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サイコパスバー「社会の扉」<シャンディガフ>

■男の「女々しさ」ほど見苦しいものはない。逆に女性の「雄々しさ」は見応えがあり現代社会とリンクしている。 筆者談


Bar「社会の扉」をOpenさせてから約半年の月日が流れた。

飲食店修行の経験がなく、ほぼ「独学」で挑んだ「飲食業」だったが、ジョウはアイディアを出しながら試行錯誤し、薄利ながら運営できる状態を維持していた。


そんなジョウのお店にも、少なからず「常連客」が出来ていた。

今回のエピソードはその「常連客2人」のお話しである。


ある平日の木曜日。

ジョウのお店に「常連客」と認識された1名の男性客と、もう1名の女性客がそれぞれ「おひとりさん」でお酒を飲んでいた。

この2人はお互い初対面だ。


しかし、マスターのジョウだけは2人の「プライベートな部分」を少し知っていた。


この男性客の名前は「オオイシさん」。

この辺の近くのマンションに住む「PCエンジニア」の仕事をしているややイケメンな28歳だ。

去年彼女と別れたらしい。

時間帯や曜日は不定だが、毎週1回必ず来てくれる「常連さん」である。


そして次にこの女性客の名前は「ホリエさん」。

毎日いつも決まって「夜の20時半」に来店しては一杯だけ飲んで帰る、同じく「常連さん」である。

年齢や職業は不明だが、おそらく年齢は20代後半だろう。

ルックスは何処か冷たく「クールビューティー」という表現がぴったりな美人さんであった。


ジョウは基本的に「他人の人生」に興味はない。


ただ「客商売」をやっている以上、お客と「表面上」は仲良く会話しなければならない。

その会話の内容から自然とその人の「プライベート」な部分に触れてしまう。

ジョウはたまにそれが「不快」に感じるときがあった。


オオイシさん
「マスター、ちょっといい?(小声)」

いちばん奥の「カウンター」のオオイシさんがジョウを呼ぶ。

ジョウ
「お呼びですか?オオイシさん。」

堅苦しい口調でジョウがオオイシさんの正面に立つ。

オオイシさん
「隅のカウンターで1人飲んでいる彼女、知ってる?(小声)」

どうやらオオイシさんは「ホリエさん」のことが気になるようで「異性」として触れ合いたい様子だった。


ジョウ
「はい、よく利用して頂いてますが。」

ジョウは「事務的」に返答する。

オオイシさん
「一緒に飲みたいんだけど、マスター仲介役になって貰えないかな?」

オオイシさんはまるで「肉食動物」のような眼で「ホリエさん」を観ていた。

ジョウは「クールな」ホリエさんと、「軟派な」オオイシさんを交じりあわせてしまうと、何らかの「トラブル」になると考えた。


ジョウ
「お言葉ですが、それはちょっと出来かねます。」

ジョウは「スパッ」と断った。

オオイシさん
「マスター、頼むよ!元カノに少し似てるんだ!」

オオイシさんがしつこくジョウに迫る。

そして女々しい。

ジョウ
「ですので、それは出来かねます!」

ジョウは少し口調を強めた。

ジョウはしつこい人間が嫌いであった。


それから数回ジョウとオオイシさんの「不毛なやりとり」が続いていたその時。


ホリエさん
「すいません、先程から会話が聞こえちゃってて。」「私でよかったら一緒に飲みましょう。」

隅のカウンターで座っているホリエさんが、意外にも一緒に飲んでも良いと言ってくれた。

ジョウはこの「不毛なやりとり」から逃れられ、ふと安堵した。


オオイシさん
「一緒に飲もう、飲もう!」

オオイシさんが覚醒したように元気になった。

そして気分が高揚してきたのだろうか。

オオイシさん
「マスター、彼女のお会計は俺が払います!」

オオイシさんが太っ腹な一面を見せてきた。

ホリエさん
「ありがとぅぅぅう!」

感謝の言葉を口にするホリエさんだが、なんだか少し「猫なで声」のようにも聞こえた。


オオイシさん
「ホリエさんかぁ、じゃあ、はじめましての乾杯をしよう!」

「乾杯!」


その後2人の会話は盛り上がった。

ホリエさんは意外にも「下ネタ」がOKな女性で、ルックスよりも「気さくな」感じの人だった。

いつもは1杯で帰るホリエさんだが、今日は「3杯」も飲んでいる。

お金を支払わなくていいという気持ちが、ホリエさんから「遠慮」というものを欠如させているのだろうか?

またホリエさんは「年齢」や「職業」等の「プライベート」な話は1つもしなかった。


時間を観ると夜の21時40分を回っていた。


ホリエさん
「マスター、最後にもう1杯同じやつ!」

ホリエさんは少し酔っぱらっている様子だった。

ジョウ
「かしこまりました。」

ジョウはホリエさんの飲んでいたグラスを手に取った。

オオイシさん
「ホリエちゃん、最後って夜はまだまだこれからだよ。」

オオイシさんはホリエさんとまだまだ「深夜まで」飲みたい様子だった。

オオイシさん
「じゃあ、LINE教えて?おごるからいいじゃん!」

しつこく迫るオオイシさん。


ジョウはその迫るオオイシさんを「静止」するかのように、ホリエさんのカウンターに頼まれた「カクテル」を置いた。


「ビール」に「ジンジャーエール」を割った清涼感あふれるこの飲み物。

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ジョウ
「おまたせしました、シャンディガフです。」


ホリエさんは急いでいるのだろうか?

このシャンディガフをなんと「一気飲み」して平らげた。

ホリエさん
「ごちそうさま。」「ごめんね、私この近くの託児所で夜間こども預けているのよ。」「いつもこのBarで1杯飲んで一息ついてから引き取りに行くの。」「22時までだから行くね!」

オオイシさん
「え?こ、こども?!」

ホリエさん
「そうなの、こう見えて介護職やってる35歳のシングルマザーなのよ。」「今日はごちそうさま、バイバイ!」

ホリエさんは言いたい事を言っては一方的に帰ってしまった。


オオイシさんはあっけにとられた表情をして顔を真っ赤にしていた。

ジョウの方はホリエさんが「35歳」という点だけを驚いていた。

そしてホリエさんのお会計は「チャージ料」含めて「¥3,850」だった。


オオイシさん
「なんだよぉぉぉ!」「クソッ!」

オオイシさんは「何か」を期待してしまったようだ。

オオイシさんはうなだれていた。

それを観ていたジョウだが、人の気持ちに「共感」できない体質をもっている為、ただただ静観するしかなかった。

オオイシさん
「マスター、なんか詐欺にあったかのような気分だよぉ。」

オオイシさんは心の整理がつかないでいる。

ジョウ
「そうですかね?」「私には分かりませんが。」

ジョウがそう言うとオオイシさんは足早に2名分のお会計を済ませ「やや千鳥足」で帰っていった。

外に出てフラフラと帰るオオイシさんを見届けながら、ジョウは店内に戻った。

店内は静かな心地よいBGMが流れていた。



しかし、これは「偶然のメッセージ」なのだろうか?

正に今を物語っている。


ホリエさんがいつも注文する「シャンディガフ」のカクテル言葉。


それは「無駄なこと」だった。


<シャンディガフ>終

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