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経路を吟味するというお話

こんにちは、YaaSです。ナビタイムジャパンでアプリケーションのバックエンド開発やMaaSに関わる渉外業務を担当しています。ちなみに、この記事が公開された今日、めでたく42歳になりました(40過ぎたら誕生日迎えてめでたい気持ちになるかというはさておき…)。

はじめに

ナビタイムジャパンの技術とか、開発秘話などはすでにNAVITIME_Techの各記事でご覧になっているかと思います。今日はその資産を使うとこんなルートが出るんですよ、というのを切々と書いていきたいと思います。

今日ご紹介するのは、(1)「えっ!?う回すると出発時間が遅い」終電ルート、(2)「より多くの要素を詰め込んで!」いろんな乗り物を使うルート、(3)「有識者の叡智が結集」バスのみルート、(4)「お得にいろいろな乗り換えが楽しめる」フリーパス優先ルートの4点です。

以下で紹介するルートや時刻は2021年11月時点の情報を基にしています。

急がば回れ(渋谷→武蔵浦和[終電ルート])

渋谷から武蔵浦和までといえば、慣れている人ならJR埼京線に乗っていれば行けちゃうよね、と考えるかと思います。

ところが、終電に関しては埼京線よりも遅く出発するルートがあるんです。それがこれ。

埼京線どこ行った

まったく埼京線を使いません。すべての区間がJRですが、山手線→京浜東北線→武蔵野線と乗ったほうが、渋谷からの埼京線の終電よりも遅く出発することができるのです。日中は埼京線が止まっていない限りは思いつきもしないでしょう。

参考までに、埼京線の渋谷駅の終電は23:41。この10分の差に対する感じ方は人それぞれだと思うのですが、「終電行っちゃったからタクシーで帰ったのに、まだ電車で帰れるルートあったじゃん…」とガッカリさせてしまわないように、その時間帯ならではのルートもなるべく提案できるようにしています。

かと言って、日中時間帯からこのルートを提案しても、埼京線にだけ乗っていれば乗換もないし、早く着くわけだからほぼ意味がありません。終電の時間帯だけそっと出す、というのも一つの考え方。

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埼京線の直通の終電の後には新宿始発に乗り換えるルートもあるよ

ちなみに、通常なら池袋から深夜急行バスが運行していて、もっと遅い終電ルートもありますが、昨今の深夜帯の移動需要の減少により長期運休中。はやく元通りの世界に戻ってほしいなぁ…とも思います。

乗り物よくばりセット(村上(新潟県)→牛深港<天草下島>)

アプリのデザインを検討するときに、たまにこんな要望が出てきます。「YaaSさん、乗り物のアイコンとかの色味の確認をしたいので、電車もバスも飛行機もフェリーも全部出てくるようなルートってないですかね?でも経由地とか入れると面倒だなぁ…。あ、電車は新幹線と在来線がどっちも出てくると嬉しいです!」…そんな都合のよいルートなんてそう簡単には見つからんだろ…、と思うんですが、様々な交通手段の運行状況を考慮して、ここなら出てくるかな?と編み出したのがこれ。

陸海空制覇

やったね!経由地も入れずに全部要望を満たせるルートが見つかったよ!

飛行機を出すために単純に距離が遠いところを指定するだけじゃなくて、離島を設定するところがポイント(さらに言うと空港がない島が望ましい)。そして、飛行機は直行便がなさそうな地点間を選ぶ。新潟県の村上駅なら、最寄りの空港は新潟空港ですが、新潟~鹿児島という直行便はないだろうから、おそらく羽田空港まで陸路を使うであろうと。新潟から東京なら新幹線使うよね、といった具合に考えてからルートを検索すると、いい感じに欲張れます。ついでに、新潟駅の同じホーム乗換やバス~バス乗継などのおまけつき。思いついた俺すごい。

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牛深港に入るフェリー

…自分をほめるのはここまでにしておいて、様々な乗り物を乗り継ぐルートは簡単に出せるようで実は意外と難しいんです。それは各社の時刻表のデータが別々に提供されるということ。バラバラなものから繋いでいくためにデータの仕様を考えることはとても大事であり、様々な工程を経て、どこへでもどんな手段でも目的地までルートを導けるようになります。

私は開発業務と並行してMaaS関連の渉外業務をしています。これからは自動車じゃなくても、様々な交通機関を組み合わることで、どこへでも誰でも不自由なく移動できることが求められてきます。例えば、瀬戸内海の島々に向けて、大阪駅からのルートを検索したときに、適切に現地の交通手段に乗り継げるルートが出ているか等々、その地域に期待されるルートというものはそれぞれ異なります。「どんなルートが提案できるのか」をあらかじめ調べておくなど、日々の業務でも乗り継ぎルートを想定しながら検索するということは大事なことだったりします。

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えちぜん鉄道永平寺口駅と自動運転電動カート(2019年)

バスにかける情熱(下関→門司港[バスのみルート])

ナビタイムジャパンの経路検索エンジンでは、バスだけを使ったルートも提案できます。一般的には電車に乗ったほうが早いし楽だよね、みたいなところでも、一定の時間の範囲かつ乗り換えが可能な範囲でルートを検索します。例えば、東京駅~横浜駅といった区間でもOK。高速バスを使用する/しないも選択できます。ちなみに、首都圏では羽田空港を経由するルートが出やすいので、高速バスを使用しないモードで検索するとマニアックなバス乗り継ぎルートが出てきます。

そんな中、今回注目するルートはこちら。

トンネルを抜けたら九州だった

本州と九州をバスで乗り継ぐルート。下関から九州へは高速バスで福岡に行くことは可能ですが、関門海峡だけを渡るバス(下関~門司・小倉みたいな系統)は存在しません。

このルートのポイントは、御裳川(みもすそがわ)~関門トンネル人道口の徒歩。関門海峡の海底に関門トンネルがあって、歩いて通れます(自動車や原付は有料ですが、歩行者は無料)。

西鉄バスに造詣が深いメンバーがいて、サンデン交通(主に山口県内を運行するバス会社)のデータを導入した際に「関門トンネル使えば九州と本州のバスは乗り継げるよね」と、実際に体験をしたことを活かして経路を出せるようにしたとのこと。本州と九州は歩いて渡れる、って聞くと本当に?と思いますが、実際に歩いてみるとほとんど無理なく渡れます。

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御裳川バス停付近(山口県下関市)から見た関門海峡
義経像の地下あたりに関門トンネルの人道がある

机上でデータを作成していると、なかなか乗り換えに関する情報が分かりにくいこともありますが、実は有識者によって情報が補完されて、時には現地に見に行ったりして、より精度の高いルート検索が実現していたりもします。

フリーきっぷでさらに深い世界へ(舎人→練馬[フリーパス優先ルート(都営まるごときっぷ)])

東京都交通局が運行している公共交通機関のほとんどが乗車可能な1日乗車券「都営まるごときっぷ」というものがあります。都営地下鉄、都営バスのほか、路面電車の都電と新交通システムの日暮里・舎人ライナーが利用可能。

となれば、この4種類の交通手段を一気に利用できるルートを調べたくなるじゃないですか。その結果がこちら。

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バスを跨いで鉄道を乗り換えるルートは東京では稀

やっぱりあるんです。我ながら経路検索エンジンを信じて導き出したのすごい。ちなみに、通常の検索条件なら日暮里・舎人ライナー→山手線→西武池袋線の乗り換えが一般的。

日暮里・舎人ライナーと都電は熊野前駅で乗り換え可能なものの、この2路線は大江戸線とは直接乗り換えできる駅がありません。それを繋ぐのが、都営バスの白61系統。日中でも10分間隔で運行しているので、乗り換え待ち時間も少なくほぼストレスフリー。都営まるごときっぷは700円なので、片道だけで元が取れてしまうお得なルート。23区内だけどちょっとした旅行感覚で楽しめるのでおススメです。

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都電荒川線 荒川車庫前駅

他にも箱根フリーパスも検索可能。箱根登山電車をはじめ、箱根登山バス、ケーブルカー、ロープウェイ、さらには芦ノ湖の遊覧船まで乗れてしまうきっぷです。こちらはすべて乗れるルートを試したものの、さすがに厳しい…。

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箱根海賊船 箱根町港

定番の青春18きっぷルートも検索できます。大宮(埼玉県)→小倉(福岡県)0:00発とかで検索してみてください。実はきっぷ1回分で九州まで行けてしまいます。ここからは沼の世界。ハマったら抜け出せなくなりますよ。

さいごに

旅行するのも難しい昨今ですが、ルート検索するだけでも旅している気分は味わえます。あるいは、みなさんの身の回りにも「実は知らなかった乗り換えルート」が隠れているかもしれません。時間や条件を変えて色々試してみることが、楽しみの世界への入口です。

経路検索ってバーチャルな世界。究極は検索した人がその通りに行動するとは限らないということ。「こことここを検索したらどんなルートが出るかな?」と妄想するために使っていただくのも大歓迎です。どんな形であれ、経路検索というサービスを通していろんな体験が届けられたらな、と思っています。

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上総中野駅 小湊鐵道といすみ鉄道の乗換駅