのように、一日に6コマ授業を入れていました。

今のように合理的配慮のない時代でした。
それでもノートテイクというボランティアがあり、私の隣で講義内容を書いてくれる、というシステムは一応ありました。
教授にそういうのを使っていいかと聞くと、
「君はなんのために大学にきたのかね」と言われました。
それに反論していいのだ、ということも知らなかった(笑)私です。

できれば、分かりやすい口形で話してくれる教授の講義を選び、机は一番前にいました。
先生に、「先生の講義を聞くにあたって、参考になる本を教えてください」と聞いて、図書館で借りて読んでいました。
一日5時間は勉強していました。講義を聞き(見え)やすくするために、専門分野の語彙力を高める必要がありました。実際に先生が講義で、最初の二文字を言った瞬間、いくつか単語候補が頭に浮かびます。読解力、推理力も鍛えられました。

友達とゆっくり大学の食堂で会話することも、息抜きになるようで、実はならない。友人と話す時間も、また読唇の訓練になるのです。

現在の私は、手話通訳士さん特有の「聴覚障害者に口形、はっきりゆっくり」で私に話されると、理解がかえって難しいです。
みなさんにはいつものように話していただいても、理解できる方かもしれません。(たくさん、聞き間違えますけど)
大学の講義、卒業後にしていた仕事は、1日に7人以上の健聴者の口形を見つめ続けることになります。
彼らは私に合わせて、ゆっくり話してくれるわけではありません。
そのスピードに、20年もかけて慣れていきました。
初対面の方だと、話し手の声自体、口形自体に慣れるのに、時間はかかることはあります。人見知りはしないけれど、声見知りはすると思っていただければと思います。

なずなの大学時代。青春、はありませんでした。(嘘だな。ええ、スキマ時間で恋愛はしてました。ただ毎日相手と会うようなキャンパスの恋はしたことありません。身が持ちません)
教授の読唇だけで6時間もしていれば、部活やサークル、バイトする気力はありません。疲れ切っています。読唇するのに、体力を使うため睡眠時間も確保していました。一日30時間なら自由時間があるのになと考えました。
口形を見続けたせいなのか、強度近視と乱視。常に緊張状態にいたからなのか、月経困難症を抱えていました。
なにかを得るために、なにかを失うということでしょうか。
友達と語り合ったりするなどの、人間らしい活動することも大事だったと、思います。接客業してみたかったな、資格を取る勉強したり…大学生として、普通に生きてみたかったなと思うことがあります。

これからの時代は、講義の内容が文字化されるシステムをすべての大学に配備されるとよいです。

障害者に対する合理的配慮を行うことが、教育機関や企業にとってあたりまえとなりますように。
私の後輩が、身体の負担なく学びを得られる世の中を歩けますように。



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