通信制と全日制の違い(教員の視点)

私の勤める学園には、通信制課程を持つ学校(以下、通信制)と全日制課程を持つ学校(以下、全日制)とがあり、私は通信制で10年弱勤めた後、全日制に異動しました。

そろそろ異動して、3年が経とうというところなのですが、正直、まったく全日制に慣れない、というか馴染めない…というか…。

教員からの視点で通信制と全日制を語っている文章も面白いかと思ったので、今回はそんな感じで書いてみようと思います。

通信制を選択している人には、中学校に馴染めなかった人や全日制から転学した人も多いので、通信制がいいよ!!!となるのですが、それぞれメリット、デメリットあると思います(ちなみに私は通信制推しなのですが、それは自分が性格的に通信制の方が向いているからだと思います)。

まず、金の話から入ると、公立は全日制も通信制も金額はあまり変わりません(公立、安いです)。私立の場合は、トータルで見ると通信制の方が高くかかるところが多いです。広域通信制の場合は、本校へ毎年スクーリングに通う費用がかかります。また、塾等と併設の場合はダブルスクールでお金ががかかってきます。

次にシステムの話をします。正直な話、全日制に通っていた人からすると、通信制の仕組みはかなり衝撃的です。

そもそも前提として知っておいて欲しいのは、高校は単位制だということです。74単位を取ると卒業となります。この74単位の中には、「数学Ⅰ」や「公共」「体育」などの必履修科目と呼ばれる科目、それから「化学基礎」「音楽Ⅰ」などの選択必履修科目、そして、「数学A」「古典探究」などの自由選択科目があります。この辺について、詳しくは「学習指導要領 必履修」などの検索をかければ、出てくるので興味のある人は調べてみてください。

この74単位や必履修科目などは、全日制も単位制も違いはありません。じゃあ、何が違うのかというと、1単位修得に必要なことが違うのです。

全日制の場合、1単位を修得するためには35単位時間(1単位時間は50分)の授業を受ける必要があります。
全日制で学んだ人は、例えば、高校1年生のとき、週3時間行われる「数学Ⅰ」の授業を1年間受講し続けたと思います。定期考査等である程度の成績を修めれば、これで3単位修得となります。

じゃあ、同じ「数学Ⅰ」の3単位を通信制で修得するためには、どれくらいの時間が必要かというと、まず授業(スクーリングといいます)は3時間です。週3時間じゃなくて、3時間だけ受ければよいのです。
そして、レポートを12枚書きます。このレポートの形式については、細かくは定められておらず、各校に任されています。
最後に単位認定試験を行い、合格すれば、めでたく3単位修得となるわけです。

科目によって1単位修得に必要なスクーリング数は違うのですが、多くても体育の4時間です。

正直、そのくらいの時間で、学習指導要領で求めている内容をすべて担保できるかというと厳しいと思うのですが、でも、学習指導要領が、通信制はそれでよい!と言っているのです。すごくないですか?

つまり、通信制はかなり時間に余裕のできる仕組みなのです。
学習時間にゆとりがあるから、その残りの時間を自由に使える。例えば、何かの道を究めたい人は、そのことに使ってもよいし、バイトをしたい人はその時間もしっかり取ることができる。

もっと言ったら、学習に使いたい人は自分のペースで学びを進めることができる。例えば、レベルの高いところを受験しようと思ったときに、全日制に行ったら受験勉強に必要ない教科まで勉強させられるけど、通信制だと好きなだけ受験勉強できる。

めっちゃ良くないですか?通信制。
私は割と、世の中の子どもたちがなぜ通信制に行かないのか、なぞ、くらいに思っているのですが。

ただ、通信制の難しいところは、自由だということ。

例えば、私はこんなイメージを持っています。

全日制は栄養バランスのきっちり考えられた幕の内弁当のようなものです。中身はすべて決まっている。
出された弁当を好き嫌いを言いながらでも、ある程度食べるときっちり栄養は取れる。

通信制はビュッフェのようなもの。あれやこれや好きにとることができるけど、自分の健康管理も自分でしないといけない。

幕の内弁当が窮屈だと思う人もいれば、楽だと思う人もいる。
ビュッフェに憧れる人もいれば、何を食べればよいか分からず悩んでしまう人や、デザートばかり取って、栄養が偏ってしまう人もいる。

だから通信制の中には色々あって、ビュッフェ形式にしながらも、コンシェルジュが献立を立ててくれたり、ほぼ幕の内、みたいなところもあるのです。

ひと昔前なら、通信制みたいな学び方をしていると、かなり進路の幅が狭まりました。なぜなら、大学受験で問われることが幕の内弁当の中身についてだったから。

ビュッフェ形式で自分の好きな学びを深めていても、大学進学には結びつかなかったんですよね。

でもこれが、ここ10年でだいぶ変わってきたのです。
それは、大学が総合型選抜での受験生をかなり多くとるようになってきたから。

今や大学入学生全体のうち、50.3%が総合型選抜での入学なのです。

もちろん、総合型選抜の中には基礎学力を問う入試を課している学校もありますが、それよりも受験生の意欲やこれまで学んできたこと、自己表現力などが大事にされるようになってきているんですよね。


最後に、学習以外の面でも、全日制と通信制は大きく違います。

ざっくりいうと、基本的に通信制の方が自由で一人ひとりに手厚いです。
でもそれは、全日制が悪いというわけでもないんですよね…。

なぜ通信制が自由で一人ひとりに手厚いかというと、まず授業の量が違います。全日制の先生、授業が多いのですよね…。
そして、生徒の空きコマに話せるというのも通信制の魅力です。全日制は生徒は毎日来ているのに、みっちり詰まっていて生徒と話せる時間がない…。
そして、毎日来る系の通信制じゃなければ、学校に来ている生徒自体の数も少ないのです。
自由だというのもそこに繋がります。
どうしても全日制は大人数を一元管理しようとすると、規律をつくらざるを得ないんですよね。私の肌感覚では、個人の自由を尊重しつつ学年運営できるのは、2クラス80人くらいまでだと思います。

あとは、通信制は自由なだけに自己責任だというところもあるんですよね。公立の通信制などは留年率や退学率が高いところも多いです(通信制は単位制なので、留年という言い方は無いですが)。

通信制は友達ができにくいみたいな話もあるんですが、別に学校というコミュニティじゃなくても友だちはできると思うので、友だちが欲しいと考えたときに積極的に動けるようになればいいんだと思います。ひとつの箱の中に押し込められて、友だちごっこやってるよりは、その方がよっぽどいいと思います。

色々書きましたが、そして誰が読むのか分かりませんが、正直、私は通信制の方がおすすめです。ただし、入学までに自律できる力を培っておくことが必要だと思います。そうしないと、易きに流れたときは、どこまでも流れていく恐ろしさが通信制の自由さにはあります。全日制には防波堤があるので、そこは全日制の安心材料といえるでしょう。




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