秘密の鍵穴
出先で偶然、映画『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』を見ることになった。
ご存知、自身の名を冠したブランドを立ち上げ現在も活躍しているトップファッションデザイナーさんの半生を描いたドキュメンタリー作品である。
当時の社会情勢、こと反政府活動を行う若者たちを映した古めかしい映像から、現在のパートナーとの出会いまで語られている。
残念ながら私はみすぼらしい自分であるため、ハイブランドであるそれに不見識であり、また正直「パンク」音楽にも興味を抱いていないので、まだまだシワの浅い脳ミソに多少の知識が増えただけで、訴求されることはなかった。
しかし、一点だけ揺さぶられる単語が出てきて、激しく動揺した。
『セックス・ピストルズ』という名前に。
『セックス・ピストルズ』とはバンドの名前。私はそのことしか知らない。あとは映画で知った、ヴィヴィアン・ウエストウッドと当時のパートナーがそのバンドをプロデュースしたということ。しかし、思い出すにはそれだけで十分だった。
昔も昔。10年近く前。そのバンドが大好きだという人間がいた。話が本当なら、この世にはもういないけれど。彼はとても苦しみもがきながら生きていた。懸命に。苦しんで苦しんで、病気で死んでしまった。その報告は自称弟さんから。
そんなことを、鑑賞中に降ってきた『セックス・ピストルズ』の一言で突如思い出した。驚いて目を見開いた。息が止まった。涙が一粒、こぼれ落ちた。
彼のことを知る術は今どこにもない。でも、そんな人間がいたという記憶はきっとこれからも私の中に生き続ける。
それだけ。そんなことがあったよというだけのお話。記憶の扉のおはなし。
あなたにも、最近ありましたか?何か記憶の鍵穴を開けられるような出来事。
もしあったら、二人で秘密のお話でもしましょうか。レモングラスの美味しいお茶をいただいたんです。一杯いかがですか?
ふふ。ちゅっ。
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