読書感想文『占星術殺人事件』

島田荘司『占星術殺人事件』

私は綾辻行人の館シリーズを順番に読んでいて、いま暗黒館まで読み終わったところだ。
この館シリーズで探偵役を務めている「島田潔」が、島田荘司と彼の作品の探偵役「御手洗潔」から名前を貰ったことをあとがきか何かで知ったので、聖地巡礼がてら拝読しようと思い、今回ようやく手に取った。

まず感想としては非常に読みやすかった。

事件に関係した人物の手記の章と、謎解きをする「今」の章があるが、この「今」が非常に軽快で、小気味良い。
なぜ軽快なのだろうと理由を考えると、会話(セリフ)がめちゃくちゃ多いからではないか、と思った。
つまり御手洗と石岡のやりとりがかなり多くて、セリフも長く、あまり余計な描写のシーンがない。
なんとなく、演劇の台本を読んでいる気持ちにもなった。
ふたりのやりとりはクスッと笑えて、私は結構好きだった。

京都で石岡と御手洗が別行動をしていた数日間、早く合流してほしいと思ったほどだ。

敬語じゃない関係が新鮮なのかもしれない。
こういう探偵小説は、なんとなく、ホームズ役に対してワトソン役が敬語を使っていることが多い気がする。
私はそこまで多くの探偵小説を読み込めているわけではないので、実際どうか分からないが…
少なくとも私には新鮮だった。

それと、御手洗の嫌味っぽい物言いも面白い。
たとえば、ふたりが女性について語っていたときの会話はこうだ。
「君は女性というと、みんなそんなもんだと思ってるらしいな。そんなの女性に対して失礼じゃないか」 
「女というとすぐ極端に控え目で、貞淑な人形でなきゃ駄目だと思い込んでいる男たちより失礼かね?」 
「…………」 
「徳川家康とエア・コンについて議論したら、たぶんこんなふうに空しいだろうな」

徳川家康とエアコンについて議論するところを想像して、笑えた。
どういう組み合わせだよ。なんでこれを例に選んだんだ。作者は天才かもしれない。

トリックというか、謎解きについては…
私は犯人の年齢が明かされるまで何も分からなかった。
この作品は読者への挑戦というテイで書かれているから、当然私も最初からいろいろ推理しながら読んだ訳だが(そういうテイで書かれていなくてもいつも推理しながら読んでいるが)、結局いろんな情報に踊らされた。
石岡と同様、つくづく自分の頭が平凡であることを思い知らされたわけだ。

小説は最後に犯人の手紙を載せるという形で締められているが、この手紙の内容についてはいくつか気になる点があった。
しかしこれはおそらく読者の想像に任せる、ということなんだと思う。もしくはどこかにヒントがあるのか?

あとは最後に、小説の本筋とは外れるが、感じたことを記録しておく。
作者のデビュー作ということもあってか、描きたいものを詰め込んだ感があるな、と思った。
邪馬台国の謎、戊辰戦争で実行されなかった計画、シャーロックホームズの人間くささについて…等。
きっと作者が興味がある領域を、御手洗に語らせるという形で表現しているのかな、と。

あとは幕末の埋蔵金伝説が出てきて、おぉ〜ゴールデンカムイ…と思ったりした。
本や漫画や映画などにたくさん触れると、こう、繋がる部分があって、知識が増えていったり、ひとつの物事に対する様々な解釈が知れてのが面白いなと思う。深い人間になれる気がする。完全に自己満だが、自分を好きになれる要素が増えるのは良いことだろう。

ちなみにゴールデンカムイを読んだ時は、「この人、館シリーズ読んだのかな」と思う場面があった。たしか建物に仕掛けがある、みたいな説明のところだったと思う。
別に建物のからくり仕掛けが、綾辻行人の専売特許というわけでもないし、普通に建築の分野では「昔はよくあった」という事実として知られているだけなのかもしれないが。
綾辻行人も野田サトルも、それを作品にちょっと要素として入れてみた、みたいなことなのかも。前者にいたってはちょっとではないが。

話が逸れてしまったが、私はいろんな意味でこの小説を楽しむことができた。
あとがきを読んだら、この作品が当時の探偵小説界に激震が走り、「新本格派」登場の引き金になったと書いてあった。
もちろん探偵小説にいろんなブームや変遷があることは知っているが、いったん今は深入りしないことにしている。
小説を純粋に楽しみたいからというのは建前で、ジャンルや歴史まで深入りしたら沼に足を取られて出られなくなりそうだからだ。
休日だけじゃ足りないし、在宅勤務を良いことに仕事中も調べたり読んだりしはじめてしまう。

今はまだ理性を保っている。

とりあえず次は『斜め屋敷の犯罪』を読もうと思う。明日は日曜日なのでセーフ。

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