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「トラックで休憩できる地点」が集まる機能を開発しました

こんにちは、2級クライマーです。
ナビタイムジャパンで『トラックカーナビ』のAndroidアプリ開発を担当しています。

日本初のトラック専用カーナビとなる『トラックカーナビ』は、ストア公開から8年目を迎えており、これまでトラックドライバー特有の事情を加味したナビゲーションサービスを提供してきました。

今回は、主にトラックドライバーや運行管理者、物流企業の皆さまに向けて、トラックカーナビの新機能「休憩地点マップ」についてご紹介します。この機能はトラックドライバーの誰もが、休憩できる場所を素早く探せるようにするために開発しました。


1. なぜ「休憩地点マップ」をつくったのか

トラックドライバーには連続運転時間の制限があり、運転4時間以内または直後に30分以上の休憩を確保しなければならないという、いわゆる「430(ヨンサンマル)休憩」の規定があります。

連続運転時間(一回がおおむね連続十分以上で、かつ、合計が三十分以上の運転の中断をすることなく連続して運転する時間をいう。以下この条において同じ。)は、四時間を超えないものとすること。

厚生労働省:「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」より抜粋

しかし、トラックが停まれる駐車枠は限られており、特に、見知らぬ土地で休憩の計画を立てるとなると、一般車に比べて非常に難しいことは想像に難くありません。また「トラック向けの駐車枠がある」という情報があっても、運転している車両がサイズ的に実際に停まれるかどうかはわからないという課題もあります。停まれる休憩施設に寄ってみたら駐車枠が埋まっていたということもあるでしょう。それでもトラックドライバーは430休憩のため、休まなければなりません。

1-1. 休憩できる施設をすべて知っている人はいない

当社の調査では、トラックドライバーの休憩に特化して地点の情報が集まっている一定のサイトやコミュニティは見当たりませんでした。

事前に運行計画によって休憩を取ることが決められはしますが、直接現場に行くわけではない運行管理者が、訪問先の休憩可能な地点(その運行車両が停められる地点)を必ずしも把握している状況は少ないでしょう。

SNS上でのドライバー間のやり取りを見ると、休憩できる施設の情報は、口コミによって共有され、もしくはSNS等で発信されているものをキャッチすることで、ドライバー個人の経験として蓄積されていく形で、閉ざされたノウハウになっている状況が伺えます。遠方の訪問先になれば、その地域や道に明るくないドライバーにとって、知らない土地の休憩できる地点の情報は容易に知り得ない状況になっていると考えられます。

2. 「休憩地点マップ」の特徴と工夫

休憩地点マップは、ユーザー投稿型で、トラックドライバー達の休憩実績を『トラックカーナビ』上に集約し、地図上にアイコン表示することで、運行計画の上で"休憩できる地点を探すことを容易にする機能"です。

2-1. 地点ごとに車両情報を集めました

この機能の最大の特徴は、地点の収集はユーザー投稿型で、ナビ利用時の車両設定情報をもとに、投稿された休憩地点の駐車場がどのような車両サイズ
に対応しているかが集まっている点にあります。

車両サイズ:車体長、車高、車幅、車両総重量、最大積載量

休憩地点マップ機能を利用する際に、設定車両に応じて、駐車可能な休憩地点の絞り込み表示ができるようにしました。同等の車両サイズで停まった実績がある地点のみに絞り込むことができるので、安心して休憩地点を選択する事ができます。

2-2. 車両情報と口コミが見られます

地点の詳細情報として、前述の休憩実績のある車両サイズを確認できる他、ドライバーから寄せられた休憩地点に関する口コミ情報も閲覧できます。
トラックドライバーは電話や無線、今ではSNS等で地点や道路状況に関する情報をやり取りする文化があることが伺えているので、地点を基にした掲示板のような使われ方をイメージしています。トラックドライバー視点ならではの情報を共有する場として、ご活用いただけると幸いです。

これらの情報は匿名で掲載し、掲載許諾がある投稿のみ情報を収集しています。

休憩地点に投稿されたトラックドライバー達からの情報

2-3. "休憩に使える地点"のみを集めています

休憩地点はカテゴリー別に、SA・PA、トラックステーション、道の駅、コンビニ、食事・軽食の5種について投稿を募集し、地図上にアイコン別に表示しています。

休憩地点マップは無料機能として提供しています。
ルート検索結果と併せて確認することもでき、休憩を入れたい区間の休憩できる地点を素早く見つけられます。

ルートを参考に休憩できる地点を素早く見つける

3. 「誰もが休憩できる地点を知れる」を叶える、その旅路

ここまで「休憩地点マップ」の開発に至った背景と、その機能概要・特徴をご紹介してきました。この節では、機能提供に至るまでの経緯をお話ししようと思います。

3-1. この機能を提供するためには課題があります

休憩地点マップは、"実際にトラックドライバーが停まった実績がある地点"を集める機能なので、トラックドライバーがいない当社は地点を追加する事ができません。機能をつくることはできても、肝心の休憩地点情報においてはトラックドライバーの皆さまのお力を借りる他ありませんでした。

一方で、休憩地点が1つも表示されていない機能に、ご多忙な中、投稿してくださるトラックドライバーはいるでしょうか。実際にはご厚意で投稿してくださることはあったかもしれませんが、「休憩地点マップ」機能として成り立つ規模の地点数を集めるには戦略が必要でした。

3-2. ユーザー参加型のキャンペーンを実施しました

休憩地点マップの機能リリースから程なくして「トラックドライバーの休憩を応援する」目的のもと、ユーザー参加型キャンペーンを実施することにしました。

概要としては、休憩地点の投稿によって条件を満たした方に景品をプレゼントするものでした。その反響は想定を遥かに超え、投稿促進の結果、休憩地点マップには全国47都道府県を網羅する休憩地点が投稿され、一機能としては十分な情報量が集まりました。

3-3. 開発秘話:集まりすぎた休憩地点

重要な課題が解決されたのも束の間、大変ありがたいことにキャンペーンは大盛況で、最終的には想定の10倍を超える投稿が寄せられました!
そして次なる問題は、地点増加による機能品質の劣化になります。(幸いにも、このキャンペーンは投稿に特化したものだったため、休憩地点を参照するメイン機能の方は、それほどアクセスされていない状況でした。)

当社ではアジャイル開発手法の一つであるMVP(Minimum Viable Product)に基づいてサービス開発を継続しています。今回の「休憩地点マップ」のような新機能では特に、初期段階で完璧な機能を目指さず、市場の需要に沿ってサービスを作り上げていくことを意識しています。

初期段階のリリースにおける「休憩地点マップ」は、機能アクセス時に「Json形式文字列の休憩地点データ」をコンテンツサーバーから一括でダウンロードし、アプリ内地図に一斉描画する手法を取っていました。もちろん、データ数が増えるほど①「通信量とダウンロード時間(画面遷移時の待機時間)」は増加し、②「描画後のアプリ操作」は重くなります。

最小限の開発で挙動改善を行うために、まずはアプリ層のみで対策可能な②について、描画量を減らす方針で、次の2点について対策を実施しました。

  • 設定車両に応じた絞り込み機能

  • 地点アイコンを描画するズームレベルを詳細な範囲に限定する

これらの対策はキャンペーン期間中にアプリ公開まで完了し、地図アイコン描画後の地図の操作性を改善することができました。

続いて、①についてはコンテンツ層とアプリとのI/Fを改修し、Json形式からZip形式にすることで通信パフォーマンスを改善しました。キャンペーン終了後の対応となりましたが、Zip化することで通信量が86%圧縮され、通信時間(=待機時間)は実測で22%改善することができました。通信量は格段に軽量化され、コンテンツでのZip圧縮処理時間が増えた一方で、ダウンロード容量の改善が大きい分、速度についても改善できました。

4. 「休憩地点マップ」の今後

これまでに投稿された休憩地点は合計で10,500地点以上、投稿数は40,600件以上になります。これらは1万人以上のトラックドライバーの皆さまから投稿をお寄せいただき、大変貴重なデータとなっています。この場をお借りして御礼申し上げます。下図は2024年6月時点での休憩地点カテゴリーの割合を示したものです。

休憩地点データ構成比(カテゴリー別)

今後は、休憩地点データをより使いやすくすることを考えています。例えば、ルートに照らしてより自然な流れで地点選択できるように導線を見直したりするような、今回集めた休憩地点をより使いやすいように改善していきたいと思います。

最後まで、この記事を読んでいただきありがとうございました。
今後もトラックドライバーの皆さまの運行をサポートするために、さらなる機能改善に努めてまいります。
どうぞご期待ください!