見出し画像

日本航海学会の退会

 2022年7月の日本航海学会学会誌NAVIGATION221号に掲載された拙投稿「研究・調査 尖閣諸島海域調査航海における一考察」に関しまして、掲載後にいささか出来事がありました。その結果、当時の情勢においてはやむを得ないと考えて電子公開(J-Stage)の取下げに合意しました。
 その後、社会情勢が変化し、明らかに私の主張が社会の大勢実情となったことから、電子公開の回復を要請してまいりましたが、学会から拒否されたため、「私個人の価値観において」、私の研究及び社会還元を果たす研究環境は得られない場であると判断し、誠に遺憾ながら日本航海学会を退会することとしました。
 本noteで当該拙稿へのリンクが切れていることにお気づきの方がおられたかもしれませんが、取下げになっていない紙原稿をPDFにてリンクさせましたので、ご興味のある方は、「尖閣諸島海域調査航海における一考察」記事でDLしていただけます。著作権は学会に帰属していますが、著者が活用することや公開することは自由であり、認められています。

 どういった出来事と経緯があったかについて、私怨的なものではなく、通信の秘密を巡る極めて社会と学会の関係性を問うものですので、社会的に意味があることだと考えます。
 従いまして、その経緯を記します。どちらの良し悪しを問うものではありません。こういう議論があったことをご認識いただき、ご判断はご自由になさってください。
 なお、個人的にお付き合いのある先生方との個人的な深い意見のやりとりは掲載いたしません。ご了承ください。

2022年9月15日
日本航海学会発
221号記事についてはご投稿いただきありがとうございました。この中でVHFの通信記事内容が原文に近い形で掲載していることから、会員から現編集委員宛に秘密の保持等、通信の秘密に引っかからないのか、という質問をいただいたようです。投稿当時、吉野様は東海大学に所属されており、その点を考慮もしくは調整したのちにご投稿されていると思いますが、この点について何か情報等あれば共有いただけないでしょうか。今後、問い合わせがあった時のためです。もし懸念事項等あれば事後でも構わないので、関係部署に了承を得る必要があれば、ご対応を検討いただけると幸いです。

2022年9月15日
吉野返信
拙稿に関しまして、ご迷惑をおかけし、大変申し訳ございません。お問い合わせいただきました件につきまして、下記の通り、申し上げます。拙稿で記載した巡視船と海警船のVHFやりとりは、
・一般船舶が多数混航している海域で、VHFの16chを維持したままなされていること
・二船間ではなく、巡視船と海警船と望星丸さらに海保航空機という複数の移動体で形成された船団で共有すること、さらにはそれを越えて、可聴範囲内にいる一般船舶に対してもそれぞれの主張とその実行をアピール(拡散)する目的があると思われること
・(守秘を要する内容ではない)国家主張と領海侵犯に関する警告の出し合いであること
・領空侵犯対処における航空自衛隊戦闘機と相手国機の航空無線やりとりと同種のものであり、領空侵犯対処でのやりとりのメディア公開(現場撮影動画や書き起こしなど)は珍しくはなく、公開について相手方の了解はないと考えられること
・録音や原文書き起こしではなく、研究目的で要旨を定形化して載せたこと
から、広義では通信ではあろうが、狭義においては通信というよりも、領海侵犯対応における誰何と警告の打ち合いであると考えます。
そして幾度となく繰り返され続けたそれらの要旨を違わぬよう定型化して、やりとりの形で表現し掲載したことで、法解釈における具体的な問題点の指摘を論じることができたと思っています。
もちろん、この解釈は著者である私個人のものであり、法源を持つ解釈ではありません。例えば、電波法の違反が疑われるのであれば、海保が文責者である私を司法手続きにのせればよいと思っております。
以上が著者である私の解釈です。今後もご迷惑をおかけする可能性がございます。お手数をおかけいたしますが、責任は私に帰するものとしてご対応くださいますと幸甚に存じます。

2022年9月16日
日本航海学会返信
著者としての解釈および責任の所在についてお知らせいただき、ありがとうございました。ご回答いただいた内容を編集委員会に引き継ぎます。

2022年9月27日
日本航海学会内での検討と決定
投稿内容及び著者からの回答に対する検討内容
・電波法第 59 条違反のおそれですが、この条文を素直に読むと、原稿にある VHF の 16chであっても、文中で示された中国海警船とわが国の保安庁巡視船とのやりとりで、特に艦番号を付けて呼び出しており、「特定の相手方に対して行われる無線通信」となる可能性は高く違法性が高い。
・「・・・形成された船団で共有する」というが、巡視船からの通信が著者のいう、望星丸を含む船団に共有する意思と見るのは難しいこと、「一般船舶に対しても・・・・アピール(拡散)する目的があると思われる」として回答されているが、どちらも推測に止まっていること
・「要旨を定型化して載せた」とはいうも、交信内容を暴露していることに変わりはないこと
以上の事を踏まえて、違法性がある可能性があり、本会定款上の設立及び活動目的に照らしても問題と考えます。
対応案
本件、本投稿も著作権が学会にあるということより紙媒体の Navigation は既に発行済みでどうすることもできませんが、J-STAGE からは削除が可能なことから以下の対応とする。
(1) 原稿の中の VHF 交信について、会員より法令違反のおそれありとの指摘を受け、理事会にて厳正に検討した結果、学会の学術誌に法令違反のおそれのある記事の掲載は、本会定款上の設立及び活動目的に照らしても問題ありとの結論となった。よって編集委員会として、一時 J-STAGE から削除する。
(2) 著者に削除の経緯を説明し、 海警船と巡視船との交信については、事後とはなるが、保安庁に許諾を得てもらう(厳密には中国海警にも同様の許諾をもらうべきだが、事実上、無意味だろうから、保安庁のみでも許諾申請してもらう)。
(3) 許諾が得られた時点で、著者によりその旨を報告してもらい、原稿に対し許諾済みであること、及び違法性が無い様に修正をして頂き、掲載可能と編集委員会で判断された場合には、次号 Navigation に編集委員会としての説明を掲載し、修正された投稿をJ-Stage に再掲載する。
(4) 許諾が得られなかった場合又は違法性が無いことが確認されなかった場合、J-Stage の原稿は削除したまま、紙媒体については編集委員会により説明を次号に掲載する。

2022年10月12日
日本航海学会発
NAVIGATION221号に寄稿いただきました吉野様の論文ですが、電波法に抵触するとの見解があり、J-STAGEから取り下げることとなりました。本件につきまして、ご質問・ご意見等ございましたら、編集幹事までご連絡ください。

2022年10月12日
吉野返信
この度は拙稿でご迷惑をおかけし、お手を煩わせましたこと、大変申し訳ございませんでした。J-STAGE取下げの件につき、質問及び意見はございません。編集委員の皆様をお騒がせするに至りましたこと、深くお詫び申し上げます。

2022年10月12日
日本航海学会返信
本件理事会で問題となり編集委員会で対応することになって、メールにて審議を経てこの様な対応になりました。著作権が学会に移行しているために、公益社団法人としての学会としても、違法である可能性があるものを掲載できないとの判断になりました。本来であれば、掲載前に指摘をしてご相談して掲載の可否を検討しなくてはいけないのですが、この様な対応になり申し訳ありませんでした。ただ、通信の秘密は電波法だけでなく憲法にも定められている非常に強いものなので、事が大きくなる前に対処させて頂きました。

2022年10月22日
吉野返信
この度は種々ご迷惑をおかけいたしまして、大変申し訳ございませんでした。ご丁寧にメッセージを頂戴いたしまして、恐縮です。

2023年2月20日
吉野発
貴会学会誌NAVIGATION221号に掲載いただきました拙稿「尖閣諸島海域調査航海における一考察」につきまして、昨年秋に貴会より電波法に抵触する可能性があることから、J-Stage(電子媒体)での公開を取り下げるとのご決定があり、現在それが実施されております。当時、私も同意したわけですが、本年1月30日に石垣市と東海大学による尖閣諸島調査航海が再び実施されました。そしてその航海に関する報道及び公表において次のような状況が確認できています。
・中国海警船と海上保安庁巡視船の間で交わされているVHF無線通信の音声が、「呼出し相手の船名」「発信側の自船名」の固有名詞を隠すことなく、音声に何の加工をすることもなく、通信内容が公開されている。同様に、文字化されて公開されている。これは通信内容に関して「船名を出さず」「定型化」して引用した拙稿に比して、電波法への抵触程度が相当に高いことは明らかと考えられます。
・それらの公表主体は、大手新聞社や大手放送局をはじめとするメディア全般に及んでいる。また、同航海に参加された東海大学海洋学部の山田吉彦教授は動画や文章で自ら積極的に公開している。
 これは昨秋とは異なる状況であると考えます。従いまして、貴会に対し以下の要請をいたします。
1 上記の報道現状につき、貴会は通信内容の公開発信元全てに対し、その意図と電波法の解釈(拙稿に関して私に出した質問とまったく同様のこと)を質問し、回答を得ること。
2 1に付随して、通信当事者である「海上保安庁」と「中国海警」の双方から、船名を含めて無加工での報道あるいは公開についての許可を取っていることについても回答を得ること。
3 東海大学の山田教授は貴会会員でおられると承知していますので、1及び2について確実に回答を得ること。
4 1~3の回答を踏まえて、今般の報道や山田会員が公開している通信内容と、拙稿記述内容について比較し、電波法に関して貴会の見解を明確にしていただきたい。そして電波法に抵触する可能性があるとの判断になれば、貴会としてそれらに対する抗議声明や行動をお願いしたい。
5 最後に、拙稿のJ-Stageでの公開の回復につき、ご検討いただき、回復可能と判断されるのであれば速やかに回復いただきたい。不可と判断されるのであれば、納得できる説明をしていただきたい。
6 これらを3月末までに実施の上、ご回答いただきたい。なお、経過を適宜連絡いただきたい。
以上を要請いたします。
通信は貴会の取扱い分野の大きな柱の一つであり、二重基準があってはならないのであり、拙稿に限らず、広く社会に対して同一の基準をもってご対応いただくことが、「航海(ただし、陸・空・宇宙を移動する機器の運用を含む。以下同じ。)に関する学術を考究し、その進歩発達を図ることにより、我が国の発展に寄与すると共に、国民生活の向上に貢献する」貴会の目的に適うものであると共に、社会的信用と社会的地位を高めるものと考えます。よろしくお願い申し上げます。

2023年2月20日
日本航海学会返信
吉野様からのメール、確かに拝受いたしました。確認をしてご返答申し上げます。

2023年3月31日
日本航海学会返信
変針顔ほくなり(原文ママ)大変申し訳ありませんでした。いろいろとご納得いただけないこともあるとは思いますが、学会及びNAVIGATION編集委員会としての立場を以下にご連絡させて頂きます。始めに、学会及びNAVIGATION編集委員会は警察や監督官庁ではなく、学会として学会誌に掲載されるものに対してその良否を判断させて頂く立場です。それを踏まえてご回答させて頂きます。
・ご要望1に対して
 弊会及び学会誌の関与する問題ではないと考えております。
・ご要望2に対して
 同上の回答となります。
・ご要望3に対して
 東海大学の山田教授は会員の場合でも、弊会への論文又は学会誌へ投稿された場合には、そのような確認は必要ですが、現状ではまだされておりません。従いまして申し訳ありませんが弊会として出来ることはありません。
・ご要望4に対して
 弊会及び学会誌の関与する問題ではないと考えております。
・ご要望5に対して
 他でも同様に電波法に違反している可能性がある事例があるからといって、違法性が阻却されるとは考えられないため弊会の判断が変わることはなく、申し訳ございませんが現状で再掲載は致しかねます。
以上が弊会としてのご回答になります。
ご要望に応えられず申し訳ありませんが、何卒ご了承願います。ただし、吉田様(原文ママ)にご指摘頂いた問題が存在することは認識させて頂きましたので、今後は編集段階で対応する様に務めさせて頂きますので、今後とも弊会をよろしくご支援願います。

2023年3月31日
吉野返信
貴信拝承しました。貴会がダブルスタンダードを適用される会であること、社会に開かれる旨の目的とは異なり実際には極めてムラ社会であることが確認できました。自分自身の研究の向上や社会還元にとって、好ましい環境ではないと判断できました。これをもって退会させていただきます。数年間ではありましたが、大変お世話になりました。ありがとうございました。

実務海技士が海を取り巻く社会科学分野の研究を行う先駆けとなれるよう励みます。