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(30)アイバ博士の冒険記を読んであれこれ考える(前編)

※この記事は、巡回展『ポケモン化石博物館』の生みの親である相場大佑先生の著書『僕とアンモナイトの1億年冒険記』の読書感想文(読書の感想以外も多め(関連して思い出したこと多め(脂身の方が多い)))です。


2022年5月、上野に巡回展「ポケモン化石博物館」がやってくると知り、僕と妻は前のめりで駆けつけた。

妻(当時は入籍前だった)は無類のポケモン好きで、本編はほぼ全シリーズプレイ済み、ポケダン等の派生シリーズもかなり多く履修している。
一方僕は、幼少期〜思春期に「男の子に人気のゲームはやるものか」という謎ガキプライドを発動し、ポケモン関連の単位修得機会をことごとく逃してきた。しかし、ここ数年は妻の影響で、アニポケもゲーム(見る専)も好きになり、夫婦揃ってポケモンを楽しんでいる。
おかげで我が家は、ポケモングッズをたくさん取り揃えており、最新のポケモン事情にも敏感である。

「ポケモン」と「化石博物館」。この2単語が、どういう巡り合わせか奇跡的に並んでいる。もともと生き物系絵描きとして出会った我々、当然化石博物館も好きである。
これは見過ごす訳にはいかない。コロナ禍で世間が混沌としている中だったが、迷わず科博のチケットを取った。

冒頭のパネル。ティラノサウルスがポケモン画風なの良いですねえ…
カブトプスでかい。ポケモンの等身大模型はテンション上がる。
もちろん本物の標本や化石もたくさんあった。

展示内容は言わずもがな、“最高”だった。
ポケモンと現実世界の生き物とを比べるというコンセプト、ポケモンのタッチで統一されたパネルのイラスト、解説文から伝わる化石愛とポケモン愛…何から何までクオリティが高い。

展示の最後にあった製作者紹介のパネルを見ると、イラストを担当されたのは漫画家のありがひとし先生。ガチゴラスのキャラデザを担当された方だ。どうりでポケモンテイストなイラストになる訳だ。

大感心したのがこのパネル。
ポケモン世界の「しんか」という言葉の用法は、生物クラスタでは誤解を広げる表現だと揶揄されることが多い。大学時代、進化学の授業の冒頭でも、教授が「個体レベルで起きる形態変化はメタモルフォーゼ(変態)と呼ぶべきです」と話していたのを覚えている。
今回の展示を見に行くにあたり、ポケモン界の「しんか」という表現についてどう向き合っているのかなと、僕も少し意地悪な気持ちで展示を眺めようとしていた節がある。

やはり、その答えが用意されていた。展示中では「しんか」「進化」と表記を分けていて、その旨がきちんと表記されていた。さらには、進化という言葉は、日常的には「進歩」という意味合いで使われる事が多いことにも触れ、言葉の使い方でモヤりがちな部分をきちんと切り分けていた。
ちょっと生物をかじった人がチクチク刺しそうなところには、もう予防線が張られている。参りましたと言うほかない。

科博の企画展示室は、特別展会場に比べると狭い。しかしその限られた空間の中でも、お腹いっぱいになって帰れるボリュームと展示設計だった。

展示を見に来ていた人達は、大人も子供も目を輝かせていた。食い入るように模型と化石を見比べていた。こんな展示を作れたら、どんなに嬉しいだろうと思った。
何を隠そう、僕はついこの間まで、博物館の展示を作る人になりたくてディスプレイ会社で働いていたのである。結局馴染めず1年で転職してしまったが、僕はずっとこの展示を作った人のようになりたいと思っていたのだ。あまりにも素晴らしい展示だったので、この企画を思いついたのが僕じゃないことが悔しいくらいだった。

前職場の社員研修で作った企画の一部。科博の企画展示室を想定し、サイエンスイラストについての展示企画を考えた。

どんな人が作った展示だろうと気になった。
パネルを見ると、「総合監修 相場大佑」とあった。アイバ博士、か…。さぞかし優秀で偉い人なのだろう…。
写真のアイバ博士は思いのほか若くて、嬉しそうにアンモナイトを掲げながらニカッと笑っていた。もっと年配でお偉い感じの、オーキド…よりもサカキ様…?のような隙の無い人を勝手に想像していたので、案外お兄ちゃんやんけ!と思ったりした。

かくして、ポケモン化石博物館の素晴らしい展示とそれを作ったアイバ博士によって、僕の心には羨望やら尊敬やらいろいろな気持ちが生じた。
僕が打ちひしがれている横で、妻は「アイバ博士Twitterやってるよ。アイバ博士もうさぎ飼ってるよ。関根って名前なんだって。フォローしたらフォロバしてくれたよ」と、凄いスピードでちゃっかり繋がっていた。なんという行動力。恐るべきデジタルネイティブ。SNSを正しく使っている。


2023年7月、我々は博物ふぇすてぃばるに出展していた。
2回目の出展だったが、僕に出展者の貫禄は露ほどもなく、すごい人たちに紛れて恐縮しながらブースを構えている感覚だった。そのすごい人たちの中に、どうやらあのアイバ博士もいるらしい。アンモナイトについての講演も予定しているということで、ひょっとするとお会いしたりできちゃったり!?!と思っていた。サインを貰えることを期待して、本屋で買った先生の著書も持参した。

設営後、妻に激写された僕。なんて覇気のない姿勢なんだ。

イベントがいざ始まってしまえば、自分のブースの事で精一杯。我々は2人出展とはいえ、僕はあまりに他ブースに遊びに言ってお話するのは得意では無いし、「仕事のチャンスをくれる人が不在の時にブースに来ていたらどうしよう」などと考えて不安になるので、できるだけブースに長くいたい方だった。
したがって、おのずと外回り担当は妻となる。いつの間にかアイバ博士のブースに遊びに行き、二言三言会話をしたらしく、サインをゲットして戻ってきた。なんという行動力!
この日の講演「最新アンモナイト学」も妻が聴きに行き、メモ帳にびっしりと学んだことを書いて戻ってきた。講演はとても面白かったようで、僕にメモを見せながら、かいつまんで説明してくれた。なぜか「タコトンビ おつまみらしい」というメモに二重線が引いてあった。

「いいな〜」「一緒に来ればよかったじゃん」「でもブース空ける訳には…」「そんなの近くの知り合いに任せちゃえ!」「えぇ…」みたいな会話もあった気がする。
僕もトイレ休憩がてら、アイバ博士のブースをチラ見しに行ったりもしてみたが、サインを懇願する用も無いのに話しかけるのも違う気がしたし、遠巻きに顔を見て「いた!」と思って満足してしまった。

そんなんだから、ポケモンを通らずに育ってしまうんだ。いらん自意識が強すぎる。

振り返っても非常に情けない立ち振る舞いだったが、思いがけず嬉しいこともあった。アイバ博士がノーチのしっぽ研究所のブースに来てくれたのである。
僕は案の定動転していたため記憶が曖昧だが、「相場です〜」と突然現れ、妻と愛うさぎ関根の話をしていった気がする。僕も少しお話して、オウムガイのポストカードをお迎えしてくださった。なんて気のいい方なんだ。アンモナイトの絵の1枚や2枚描いてくれば良かったと思った。

遅れてじわじわ、ポケモンの世界の人じゃないんだ〜という感想が出てきた。我々はずっとアイバ博士アイバ博士って呼んでいたが、「相場先生」だろう!


そこから1年くらい経った。なんだかんだいろいろな事があり、せっかくサインをもらった本は読めないままになっていた。

月日が経ち、僕の生活の中心には「児童書制作」という大きな柱が立っていた。詳しくはまだ言えないが、本腰を入れてノーチのしっぽ研究所の物語を作ることになった。
しかし、本の骨子を組もうというところで初っ端から苦戦している。断片的なアイディアはあっても、それを物語に落とし込むまでの後ろ支えが薄い。
最近、圧倒的にインプット量が足りてなかったな〜と思い、作ろうとしている児童書の類似書を買い漁って読んでいるうちに、眠っていた読書欲が復活した。

書こうとしている物語の中で、アンモナイトの貝殻を登場させようとしている。アンモナイトの化石は何となく想像つくけど、貝殻ってどんな感じだったんだ?色とか模様とかあるのか?
そこまで考えて、僕はアンモナイトのことを何も知らないなと気づいた。
そういう時に良い本があるじゃん。我が家の本棚に。

表紙をめくったらあの日のサイン。
かわいいアンモナイトに「はよ読めや」と言われた気がした。


次回、ようやく読書感想文が始まります。

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