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社内コラボレーションに火をつけるファシリテーション術


はじめに

こんにちは、メタルは全てを解決するです。ナビタイムジャパンでVPoEと経路探索の研究開発部門責任者を担当しています。私が所属する研究開発部門は、単独で研究開発を進めることもありますが、近年は事業部門とコラボレーションしながら研究開発し新価値を創出していく機会が多くなってきています。

改正道路交通法の施行に合わせた電動キックボード向けルート検索機能の提供、厳しい日差しが続く中での日陰ルートの提供といったプレスリリースは、まさに事業部門と研究開発部門のコラボレーションの賜物です。

こういったコラボレーションを推進するときに大切な役割を果たすのがファシリテーターです。上記のように社内でコラボレーションの機会が増えてきたことなどからファシリテーション方法について相談を受けることが増えてきました。
せっかくなら社内に閉じた形ではなく、ファシリテーションというものに課題感を持っている多くの方に役立てられるものを作りたいと思い、このnoteを執筆することにしました。

ファシリテーターはただの進行役にあらず

まず、ファシリテーションとは何でしょうか。書籍「ファシリテーション入門<第2版>」では、以下のように定義されています。

ファシリテーション(facilitation)を一言でいえば、「集団による知的相互作用を促進する働き」のことです。
facilitationの接頭辞であるfacilはラテン語でeasyを意味します。「容易にする」「円滑にする」「スムーズに運ばせる」というのが英語の原意です。人々の活動が容易にできるよう支援し、うまくことが運ぶようにするのがファシリテーションなのです。

ファシリテーション入門<第2版>第1章より

この定義から、ファシリテーターがただの会議の進行役ではなく、その場の知識と知恵をかけあわせ活動をよりよいものに仕立てていく重要な役割を担っている事がわかります。

コラボレーションの難しさ

さて、話を社内でのコラボレーション、表現を変えると異なる組織感のコラボレーションに戻します。それぞれの得意を活かし相乗効果を生むコラボレーションの重要性は日々大きくなってきています。では、異なる組織を同じ場に放り込んだら、それだけでコラボレーションは生まれるでしょうか?

エドガー・シャインの著作「企業文化」ではサブカルチャーという存在について触れています。企業全体の文化とは異なる、業務内容などによって形成されていく文化のことです。企業内の異なる組織が出会うということは、異なるサブカルチャー同士が衝突するということでもあるのです。片方の組織にとっての当たり前がもう片方にとってはそうではない。なので、何もしないで同じ箱に入れても衝突こそすれコラボレーションは生まれません。

だからこそ、コラボレーションの場ではファシリテーターが重要な役割を果たすのです。

ここからはコラボレーションを促進するためのファシリテーション術について記載していきます。

準備編: 目線を揃える

まず、コラボレーションの素地となる目線合わせを行います。わたしたちは、なぜここにいるのでしょうか?われわれはなぜここにいるのでしょうか?
インセプションデッキの要素のひとつ「われわれはなぜここにいるのか」は自分たちの存在意義を確認し共通認識をもたらす強力なツールとなります。

なお、単発の会議のために「われわれはなぜここにいるのか」を作るのはToo Much感があるので、そういったときにはチェックインとして「この場への期待」「会議が終わったときにどうなっていたいか」を共有するといった方法もあります。

ここでのポイントは「お互いに異なる考えを持っている」ということを知ることです。出発地点が異なるという前提に立つことで、異なる視点の意見も受け入れやすくなります。

進行編: 観察する

いよいよコラボレーションが始まりました。まずは観察しましょう。ここがファシリテーションの面白いところなのですが、滞りなく場が進行している、うまくコラボレーションが発生しているのであれば、何もアクションする必要はありません。それどころか、うまくいっているなら下手に介入しないほうがいいのです。

じゃあ、ファシリテーションを始めてから完了するまで本当に何も問題がなかったらどうするかって?何もしない、をするのです。

しかし、そんな「本当に何もない」なんて状況に、私はお目にかかったことがありません。観察していると様々な状況が起こっていきます。

  • 議論が停滞している

  • 意見が偏っている

  • 向かうべきゴールから逸脱している

  • ネガティブな空気感

  • 結論が出ない

  • etc.

こういった事象が観測されたら、なぜそれが起こっているか検査してみましょう。

進行編: 検査する

観測された事象に対して、なぜそれが起こっているのか検査します。以下に、私の経験則による検査結果例を示しておきます。

  • 議論が停滞している

    • 参加者の持ち玉が尽きた

    • 特定の人しか喋ってない

  • 意見が偏っている

    • 特定の人しか喋ってない

    • 前提が揃いすぎている

  • 向かうべきゴールから逸脱している

    • 他のことに興味が逸れている

    • 集中力が欠如している

  • ネガティブな空気感

    • 他責思考

    • 自責思考

  • 結論が出ない

    • 議論の不足

    • 判断基準が曖昧

こういった事象は様々な理由から発生します。たとえば意見の偏りは権力勾配や同調圧力が発生源だったりします。中には事前準備である程度発生を防げるものもあります(判断基準を事前に決めておく、など)が、本稿ではファシリテーションの現場で事象が起こってしまったものとして、そこへの対処方法を紹介していきます。

進行編: 適応する

さきほど紹介した観測事象への対処方法をひとつひとつ紹介します。

議論の停滞を突破する

参加者の持ち玉が尽きた場合、SCAMPER法など多角的にアイデアを発想するフレームワークを用いてみましょう。既に場に存在するアイデアに新たな制約を加えることで発散を促します。

特定の人しか喋っていない状況であれば、ラウンドロビン方式で場にいる全員から話を引き出す方法が有効です。

意見をまんべんなく引き出す

場の空気が一方向に向かって収束しつつあると、本当は異なる意見を持っていても表明しづらかったりするものです。モヤっとした表情で黙っている人は、もしかしたら今の方向性に対して思うところがあるのかもしれません。

「この方向で盛り上がっていますが、◯◯さんの視点からはどう見えますか?」など、フラットに意見を言ってほしいことを伝え意見を表明してもらいましょう。

なお、さきほど紹介したラウンドロビンで場を回すと、この「言いたいこともいえない」状況に陥りづらいという利点もあります。

向かうべきゴールを再確認する

集中力の欠如が発生している場合、思い切って休憩を入れてみましょう。5~10分程度の休憩を挟むことで案外リフレッシュできるものです。また、いったん課題から意識を逸らすことでマインドワンダリング状態を作り出し、結果としてアイデア発案につながることも期待できます。

他の事柄に注意が向いている場合、まずはパーキングロットへの退避を検討します。しかし、場全体がその事柄に向いている場合、もはや当初目指していたものはその場にとっては意味をなさなくなっている可能性があります。そういった場合には思い切って皆が集中しているテーマへピボットしてしまうのも手段のひとつです。

ネガティブをリフレーミングする

「◯◯がうまくいかない。XXのせいだ。」「私の不徳の致すところで…」
そんなネガティブな空気がまん延しているなら、リフレーミングを試みます。そのネガティブの裏に潜む肯定的意図を捉え、「◯◯するために何ができるか考えてみましょう」など思考を前向きにします。

結論に向けて収束させる

それなりに議論をつくし、アイデアが出揃いました。はて、どのアイデアを採用するべきか…もともと異なるサブカルチャーに属する組織同士のコラボレーション、価値観の相違からそれぞれが考えるアイデアの優先順位に差異が出ることが予想されます。

こういったときは価値観によらない尺度を提示し、それに沿って意思決定を促していきましょう。

  • 費用対効果

  • Effort & Pain

  • if/then (これをやったら/やらなかったら何がおこるか)

上記のようなフレームワークを使うことで、空中戦ではなく実際の効果や労力など客観的尺度で議論することができます。

おわりに

今回は、社内コラボレーションをファシリテートするときに留意している点について紹介しました。ここに書いてあることが全てではありませんが、皆様の現場におけるコラボレーション促進の一助になれば幸いです。