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不確実な状況をプロダクトレビューで乗り越える 〜『ロック画面ウィジェット』をiOS16公開初日にリリースした話 〜

この記事は、NAVITIME JAPAN Advent Calendar 2022の12日目の記事です。

こんにちは、ヤサイマシマシです。
ナビタイムジャパンで『乗換NAVITIME』アプリの開発、運営を担当しています。
今回はiOS16から提供が開始された『ロック画面ウィジェット』機能を、iOS16公開初日にリリースした経験を元に、プロダクトレビューの大切さについてお話ししたいと思います。

『乗換NAVITIME』アプリのロック画面ウィジェットについて

『乗換NAVITIME』アプリは、電車・バスなど公共交通機関を用いた移動手段に特化した乗換案内アプリです。
『ロック画面ウィジェット』はiOS16から提供が開始された、iPhone・iPadのロック画面上にウィジェットを配置できる機能です。
『乗換NAVITIME』アプリでは『時刻表ウィジェット』『ワンタップ検索ウィジェット』の2種類を提供しています。
1.時刻表ウィジェット
ロック画面上に、アプリで登録した路線の次の電車の発車時間を表示します。
表示サイズは、大サイズと小サイズの2パターンから選択でき、
現在時刻と照らし合わせてご確認いただくことができます。


2.ワンタップ検索ウィジェット
ロック画面からワンタップで、アプリで登録したルートを検索できます。
駅の入力などが不要のため、最短でルート検索・表示をすることができます。
事前にアプリで『自宅』と『職場』を登録しておくことで利用できます。
表示サイズは、小サイズのみです。

『ロック画面ウィジェット』をiOS16公開初日にリリースした背景

『ロック画面ウィジェット』に対応した理由は、『乗換案内アプリ』と『ロック画面』の親和性が高いと考えたためです。
2016年のAppleの調査によると、平均的なユーザーは1日に80回、ロック画面を確認すると言われています。

私たちのチームはロック画面を見るシーンとして、『時間を確認する』『通知を確認する』の2つが多いのではないかと考えました。
その内『時間を確認する』シーンは、次の電車の発車時刻を確認している時など、公共交通を利用した移動との親和性が高いのではと考えました。
そこで、移動直前と移動中など、時間をよく確認するシーンで、便利にご利用いただけるようなウィジェットを提供することを目指し対応に至りました。
また、『ロック画面ウィジェット』を利用した新しい価値をいち早く届けたいと考え、iOS16公開初日をリリース日としました。

iOS16公開初日にリリースするまでの壁

iOS16公開初日にリリースするまでの間に主に3つの不確実性に対処する必要がありました。
1. 期限の不確実性
例年、新OSが公開されるまでは以下のような流れになっています。
6月中旬:WWDC(Appleが毎年macOSやiOSの開発者向けに開催しているイベント)で新OSの内容が発表される。新OSのリリース時期は『秋頃』と公表される
9月上旬 ~ 中旬:Appleの新製品発表イベントにて、新OSのリリース日が発表される
9月中旬 ~ 下旬:新OSが公開される
9月中旬のAppleの発表会から1週間後に新OSが公開されることが多いのですが、2020年の場合は発表会の翌日に公開された事例もあります。
大まかな時期だけ決まっていて、具体的なリリース日がわからない状態で準備を進める必要がありました。

2.作り方の不確実性
iOSアプリはXcodeを利用して開発するのが一般的です。
新OSが一般公開されるまでの間、新OSに対応したアプリを開発するためには、新OSに対応したβ版のXcodeを利用する必要があります。
またβ版のXcodeが公開されてから、製品版のXcodeが公開されるまでの間、β版のXcodeが更新されていきます。
あくまでβ版ですので、『原因不明の不具合が発生していたが、β版をアップデートしたら直った』『β版のアップデート前まで動いていた箇所が、アップデート後に動かなくなった』といったことがよく発生します。
また『ロック画面ウィジェット』を作ったことのある経験者は誰もいないため、一言で表すと『やってみないとわからない』といった状態でした。
そのため検討にあまり時間をかけ過ぎず、『やってみないとわからない』状態を早期に脱却する必要がありました。

3.作るものの不確実性
本題材の『ロック画面ウィジェット』は、この記事を執筆している2022年12月現在、多くの対応アプリが世の中に出ています。
しかし、検討を開始した2022年7月段階では、当然『ロック画面ウィジェット』を提供しているサービスはありません。
検討段階は『こんな機能を提供したら喜んでいただけるのではないか』などと多くの議論を行いましたが、世の中に出ていない以上全てが仮説でしかありません。
そのため仮説を立証できるものなのか、実際の動作を見て判断する必要がありました。

以上の3つの不確実性は、通常の開発でも日常的に起きるものですが、ロック画面ウィジェットへの対応は普段より大きなものでした。

3つの不確実性をどう乗り越えたか

『期限』『作り方』『作るもの』の3つの不確実性を乗り越えるために、プロダクトレビューを軸に改善を繰り返すことを行いました。
具体的には『ロック画面ウィジェット機能が最低限操作可能な状態』をマイルストーンに定め、そこからリリースまでの間、不定期にプロダクトレビューを行い、上がった改善点をもとに仕様検討と開発を並列で進めるというやり方です。
私たちのチームはチームメンバー全員が集まる『朝会』を毎日30分確保しており、その『朝会』で不定期にプロダクトレビューを行なっています。
不定期に行なっている理由は、プロダクトレビューを決められた時間ではなく、いつでも行えるものにしたいという考えがあるためです。
各メンバーの進捗の確認を行うのが『朝会』の一番の役割ですが、大体15分ほどで終わります。
残りの時間はチームメンバーが揃っていることが担保された状態で、いつでもプロダクトレビューを行うことができます。

『ロック画面ウィジェット機能が最低限操作可能な状態』をまず作ることで『やってみないとわからない』状態(『作り方の不確実性』)を早期に脱却し、プロダクトレビューを繰り返すことで『期限の不確実性』を気にしつつ、『作るものの不確実性』へ対処するといった狙いで進めました。
この方法は結果的にそれぞれの不確実性に対して効果を発揮しました。

1.『期限の不確実性』への対処
『ロック画面ウィジェット機能が最低限操作可能な状態』をマイルストーンとして置いたため、比較的早い段階で動作可能なものができました。
動作可能なものが早い段階でできると、心理的な安心感を与えるものです。
またプロダクトレビューを行うことによって、意図しないバグを早期に検知することができました。
このようなバグはリリース前に見つかると厄介なものですが、早期に対処すれば問題は大きくなりません。

2.『作り方の不確実性』への対処
『やってみないとわからない』状態を早期に脱却するために、仕様が曖昧な状態で開発を開始しました。
開発を進めていく中で、「何ができるのか」がわかるようになってきて、曖昧な仕様に対する対応をどのように行うのか検討ができるようになりました。

3.「作るものの不確実性」への対処
プロダクトレビューではアプリを触り、チームメンバーに気になったことを自由に発言してもらいました。
その中には、大きく方向性を変えるものもありました。
元々『時刻表ウィジェット』は次の列車の発車時刻を表示するのではなく、現在時刻から次の列車の発車時刻までをカウントダウンする仕様となっていました。プロダクトレビューを行なっていく中で、チームメンバーから下記の意見が出てました。
・寝る前など、移動と関係ないときにロック画面でカウントダウンが動くのが気になる人もいそう
・ロック画面の上部に大きく時刻が表示されているので、その時刻と比較ができた方がシンプルでわかりやすいのではないか
結果的にその意見が反映され、次の列車の発車時刻を表示する仕様に変更しました。
このような仕様変更はプロダクトレビューをして、第三者の意見を聞かないと出てこなかったのではないかと思います。

ついにリリース

このような過程で生まれた『乗換NAVITIME』アプリの『ロック画面ウィジェット』機能は、予定通り2022年9月14日のiOS16リリース初日にリリースを行うことができました。
結果的に、AppStoreの特集に掲載いただいたり、SNSなどで紹介いただくなど大きな反響がありました。
リリース前のプロダクトを操作して改善することの大切さに気づく機会になりました。

最後までお読みいただきありがとうございました。