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世界でさいしょの木と木の国

宇宙が生まれ
地球が生まれ
長い長い年月がたち、
地球に木の国ができあがったずっ~とあとのお話です。
地球の一番高い丘に、世界でさいしょの木が立っていました。
そのおじいさんの木は、大きな大きな太いみきに、どこまでもどこまでも広がる傘のような枝を持っていました。
おじいさんの木がある丘は「幸せの丘」と呼ばれ、美しい森の中央にありました。
これはその世界でさいしょの木のつづきのお話です。


世界でさいしょの木と木の国


「ありがとう。杉の木さん。私が知らずに守ってきた木の国の仲間に会いに行きたくなったよ。その後は、幸せな国をさがしに行こう。さあー出発じゃ。」

おじいさんは、ワクワクしながら長い根を持ち上げ、さいしょの一歩をふみだしました。すると…。
「ドッドッドッシン!!」
大きな大きな音が幸せの丘にひびきわたりました。
その音にあわせ地球も大きく大きくゆれました。

「おっととと。そうじゃった。そうじゃった。私が動けば地球がゆれるんじゃった。そおっと、そおっとな。」
そう言うとおじいさんは、今度はそおっと、別の大きな根を持ち上げ、ゆっくり、ゆっくり地面に置きました。
「ドッドシン!」
やはり大きな音といっしょに地球も大きくゆれます。
「うっうん?これでもだめか。じゃあ。次はもっとしんちょうにな。」
おじいさんはひとりごとをいいながら、3歩目の長い根を持ち上げました。
「ドッシン!」
今度は、最初よりずうっと音もゆれも小さくなりました。
「おー!これはいい感じじゃないか。この調子、この調子。」
と、とても嬉しそうです。
おじいさんはニコニコしながら、また根を持ち上げました。

「この音はきっと、あの元気な木が生まれた、はるか遠くの南の国でも聞こえてるんじゃないかな?」
おじいさんの出発を見送っていた杉の木はふと思いました。
でも、杉の木にはそれよりもずっと最初から気になることがありました。
それは、おじいさんが3歩進んでも少しも前に動いていないことでした。
注意深く、おじいさんが楽しそうに根を動かす様子をかんさつしていると、杉の木はあることに気がつきました。世界でさいしょの木のおじいさんには立派な立派な根がたくさんあったのです。
「わかった!おじいさんは、根を全て動かさなければ、前に進めないんだ!」
そうです。たしかにその根がすべて動かなければ、おじいさんは幸せの丘を動くことができなかったのです。
杉の木は、おじいさんのたくさんの根を見ながら、

「幸せの丘を下りるまでいったいどれだけかかるのだろう?」

と思いました。世界でさいしょの木が動くということは、気の遠くなるような長い長い年月が必要で簡単なことではないことに初めて気づいたのです。
でも、当のおじいさんはそんなことを全く気にしていませんでした。
根が動くだけで嬉しかったからです……。

「このままおじいさんが動くたびに地球はゆれつづけるんだよなぁ……。」

ふと、杉の木は木の国の仲間たちを思い出しました。
いきなり大きな音がして、地球が大きくゆれ始めたのです。
木の国の仲間たちはきっとおどろいたにちがいありません。
「こりゃあ、大変だ、知らせに行かなきゃ。」
杉の木は居ても立っても居られなくなりました。

ちょうどその時、おじいさんは10歩目の根を持ち上げ、そおっと地面に置いた所でした。

「おじいさ〜ん。聞こえますか〜?」

タイミングよく杉の木は、おじいさんに話しかけることができました。

「うんん?
 おー杉の木くん!
 動くって楽しいなぁ。
 ちょうど10歩動いたから、少し休もうと思ってた所じゃ。
 やはり大きな根を持ち上げることは、年よりにはこたえるもんじゃな。」

おじいさんは、下の方に見える杉の木に答えました。

「そうなんですね〜。
 それじゃあ無理せずゆっくり休んでくださ~い、先は長いですよ~!
 おじいさ~ん、ぼくは一足先に幸せの丘を下りて木の国にもどりま~す。
 木の仲間におじいさんが会いにくることを伝えま~す!」
杉の木は前よりもずっと高くなったおじいさんに聞こえるよう、大きな声でさけびました。

「おーそれはありがたいなあ。杉の木くん、みんなによろしく伝えておくれ。」

おじいさんがそう言うとすぐに、杉の木はペコリとあいさつをして、急いで幸せの丘を下りはじめました。
杉の木が急いでいるのには理由がありました。
おじいさんが休んでいる間に幸せの丘を下りなければ、きっと自分は幸せの丘をコロコロ転がり落ちなければならないことがわかっていたからです。

一方、おじいさんか最初の一歩をふみ出そうとしたちょうどその頃、
おじいさんのおかげで平和になった木の国の木々たちは、いつものように小鳥や動物たちと会話をしながら過ごしていました。

そんな時でした。

「ドッドッドッシン!!」

幸せな丘の方からすさまじい大きな音がしたと思ったとたん、地面がグラグラ大きくゆれたのです。

木の国の木々たちは、あまりにも突然のゆれにたえることができず、あちこちにみなたおれてしまいました。
コロコロと転がりまわった幼い木もいます。
動物たちはあわてふためき、小鳥たちは空へ飛んでいってしまいました。
やっとゆれがおさまり、ほっと安心した木々たちは、
長い枝やふさふさの葉を持ち上げ立ち上がろうとしました。
しかし、若い木たちはしなやかなので、軽やかに立つことができましたが、背の高い木や太いみきの木はなかなか立ち上がることができませんでした。その時、

「ドッドッシン!」

2回目のゆれが起きてしまいました。
最初のような大きなゆれもそうですが、2度もつづくゆれをほとんどの木はけいけんしたことがありません。
若い木はなんとかふんばり今回はたおれずにすみました。
立ち上がろうとしていた背の高い木や太いみきの木は、そのままはいつくばり転がらないよう体を支えました。
「ドッシン!」……。
「ドッシン!」……。
その後も音やゆれはおさまることなくつづきました。

「地球に何が起こっているのだろう」
「このままゆれはおさまらないのだろうか」

木の国の木々は何が起こっているのか全くわかりませんでした。
木々たちはただ動かずじっとゆれがおさまるのを待つしかできませんでした。ちょうど10回ゆれた後でした。いくら待っても次のゆれはおこりませんでした。木々たちは、やっとゆれがおさまったのだと思いました。


背の高い木や太い幹の木、年老いた木、幼い木たちはなんとか立ち上がることができました。でも、また大ききな音とゆれがこないともかぎりません。
木の国の木々は、またたおれないように、とりあえず動かずじっとしていることにしました。


そんな中、美しい森の中をとても急いでどこかに向かっている木たちがいました。それは、木の国の古い木たちです。
幼い木が急いでいる古い木をつかまえて言いました。
「おじいさんどこに行くの?またゆれるかもしれないよ、動いたらあぶないよ……。」
幼い木はおじいさんが心配だったのです。
おじいさんはやさしく幼い木の枝をもとにもどしました。
「大丈夫だよ。これから広場に集まって古い木たちで話しあってくるからね。決まったことを後で知らせに来るから、安心して待ってておくれ。」
ニコリ笑ってそう言うと、おじいさんは急いで広場にむかいました。
木の国では、古い木たちは何かがおこると広場に集まって、
知恵を出し合い話しあいます。宇宙の実がふった時もそうでした。
そうやって木の国を長い間守りつづけてきたのです。

久しぶりに広場には大ぜいの古い木たちが集まりました。
「みなさんお久しぶりです!ご無事で良かった。」
木の国の一番古いクスの木がみんなにあいさつをしている時でした。

「おーい!みんなぁ。大丈夫かい?」

幸せの丘のふもとから、大きなさけび声が聞こえてきます。
みんなより少し背の高いイチョウの木が、広場に集まった古い木たちの頭の上にヒョッコリ顔を出し幸せの丘のふもとを見ると、杉の木が枝を振りながら急いでこちらに向かってくるのが見えました。
「みなさん。杉の木くんですよ。」
イチョウの木は、広場にいる古い木たちに伝えました。


杉の木は広場にとうちゃくすると、クスの木の前に歩みよりました。
杉の木は急いで走ってきたので「ハーハー」と息があらくとてもつかれている様子でした。
「だいじょうぶですか?杉の木さん。」
クスの木がたずねました。
「だ、だいじょうぶです。それよりもみなさんにお伝えしなければならないことがあります。このゆれのことなんですが……。」
「杉の木さんは、この大きな音とゆれの原因がわかるのですか!ぜひ教えてください。私たちはちょうどこのゆれについて話しあおうとしていたのです。」
「そうなんですか。話しあいに間に合ってよかったです。」


そう言うと杉の木は、少し急いで幸せの丘での出来事を全て話しました。
広場に集まった木々たちは、杉の木の話を聞いてとてもおどろいた様子でした。

杉の木が話し終わると、クスの木が広場の古い木たちに聞こえるように言いました。

「みなさん、杉の木さんの話は聞こえましたか?
私たちを守ってくれた世界でさいしょの木が、私たちに会いに来てくださるのです!とてもうれしいことではないですか!
しかし、ざんねんなことにその間、地球は長く長くゆれつづけるそうです。
原いんはわかりました。私たちはこのゆれとどう仲良くすればよいか方法を考えましょう!」

そうクスの木が言うと、広場に集まった木たちが次々に意見を言い合いました。
「この木の国は、世界でさいしょの木のおかげで伝説の国になり、平和に毎日を過ごすことができるようになりました。少しくらいゆれたとしても大丈夫です。わたしは平気です。」

背の高い杉の木とはちがって、幹がとても太い杉の木が言いました。

「だいぶゆれのタイミングもなれてきましたし、地球のゆれにあわせて私たちもゆれれば、きっと平気ですよ。」
ポプラの木も前向きな意見です。


そんな中、元気のない細いトチの木がぽつりと言いました。

「私は根がほそくてゆれるたびにたおれてしまうんじゃ。すでに枝が何本かおれてしまった。もしずっとゆれつづけるのなら、私の体はもたないかもしれんなぁ。」

「わたしも、枝がおれました。葉が多いのでバランスがむずかしくてすぐたおれてしまいます……。」

と、フジの木も言いました。
トチの木とフジの木のように枝が折れた古い木たちはたくさんいました。むしろ、杉の木やポプラの木のように立っていられる木の方が少なかったのです。


前向きな意見だった杉の木たちもだまりこんでしまいました。
しばらくだれも何も言いませんでした。
最初に口を開いたのは、木の国で一番さいしょに歩いた若い木でした。弱々しかった若い木も、今では立派な太い幹にふさふさの葉をたくさん持つ古い木に成長していました。
若い木は、みんなの前に出て話しはじめました。


「ぼくは歩きはじめたころ、おじいさんに助けてもらいました。だからおじいいさんに会えると聞いてぼくはとてもうれしいです。
あのころのぼくは、動かないままでは枯れて死んでしまうと思い、伝説の国を探すために根を持ち上げ歩き始めました。必要にせまられていたからです。でも、今は歩く必要がもうありません。だってここが伝説の国だから!
ですので、僕は決めました。僕はもう歩きません!」

広場にいる木々たちがみなざわつきました。

「もう歩かない?」
「歩かないと、ゆれにたえることとどう関係しているんだ?」

だれも、年老いた若い木の言っている意味を理解している古い木はいませんでした。そこで、クスの木が年老いた若い木に聞きました。

「もう歩かないとはどういうことかな?もう少しわかりやすく教えてくれないかい?」

年老いた若い木は、コクリとうなずくと、

「みなさん!根をまた地にしっかりはりましょう!
 そして、地球のゆれに身をゆだねながら、動かずじっとおじいさんを待ちませんか?おじいさんが何億年も幸せの丘で動かなかったように……。今度はぼくたちが動かずおじいさんを見守るのです!」

広場がシーンと静まりかえりました。
歩くことがふ通になっていた木たちは歩かないことの意味をすっかり忘れてしまっていたのです。
木はもともと動きません。根を地に深くはれば、地面から水や栄ようをきゅうしゅうすることができます。わざわざ湖に水を飲みに行く必要も、宇宙の実を食べる必要もないのです。木の国の木々はそんなことをすっかり忘れてしまっていました。

根をはればどんなゆれにもたえることができます。
おじいさんがどんなに地球をゆらしても大丈夫なのです。
そう、宇宙の実が降る前の木の国にもどるだけでした。

「おー。私たちはどうしてそんな大切なことを忘れていたのだろう。」

古い木たちは、歓声をあげました。
その昔、生死にかかわる危きに直面した木々たちは、そのかんきょうに合わせて自分たちを進化させてきました。
しかし、その進化が今はもう必要ない時代になっているのです。
歩くために使わなくなった根は細くなり、どんどんすり切れていました。
そのため転びやすくなる木が最近は増え、枝が折れている木がたくさんいます。宇宙の実の栄養が体に合わない木たちはどんどん細くなっていきました。木の表面から水を吸いとるので、木の皮がいつもしめってコケが生えている木もたくさんいました。
外見は美しい木のように見えてはいましたが、実は木の内部がけんこうな木は少なく、病気を持った木たちがたくさんいたのでした。

「そうだった、そうだった。そうしよう!」
「とても良い考えだ。さすが最初に歩いた木だけある!」
「根をはれば必要な栄ようがとれる!きっと元気になる木がふえるじゃろう」
「木の国のみんなに早く伝えよう。おじいさんが休んでいる間に、根をはらないとな」
「トチの木さん。きっと根がまた太くなりますよ」

口々に木々たちはしゃべりはじめました。
これでは時間がいくらあってもたりません。
あわててクスの木は広場に集まった古い木たちをだまらせました。
そして、今までになく一番明るく希望にみちた声で言いました。

「ではみなさん!
私たちは、おじいさんのおかげで、本来の姿を思い出しました。
これから私たちは動かない木にもどります。
 ですので、家族のそば、友達のそば、お気に入りの場所などよく考えて根をはるようみんなに伝えてください。おじいさんは間もなく動き始めるでしょう。その間に根をはるよう伝えてください。ではかいさん!」

こうして古い木たちは、四方八方、木の国へちらばり、世界でさいしょの木が会いにくることやそのゆれにそなえる方法について急いで伝えてまわりました。そして自分たちもお気に入りの場所に根をはりました。

こうして、木の国の木々たちはみな根を深くはり動かなくなりました。若い木も細い木も年老いた木もみんなです……。これで地球が大きくゆれても大丈夫、二度とたおれることはありません。そして、木の国の木たちはみな目をつぶりじっとおじいさんの11歩目を静かに待ちました。

杉の木はやっとほっとしました。
「ここならおじいさんが下りてきたときら、ぼくが一番さいしょに気が付くことができるから大丈夫……。」
そう言って幸せの丘が一番よく見える場所に根をおろし、ゆっくり目を閉じ
ました。
「これで、木の国の人々はみな大丈夫。
これからは、おじいさんが動くたびに気持ちよく
木の国々の木々はゆれるんだろうな。
まるで地球のゆりかごでねむるように……。
そのゆりかごは世界でさいしょの木がゆらしているんだよな。
今まで動きすぎた木たちが、ゆっくり休めるように。
きっと木の国の木々が目を覚ました時、
そこには宇宙の実がふる前の美しい森にもどっていたらいいな……。」
そう杉の木が考えている時でした。


「ドドドドッシン!!」

なぜか今までで一番大きな音とともに地球がゆれました。
おじいさんが再び歩き始めた合図です。
「おっとっと!」
と言って、笑っているおじいさんの様子が目にうかびます。
杉の木はくすっと笑いました。

杉の木は目を開け、木の国の様子を見わたしました。
木の国の木々は同じ方向にさらさらと緑の葉をゆらしていました。
だれもたおれることなくしっかり根をはってゆれています。
おじいさんが動いた音はしましたが、それ以外の音は何もしませんでした。とてもとても静かでした。

こうして木の国の木々たちはしばらくの間、静かにおじいさんを待つことになったのです。


つづく。

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