見出し画像

蓄積されたノウハウとAIで交通渋滞に挑む:「AI渋滞予報」をリリースしました

はじめに

こんにちは、しろくまと、Heavy metal is very very healthyと、サバ缶ほうれんそうと、デルタです。今回の記事はこの4名でお届けします。
ナビタイムジャパンでiOSのアプリ開発・AIによる研究開発・渋滞情報の配信や予測を担当しております。

今回は当社が提供している『渋滞情報マップ by NAVITIME』というサービスで新たにリリースされた「AI渋滞予報」機能について、機能の詳細と背景にある技術についてお話します。

「交通渋滞」という社会課題に挑む

ナビタイムジャパンでは、従来から交通渋滞を移動の課題ととらえ、ユーザーが渋滞を事前に回避できるよう渋滞予測の精度向上に取り組んでまいりました。

2023年4月21日にリリースした「AI渋滞予報」は、高速道路上でよく道路混雑が発生する全国100区間の朝7時から23時までの渋滞を予測し、各区間がいつもよりも混んでいるかをグラフや地図上で表示する機能です。

精度の高い渋滞予測や、渋滞予報の提供を通じて、ドライバー自身の安全で快適な運転をサポートするとともに、それが移動の分散につながり交通集中が少なくなることで、社会課題の解決にも貢献できればと考えております。

さらに詳しい機能説明は、当社プレスリリースをご覧ください!

「AI渋滞予報」機能の概要

「AI渋滞予報」は、天気予報のように混雑度合いによって色が変わる地図と、渋滞度合いによって細かく色分けされたグラフで、前述の「よく混雑が発生する全国100地点」の混雑傾向を地図上で一目で確認できることが大きな特徴です。

特に、グラフ機能にこだわり「いつもよりどれくらい混んでいるか」が見やすいように、いつもの渋滞度合いと予測渋滞度合いを一つのグラフで確認できるようになっています。
さらに、渋滞度合いによって青・黄・赤と3段階に色分けすることで混雑度合いの変化をひと目で確認できます。

もちろん「渋滞が何km続きそうか」という予測渋滞長も1時間ごとに確認できますので「この道路の通過に何分かかりそうか」という予測も立てることができます。

蓄積された知見をもとにAIモデルを開発

AIの開発にあたっては、これまで長年培ってきた渋滞予測や道路交通情報などの知見を生かしています。
複数の機械学習やニューラルネットワークモデルから、渋滞予測の特徴にあったモデルを独自に選定し、その組み合わせ方やパラメータチューニングによって、該当区間の前日の推移だけではなく、他の区間の相互関係も考慮して予測結果を判定しています。

具体的に採用したモデルは以下です。

  • K-means

  • GBDT

  • LSTM

  • LSTNet

K-means、GBDTは分類問題に強い機械学習のアルゴリズムでこれを時系列データにあてはめた形で利用しています。一方、LSTMとLSTNetは時系列データを扱うことに特化したニューラルネットモデルです。

特に、ニューラルネットモデルに関しては学習に時間がかかる性質のものなので、対象区間ごとにAIモデルを開発するのではなく、ネットワークを多変量に対応させることでAIモデルを1つに集約することに成功しました。
これにより、開発の速度も上がり運用工数も抑えることができました。

リリース後も精度改善が見られる

本機能がリリースされた2023年4月21日(金)から2023年5月8日(月)までの精度を集計した結果を紹介します。

一言で4月21日から5月8日までといっても、その間には予測が良くなったケースもそうではないケースも両方あることが想像できます。また、どの道路を予測したかによっても、精度改善の幅には差があることが予想されます。

そこで精度検証では、
18日間 ✕ 予測対象の約100区間
の精度を個別に計算し、その分布を比較することにしました。

精度指標には、時系列予測の代表的な指標であるRMSE(Root Mean Squared Error)を使用し、実際の渋滞長と予測された渋滞長がどれくらい乖離しているかを計測しました。

RMSEの計算式

計測の結果、今回リリースしたAI渋滞予報の精度指標の分布が、従来の予測技術による予測技術よりも、分布の中央値で約15%改善していることがわかりました。

これはリリース時の検証(2023年1月1日-2023年1月31日のデータを使用)したときの35%という数値よりは低い数値ですが、(後述するように)GWという特殊日を多く含んだ期間ということを踏まえると、精度改善として手応えがあると考えております。

予測精度の分布
変化がわかりやすいよう対数表示にしました

個別のケースでも、従来よりも実際の渋滞長に沿った予測ができるようになった(予測が改善した)事例を確認できています。

予測が改善した事例

このように精度改善を達成できた要因の1つに、近年のAI研究の発達があります。
これにより、周期性や複数時系列の相互作用を加味したAIモデルの作成が可能となっています。渋滞長のデータはこういったAIモデルにマッチするため、より高精度かつ先の時間までの渋滞予測が可能となりました。
しかしもう1つの要因として、単に世の中に出てきた・主流のモデルを選択するだけではなく、「いかに使っていくか・組み合わせるか」という選択ができたことが挙げられます。そしてここには、前述したような交通や社会の課題に向き合ってきたナビタイムジャパンの長年の蓄積が活かされていると考えています。

今後の展望

最後にAI渋滞予報機能のさらなる精度改善予定と、その他当社の渋滞予測に関するAI利用についてなど今後の展望をいくつかご紹介します。

現在AI渋滞予報機能で使用されている渋滞長予測モデルについて、予測が困難な場合があるパターンとしては主に以下の2つがあります。

  • 大型連休の予測精度

  • 突発的な事象への対応

大型連休の予測精度改善

1つ目は祝日、特にGW・お盆・年末年始等の大型連休の予測です。

今回のモデルは約2年間分の渋滞長データを入れていますが、連休に関してはデータの量がまだまだ少ない状況です。
前日の渋滞傾向からある程度は予測することが可能ですが、普通の土日と比較すると精度が低くなってしまいます。

2023年度のGWでも全体的な精度改善は確認できましたが、普通の土日の予測より精度が落ちてしまうケースがありました。

GWの午前~昼の渋滞を予測できなかったケース

ですが、祝日・曜日(月~日)・週末かどうか(土 or 日)・大型連休(3連休以上)かどうか・大型連休の初日かどうかといった特徴データを追加で学習させることで2023年度のGWでも予測精度が向上することが既にわかってきています。

また、予測の更新頻度を増やすことも、改善として有効です。
現状は午前6時までの渋滞傾向をもとに1日に1回予測を行い、当日23時までの予測をしています。しかし、実際には渋滞が発生するのは午前7時以降のことが多いです。

そのため、お昼前や午後などに予測の更新を増やすことで、当日午前中の渋滞の傾向を取り入れて、それ以降の予測の精度を上げることができます。
例えば大型連休の午前中にどこかの観光地へ向かう車が、いつもより増えた際に、その傾向を取り入れて午後の帰りの渋滞を予測する、といったことが可能になります。

突発的な事象への対応

予測が困難なパターンの2つ目は突発的な事象の予測です。
突発的な事象とは、事故や急な天気の変化、周辺で行われるイベントなど、学習したデータのパターンにない原因・時間帯による渋滞の発生を指します。

事故による突発的な渋滞が予測できていないとみられるケース

こちらは事故・規制データや、天気・イベントデータを特徴量に追加することに加えて、大型連休の予測精度改善でもご紹介した予測の更新頻度を増やすことで対応ができるのではないかと考えています。
また、ナビタイムジャパンが提供しているカーナビサービスのユーザーのログから集計した交通量データも特徴量に加えることでさらなる精度改善が期待できます。

カーナビ経路探索へのAIモデル反映

AI渋滞予報機能以外の渋滞予測への応用として、カーナビでの経路探索に今回AI渋滞予報でリリースした手法と同様の手法を用いたモデルを取り入れることも検討しています。

これにより、カーナビサービスで経路を検索した際表示される、「目的地まで○○分で到着します」といった所要時間の予測がより正確になるという効果が見込めます。

さいごに

ご紹介した事例の他にもナビタイムジャパンでは様々なコンテンツの渋滞予測の精度向上についてAIを用いて取り組んでいく予定です。
今後もより快適な移動のサポートができるように努めていきます。

最後までお読みいただきありがとうございました。