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映画『野球どアホウ未亡人』めちゃくちゃいいやんケ

池袋シネマロサ。2週間限定での上映が始まった『野球どアホウ未亡人』を観た。つい1時間前のことである。

そして、俺はこの映画を、この監督を、応援したいと思った。なので、こうしてnoteにアンセムを残す。帰り道の埼京線の車内で。できることなら、より多くの人の目に触れてほしいという思いとともに。

かっけえポスターは1000円で販売されていた

作品の存在を知ったのは新作映画の公開情報をぼーっと眺めていたときのことだった。サムネイルで表示されるポスター画像の、周囲との明らかな違和感。どこか既視感のあるいなたいデザイン。俺が野球好きであることを差し引いても注目せざるを得ない強烈なビジュアル。

作品情報を見てみると、明らかに『野球狂の詩』(1977年)が下敷きになっていることがわかる。主人公の名前は”水原“夏子、所属することになるチーム名は多摩川“メッツ”ときた。この底抜けな明け透けさ。一方、そうした無邪気さとは裏腹に、スティルの写真(O JUN 撮影)は確り気合が入っている。

いい!


いい!!!

「(ジョンフォード的な投擲描写についてはさておき)ああ、これは、バランスも取れててセンスもいい監督の映画やろな」

そう思った。そしてチケットを取った。観た。冒頭、主人公・夏子のモノローグシーンを観た時点で、直感は確信へと変わった。

軽妙洒脱にほとばしる映画愛

物語の流れは、非常にシンプルである。

夫の賢一が亡くなり、草野球チーム「多摩川メッツ」の監督である重野に野球の才能を見いだされた夏子。そのことから、貞淑な妻であった彼女の、ごく普通の主婦としての生活は終わりを告げる。賢一の残した借金を返済するため草野球の投手を務めることになった彼女は、重野とともに激しい特訓を重ねるうちに、野球の快楽性にとりつかれていく。義妹の春代やプロ野球スカウトマンの古田ら一癖も二癖もある人物たちに囲まれ、夏子は歩みを進めていき、その果てに……

映画.comより

繰り返しになるが、物語はシンプル。そして荒唐無稽でもある。だからこそ、そうした物語をどう描写するのか、に監督の才覚であったり、趣向が立ち現れる。

俺が痺れた冒頭のモノローグシーン。

夏子はある本を読む。その本とは「“重”野」が自身の野球哲学をまとめて自費出版した『野球狂人万事快調』という本である。これは言わずもがな、蓮實“重”彦が書いた『映画狂人日記』が下書きになっている。夏子が音読する内容も衒学的で、遠回りで、実に蓮實感が強い。重野という男が、映画を通じて、「野球とは何か」を問い、問いかけ続ける姿勢からも、これは「映画とは何か」をラディカルに求める蓮實的態度に対する目配せに違いない。

※そして、本作における「野球」という言葉は、ほとんどの場合「映画」に置き換えられる。野球に狂う重野や夏子の姿は、監督が映画に狂っている姿勢が投影されているようにも思える……という具合に

シネマロサでは劇中で使用されていたと思われる小道具も

また、重野の盟友たる吉野という登場人物は、あからさまに黒澤明を連想させるルック。

そうしたキャラクター描写に限らず、演出の面でも往年の映画に対する愛がほとばしる。デ・パルマ……というよりは、むしろ、ノーマン・ジュイソン的なスプリットスクリーンであるとか、JLGを連想させるスローモーション、クエンティン・タランティーノが毎度用いるモチーフとしての緊縛……。それらが換骨奪胎されたクールなショットの数々。いやはや、これは、目が飽きない。……この監督……いいぞ……。

予定調和にならないように

凡百の映画作家であれば、明らかに違和感のある、大リーグボール養成ギプスめいたマシンを、PC的に扱って映画をまとめたりしよう(ようは、ギプスを女性が抑圧されている社会批判の記号として描いたり……)。しかし、『野球どアホウ未亡人』の監督はそうした盲目的なPCには無関心で、あくまで主人公の森山みつきを主体的な存在、不気味な欲望に忠実な存在として描き続ける。こうした姿勢も気持ちがいい。

他にも主演女優・森山みつきの素晴らしい(ミュージカルシーンは思わず相米慎二『台風クラブ』を連想させる瑞々しい演技!)し、水たまりを用いたようなクリエイティブなショットの数々、60分の作品にもかかわらずうねり続ける展開、忘れない日活映画への目配せ……。グッとくるポイントはとにかく数多い。

なんて書き連ねてきたが、(ポスターデザインから受ける、70年代の日活娯楽映画めいた印象の通り)本作は一般的な基準からみると「娯楽映画」であるし、その域を飛び越えて「バカ映画」に分類されるような作品である。気楽にゲラゲラ笑いながら観られる。エンタメとして完成している。さりとて、『悪魔の毒々モンスター』が単なるバカ映画の域に収まらない(それどころか至極ポリティカルな)作品になっているように、本作にも作り手が確かな映画作家たる痕跡が随所に残されているの…だ…。

こ……この監督……とんでもないんや……。

こんな奇怪な傑作が池袋シネマロサでの2週間限定上映(?)とは勿体なさすぎる。冒頭でも触れたとおり、できることなら、本作がより多くの人の目に触れてほしい。続報、朗報を待ちたい。(って…他でも上映決まってるのかよかったよかった)

Don't dream it. be it. be baseball……

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