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ナビタイムのAI事故予測で旅行業界の交通事故を防ぐ

はじめに

こんにちは。shishamoと鯖缶ほうれん草です。ナビタイムジャパンで『行程表クラウド』の開発・運用(shishamo)とAIやコンピュータビジョンを用いた研究開発(鯖缶ほうれん草)を担当しています。

交通事故のない世界は誰もが願うものですが、当社では少しでもそれに近づくため、日々研究開発を続けています。
その中で、このたびAIによる交通事故リスク予測の成果『行程表クラウド』に登場します。
この記事では、1/31(火)にリリースいたしました「交通事故AI予測マップ」についてお話いたします。

旅行業界の抱える「交通事故リスク」への課題

『行程表クラウド』とは、旅行会社や貸切バス事業者向けのSaaS型Webサービスです。ナビタイムジャパン独自のプランニング・大型車対応のナビゲーション技術などを活用し、個人・団体旅行・MICE等における行程表作成をサポートいたします。
※詳細につきましては LPサイト も是非ご覧ください。

『行程表クラウド』が解決したい問題の一つに「貸切バスが通れる道路を調べるのが大変」という課題があります。
車高・車幅・大型車規制などの遵守すべき規制の考慮に加え、お客様を乗せた観光バスで安全に通行可能かどうかも確認する必要があります。地図上には表現できない交通量や道路の周辺環境は、ストリートビューを駆使して確認することもあるそうです。

ただ、非常に残念なことですが観光バスでの事故は度々発生しています。昨年は山道の下り坂で観光バスが横転してしまう悲惨な事故もありました。
令和3年10月からは国土交通省から官民連携した貸切バス運行の安全確保対策への呼びかけが継続的に行われるなど、業界的にも交通安全に関する取り組みへの関心の高さが伺えます。

『行程表クラウド』でできることはないか、そう考えたときに動き出したのが「交通事故AI予測マップ」です。

「交通事故AI予測モデル」

今回のリリースでは、先日ニュースで報道された事故の現場付近でも、危険であることが予測できています。
AIによる事故予測をどのようにして作成したのか、詳しくお話します。

交通事故をAIで予測する

警察庁が事故データを公開しています

交通事故をAIで予測するには、まず「いつ・どこで・どんな事故が起こったか?」というデータが必要です。
警察庁は、交通事故統計情報のオープンデータを公開しています。このデータでは、2019年から2021年に起こった事故 (負傷や死亡をともなうもの)が位置情報付きのリストになっています。

このデータを利用して道路や交差点ごとに事故件数を集計すれば、危険な地点をあぶり出すことができると考えられます。

事故件数でなく潜在的な危険度を予測しました

しかし当社は、単純な事故件数の集計でリスクをはかるだけでは不十分と考えました。
なぜなら、ある地点の事故件数が多くても、危険というよりは単純に交通量が多いだけの場合もあるためです。これでは、あまり車が通っていないけれど、実は危険が潜んでいる道路のリスクが低く見積もられてしまいます。

そこで、
「交通量1台あたりの事故件数が多い地点の特徴を学習させれば、潜在的なリスクの高い地点を予測できるだろう」
という仮説のもと、AI予測を進めることにしました。

この仮説は、交通量が少ないにも関わらず事故の件数が多い箇所は、道路の形状などの何らかの原因で潜在的に危険となっており、原因に注意したりその地点を回避したりすることで事故の防止につながる、という考え方です。

単純な事故の件数なら、交通量や道路の種別から簡単な統計モデルで予測することもできると思います。これは、交通量が多いほど事故の件数が多いという、はっきりした量的な関係によるものです。
その一方、潜在的な事故リスクの高い・低いを予測することは、道路の形状、ユーザーの走行実績、その他の状況など、質的な関係が複雑に絡み合っていることが考えられます。その複雑な関係を捉えるために、AIでの予測が有効であると考えています。

ナビタイム独自のデータをAIに投入しました

道路の交通量がどれくらいなのかを計測するには、膨大な時間と費用がかかります。
しかし幸いにも、当社には『カーナビタイム』や『NAVITIMEドライブサポーター』などのユーザー走行実績データがあります。
もちろん、全てのドライバーが当社のユーザーではありませんので、この走行実績は実際の交通量とは一致しません。
しかし、当社のユーザーが特定の道路だけに偏っているということは考えにくいため、走行実績が多いほど実際の交通量も多いと考えることができます。
そのため、交通量の代わりにこの走行実績を事故件数と組み合わせてAI予測の材料にしています。

『行程表クラウド』では、実際の事故と潜在的なリスク予測結果を区別して地図で確認することができます。

実際に事故が起こった地点
潜在的な危険度の高い地点

こうして比べてみると、潜在的なリスクの高い地点と事故の起こった地点が異なっていることがわかりますね。

車種ごとの潜在的なリスクを予測しました

交通量によらない潜在的なリスクをAIで予測したことにより、まだ実際に事故が起こっていない地点や、新規開通などでまだ1台も車両が通行していない地点でさえも、危険かどうかを予測することが可能となりました。
特に、普通車は通っているけれど、大型車はあまり通っていない、通る前に危険度がどれくらいか知りたい…!というユーザーのニーズがあると考え、「乗用車全て」に加え、「大型車・中型車・準中型車」と「普通車・軽自動車・ミニカー」での危険度を分けて予測しました。

大型車・中型車・準中型車の危険予測結果
普通車・軽自動車・ミニカーの危険予測結果

「どれくらい危険なのか?なぜ危険なのか?」にこだわりました

ひとくちに「ここは事故の危険がある地点だ」といっても、それがどれくらい危険なのかはさまざまです。
そのため、AIが出力するリスクのスコアを用いて、危険な地点の中でも特に注意すべき地点はどこなのかをドライバーに伝える機能を実現しています。

危険レベル「高」「中」「低」に出し分けています

さらに、交通事故のリスクの予測ができても、「なぜ危険なのか?」ということがドライバーやバス事業者に伝わらなければ、事故を回避するための行動につながりません。
そこで、どの変数がリスク予測に役立っているのかがわかるAI手法を採用し、地点の詳細情報として危険な理由や取るべき行動がわかるように実装しました。

地点の詳細をクリックすると、取るべき行動が提案されます

今後の展望

現在、事故予測を表示できるエリアは「東京・神奈川」のみですが、今後対応エリアを日本全国に広げていく予定です。
また、AIの精度改善も欠かせません。
危険箇所をさらに当てられるモデルや、より納得のいく危険な理由が出力されるモデルを追究していきます。
この試行錯誤を通じて、ドライバーやバス事業者に危険や回避策がより伝わる機能拡張を目指します。

『行程表クラウド』の『交通事故AIマップ』によって、悲しい事故の削減に貢献できればと思います。