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『紅葉の巡礼』

"REGULATORS"
Regulators,
We regulate any stealings of his property
We're damn good too.
But you can't beat any geek off the street,
Gotta be handy with the steel
If you know what I mean.
Earn your keep
Regulators, mount up.


【記憶の糸】

 あれは、高校三年時、紅葉に町が彩られ始めたころのことだった--。僕たちは公園で「見てしまった」のだ。

 あの広大な公園で、市内で一番大きな公園で、観てしまった。何を見たのか、伝える前に、何をしていたのかをあらかじめ伝えたい。

【公園自警団】

 僕と友人とで--目的ありきで--同年の夏ごろから公園を徘徊していた。公園--公衆の場で性行為に及ぶ不届きものたちがいないか、確認するのが目的だ。

 居たら居たで、僕らは笑う。居なかったら居なかったで、公園の治安は安全。

 そんな具合に、外での性行為=青姦が、公園の風紀の良し悪しのバロメーターになっていたわけだ。

 友人は原付バイクにまたがり、僕は自転車で公園内を見守る。正義感も何もないのに。

 最初のほうこそ、「青姦を取り締まった!」「青姦を驚かせた!」など、ぬか喜びを感じていた。

 チクショウ--これが青姦カップルを見た時の僕の本音の声だ。

 というのも当時はまだ、僕はチェリーボーイだった。同年代かそれ以下のカップルが、未経験の僕に性の快楽を見せつけていると思うだけで、怒りのヴォルテージが頂点に達した。

 夏の終わりごろに盛りに盛るカップルたちは、往々にして青姦をするものと思いきや、僕らが気まぐれな徘徊を始めてからというもの、ピタッと居なくなっていた。

 それはそれでまた寂しいもの。

 僕らの自警効果があったのかもしれないし、ただ単にしなくなっただけなのかも。

 燃え切った花火の光を懐かしむように、終わりゆく夏の孤独を感じたのだった。

--チクショウ。

 居なくなったセミの鳴き声からコオロギのそれに変わるころには、男女の興奮も冷めてゆく。そう思い込んでいた。

【性欲の四輪】

 が、実はそうでもなかったようだ。場所を移しただけだった。

 寒くなったのだから学生は家でセックスを、大人は家かホテル、そして車でセックスをするようになったのかもしれない。それに秋になれば、高校生も自動車免許を持つようになるころだ。

 カーセックスをしている人たちのほとんどが大人で、中には高校生もいる--。そんな時期が秋口なのかもしれない。

 というわけで特にする理由もないのだが、公園の自警を続けながらも、僕たちは公園外の路上駐車されている車にも目を向けた。

 おおよそ五台の車が揺れるように並んでいた。エンジンがかかっていないのに、性欲に車は揺れていた。

 クロだ。

 念のため、行為に及んでいるか確認するために、僕らは動いた。性欲に揺れる数々の車のもとへ。

 アクセル全開だ。

 記憶が正しければ、五台中三台ほどはカーセックス犯だった。「お!」と、自転車に乗る僕が友人に目配せで合図を送ると、原付バイクにまたがる友人は「コラァっ!」と大声をあげ、ハイビームでカーセックス団を威嚇していた。

 友人はのちにしょっちゅうカーセックスをしていたのだけれども、それは別の話とする。

 車内でズッコンしているカップルからしたらたまったものではないのだろう--突然ハイビーム攻撃と大声の威嚇をされるなんて、理不尽すぎる。

 僕からすれば、手軽にチョメチョメする人間が当たり前にいることが理不尽なのだが。

 そんな具合に僕と友人とで、何曜日の何時にカーセックス軍団が現れるか、見当をつけていた。--月水金の23時ごろとか、そういった感じ。なかなかルーズな見立てだったが、意外と当たっていることもあった。

 集中的に取り締まり強化をしたせいか、性欲に揺れる自動車は減っていった。それはそれで寂しくもあった。

【目撃】

 冒頭の「見てしまった」もの--。これを語らずして、話を終わらせられない。確かに、公園と周辺の路上で挿れて出す不届きものは減った。やはり、僕らの自警活動の成果と言っても過言ではないのかもしれない。

 肌寒い秋風の服、とある日のこと--。盛ったカップルも去った公園の中で、タバコをふかしながら友人と、下らないことで盛り上がっている矢先のこと--。

 僕たちは目にしてしまった。

 白色の服装に身をまとった人たちを。一人、二人、といった具合に、木陰からベンチのほうに突然でてきた。人数は増え、4〜6人に達していた。

 彼(女)らは全身を白色にまとい、宙になにかをかざすように腕を上げていた。2008年ごろの話だ。白装束のパナウェーブ研究所を筆頭に、勢いづいた新興カルト教団が、じょじょに衰退していった時期。

 確かに現れても不思議ではない。しかし、僕は骨の髄まで恐怖に侵された。おそらく、未知のものやことに恐怖を抱くように、人間はできているのかもしれない。

 恐怖を覚えれば自衛ができるから。

 ここからの記憶は定かではない。僕か友人かが、驚きのあまり、声を発してしまった。それは相手をバカにしたり、威嚇するのとは、また別のたぐいの声--叫びに近かったと記憶している。

【今では】

 令和6年。

 平成に流行りをみせたと思える、超常現象などが科学で解明されてきている気がする。一方で、解明されない事象はいまだにある。その中間にミステリーなどが存在すると僕はみている。

 あの白色の集団は今どこにいるのだろう。平成半ばの、カルト信仰の名残りは色褪せないまま、今後も日本でみられるのだろうか。

 秋がちかづくと、一抹の寂しさといびつな社会をつい考えてしまう。

              (了)

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