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彼は私を見上げて、そして。

ハイヒールを履かない人生でした。

スーツを着るような仕事ではないので、出勤の時はいつもスニーカー。
普段の服装もほぼスニーカー。
冠婚葬祭ではフラットか、限りなくフラットに近いローヒールのパンプス。

理由は簡単。背が高いから。
学校、職場、友人との集まり。
大体のコミュニティで私は大きい方だった。
女性の中では勿論、下手したら男性より大きいこともある。
ヒールなんて履いたらでかすぎて目立ってしまう。
そんなわけで自然と敬遠してたのだった。

2ヶ月程前のことだっただろうか。
コンビニに立ち寄った私はとても背が高い女性に遭遇した。
見た感じ、175cmはゆうに越えてる。
モデルさんかしらと思いながらよく見ると、彼女はハイヒールを履いていた。
ああ、そういうことかと納得しつつ、それでもまだ彼女から目が離せなかった。

狭いコンビニ内で、彼女は目立っていた。
えらい大きいねえとおばさん達のヒソヒソ声も聞こえた。
それでも彼女は背筋を伸ばして、堂々としていた。

カッコいいな、と思った。

恐らく彼女の本当の身長は私より少し高いくらいだろう。
私がヒールを履いたところであんな素敵にはなれないけれど(顔もスタイルも年齢も違いすぎる)、初めて高いヒールを履いてみたいと思った。


もしもヒールを履くなら、一番に見て欲しい人がいる。
飴さんに「もし私が高いヒールを履いても一緒に歩いてくれる?」と聞いたらニッコリ笑って「ええやん。俺、見上げてみたい」って。
いとも軽々と背中を押してくれた。

数日後、靴屋さんで真っ白なサンダルを買った。
ヒールは7cm。
こんな高いヒールの靴を買うのは勿論初めて。
ワクワクした。


が!!


購入してすぐ、諸事情により私と飴さんは会えなくなった。
「諸事情」は私側の都合であり、会えない期間は多忙と疲労を極めていたのでヒールどころかお出掛けする余裕もなく。
当然サンダルの出番はなかった。


そして先日。
ようやく履く日が来た。
以前誕生日プレゼントで貰った服を着て(これも飴さんの前で着るのは初めて)、サンダルを履いて一緒に歩いた。
ショーウィンドウに写る私たちを横目で見る。
手前に写る飴さんと、後ろから頭が飛び出している私。
今までの私なら背中を丸めて少しでも小さく見せようとしてただろう。
だけどこの日は何だか嬉しくて、背筋を伸ばして堂々と歩いた。
あの日見た、彼女のように。

私と飴さんは同じ身長で167cmである。
彼は175cm近くなった私を見上げて、そして
「いつもと目線の位置が違うな。これもいいなぁ」と笑った。


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