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新しい相棒を銀座で見つける話

クライアントとの打ち合わせで銀座に行った。少し時間があったので伊東屋に足を伸ばした。
火曜の午後4時なのに4階の筆記具売り場には朝の東横線のラッシュ並みに人が多い。
日本語はほぼ聞こえてこない。

基本的に人波が嫌いな私は4階に入って10秒後。帰りたくなってきた。
しかし、このままむざむざと帰るのも負けたような気になるのという訳の分からない義務感で少しだけ売場を見ることにする。
満員電車の中をたまに車両移動する不思議な人がいるが、今はその気分である。『すいません、すいません』と言いながら(通じているかどうかは疑問だが)目的のシャープペンシルコーナーに到着する。

仕事柄0.9mmのシャープペンシルを愛用している。

図面はほとんどコンピューターで描いている。いわゆるCADを使っているわけだが今だに製図用シャープペンシルにこだわっている。その理由はなんだろう?自分なりに考えてみた。



設計と図面


トレーシングペーパーの上に定規を使ってシャーペンで線を引き、図面を書く。大学時代アルバイトで製図を描いたのが図面との出会いである。
図面を描き始めた時は、上司からラフのスケッチをもらいそれを丁寧に綺麗に図面化する。そういうものだと思っていた。
大学時代、綺麗に図面を描くことが要求されることが多かったので、図面は綺麗に描くもの。そういうコンセプトだった。


しかし、仕事が高度になるにつれて「図面」のコンセプトが私の中で変わっていった。
結論から言えば。

結論から言えば、作家が文章を通じてディテールやニュアンスを読者に伝え、感動を与えるように、設計士は図面を通じてニュアンスやディテールを伝え、プロジェクトに携わる人や会社に共通の情報を与える。

そしてお互いのすべき仕事を明確にする。そのことで建物の建設コストを最適化できる。

「図面」が描けるのと「設計」ができるのはよく似ているようだが、全然違う。
設計士は頭の中にあるひらめきを誰でもわかるように形にして伝えないことには設計士として評価されることはないのだ。そのために「図面」のスキルも必要になってくる。

この設計することと、図面を描くことを分けて考えないといい仕事はできない。

設計の相棒


何か新しいプロジェクトに取り組む時、私はいきなりCADソフトを開かない。
A3の方眼紙一枚にプロジェクト全体の形を把握するために、クライアントからの主要情報を手書きで書く。
そして新しく提案する内容をまとめる。
このまとめる作業をCADを使ってやることもできるが、私は手書きが性に合っている。
CADで書くと「できばえ」にどうしても目が入ってしまい、肝心の「クライアントのゴール」を熟考する意識が薄くなる。
また、一度作ってしまったものを壊すことが早回りなのだが、うまくその部分はまとまったからという意識がその出来上がったものを壊すことに一瞬躊躇してしまう、

それと、圧倒的に手書きが優位なのは、スピードだ。
情緒のない話だが、私の与えられたタスクは、
1.自分自身がプロジェクトの内容を把握する。
2.いち早く問題点を発見する。
3.その解決策を決める。
4.その方法を図面にまとめ、金額を出す。
たったこれだけだ。

あるコンサルタントの本の中で書いてあったDuty Fastが実現できる。
荒っぽくてもいいからいち早く問題を把握する。
細かいところは、図面化の過程で見えてくるし、設計でいえば定石的な配慮で初期段階でそこまで細かい点にこだわると本当に重要なことを見過ごすという致命的なミスを犯すことになってしまう。

あらゆるところからリソースを集中させ、極めて自由な発想で設計をまとめる作業をA3のシートの中で展開する。

手書きで何度も書き、消してはまた書く。その作業をしているうちに点と点が持つ秩序が見え、複雑で難解だと思っていた構造がシンプルにまとまってくるのだ。
アナログが持つ良さがあると思う。描く紙と筆記用具を固定化することで、私はその設計モードに入ることができる。
全部の情報を書き写すのは面倒なので、部分的な引用はプリントアウトしてカッターで切ってスティックのりの貼り付ける。

少しおかしな話をすると、ペン先に私の知性が集中するのだ。そしてこの3つのセットであるとスラスラとまとめることができ、まとめたからこそ見つかる新しい問題を見つけることができるのだ。

できがったシートを写真を撮って載せようと思ったが、残念ながら守秘内容だらけで残念ながら載せられない。

描く紙 
A3方眼紙は通常のコピー用紙より厚く消しゴムで何度消しても破れない。普通のコピー用紙は64g/㎡程度なので75g/㎡はかなりしっかりした感じです。通常の打ち合わせにもこのA3の紙を使用します。数回分の議事録を一枚でみれるのも便利、担当者の名刺のコピーも貼り付けています。


筆記具 
シャープペンシル、「ぺんてる シャープペン グラフギア1000 PG1019 0.9mm」に2Bのシャー芯を入れて使っている。
最近、筆圧が弱くなり、薄い濃さだと文字が見えづらい、本当はもっと濃い3Bとか4Bとかあれば嬉しいのだが残念ながら0.9mm芯は2Bまでしか無い。ちなみに0.5mm芯だと4Bまである。メーカーさん、0.9mmの4Bとか3B作ってください。
また、このシャープペンシルの特徴はクリップ部。これを広げるとペン先のとんがったところ(ガイドパイプと口金)が全てペンの中に収納される構造になっている。この機能のおかげで、ペンをうっかり落ちした時にガイドパイプが曲がることなしに長年使い続けられている。


スティックのり
のりはあれこれ試したわけではないのでもっと使い勝手がいいのがあるかもしれませんが、いつもデスクの引き出しに入っています。思いついたらすぐにカットして貼り付ける。探す時間があるとその時間で「あっもういいや、あとにしよう」と思ってしまう。手元にあるとそんな気分を起こさず、かえ思いつきを実行に移せるその瞬発力を大事にしています。

私の愛用のグッズ紹介だけで結構楽しく書けるものだ・・・
いけない、ついうっかり話が長くなってしまった。


伊東屋にもどる

というわけで何か良い0.9mmのシャーペンがあれば・・・
新しい仕事の相棒を探す。そんな気分で私は自分の道具を選ぶ。

満員電車のような文具売り場で激しい違和感を感じもう物色する意欲も失せかけた時、偶然ロットリングのペンコーナーのデモスペースがブラックホールのように人がいなかった。
その時手にしたペンはこれ・・・・

持って何気に文字を書いた途端、インパクトが走った。違う!
ペン先とペンの本体とのブレが全く無い、まるで金属を6角形に削り出して丁寧にその中心にシャープ芯を入れ込んだようなイメージを受けた。今持っているペンでは多少のブレ感はあるがこのペンは剛性が強い。重心のバランスもいい。店員が入れば色々質問しながら書いたいものを見つけ購入するのだが・・・。残念、店内はダダ混みなのだ。諦めて帰宅する。


アマゾンでプチっ

昔からそうだが、欲しいと思ったら忘れられない質なのだ。帰宅して早々にアマゾンのサイトを開く。同等の機種で0.9mmのロットリングのシャープペンシルを探すが残念ながら0.9mmは無かった。
ここでいつもなら0.9mmじゃないとだめだと言って買わないのだが、伊東屋でペンを持って書いたイメージがまだ右手に残っている。
0.7mmでもいい。あの感覚を右手が要求しているようだった。探した挙句これをプチっする。

シャープペンシルに2,500円は高い。と思うかも知れないけど仕事の相棒だと思うとこんなにリーズナブルな買い物は無いと思えてくる。
書いた感じは、いい♩。
その効果は大きかった最近サボり気味だった日記がきちんと書けるようになった。
人が癒されるは自然とか人だと思っていたが、今回はこのペンに癒されました。


愛用のメガネと同じ色

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