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短歌 - 「愛車と、その運転手」






初めて乗った車はクリーム色。
日に焼けて色がすっかり抜けてしまった。
こんなことになるんだな、と学びを経て
「次は緑色の車に乗りたい」
なんて言っていたとき、車屋さんから
「希望車種の色違い、入荷したよ」と
見せていただけることになった。

「色違いかー」とそんなに期待しないで見せてもらったにも関わらず、
「えっ、かわいい……!!!」
と ときめき!
そうしてあれよあれよという間にわたしの相棒となってもらい、今に至ります。
十年近い時が流れていました。
走行距離や年数、諸々のパーツ交換などを鑑みて
「そろそろじゃないですか」
と買い替えることが決まりました。


愛車ちゃんとはいろんな場所を旅しました。(運転手はわたし)
愚痴も泣き言も涙も怒りも、
黙って聞いてくれた相棒。
楽しい話も、へんてこな歌もよく聞いてもらいました。
ありがとう、愛車ちゃん。



おおよそ十年の付き合いになる愛車ちゃんと、
最後のドライブデートに行きました。

お腹が減って、そのときいた「現在地」から一番近い喫茶店を検索しました。
「2分で到着」という情報だけを見て、店を目指します。


純喫茶。色合いがかわいい。


続々とひとが訪れる喫茶店。
最初テーブル席にいたお嬢さんたちが帰ったあとは、常連さんばかりの様子。
わたしがカウンター席について少しすると、あっという間に満席に。


常連さんたちに挟まれるかたちとなり
ちいさくなってサンドイッチをもぐもぐしていると、ママが「ゆっくりしてってください」と小声でチョコレートを出してくれました。
声のトーンも話し方も穏やかな、美しきママ。
「紅の豚」のジーナのような雰囲氣です。
すっかり射抜かれました(ちょろい)


店を出てから愛車ちゃんに
「ママが美人だった」「サンドイッチとコーヒー、とてもおいしかった」と報告したところ
「よかったね」と愛車ちゃんも嬉しそう。
(※個人の感想です)


店を後に軽快に30分以上走ってから、
「あっ」となりました。
最後に海を目指すはずが、お墓参りと初めて行った喫茶店に満足してすでに山の中。
海とは真反対です。
とはいえ愛車ちゃんとの特別な思い出の場所が海だった、ということもないので「ま、いっか」と思い直しました。
相棒からは「適当やな」とつっこまれた氣がします。

わたしはセンチメンタルなとき、なにかというと海を目指したがるベタなやつなのです。
愛車ちゃんとの別れを前に少々センチメンタルになっていたのが、美人のママのおかげでハッピーごきげんになって海のことなどすっかり忘れてたというわけです。
我ながらなんて単純なんだ……!!!ま、いっか。


そうこうしながら走行していると(くすくす)
ルームミラー越しに洗ったばかりの愛車のうしろの窓にべべん!と鳥のふんがついているのを見つけまして(くすくす)
普段まったくそんなことないのに、
なんでわたしがお出かけ前に丁寧に自分で洗車した日に限って狙い撃ちされるのか、不思議でなりません。


わたし「ええー!?洗ったばっかでうんこついてるーーー!」
愛車 「あとで拭けばいいじゃない」
わたし「拭かせていただきますーー!!!!」
愛車 「普段洗いもしないやつがたまに洗うとこんなことになるんだよな」
わたし「おっしゃる通りです!!!」


帰ってから、全力で拭きました。


愛車ちゃんが生まれてくれたこと、わたしのところに来てくれたことを心から嬉しく思います。
泣く場所のなかったとき、どんなに救われたか。
行くあてのないとき、どんなに心強かったか。
愛車ちゃん、ありがとう。
愛車ちゃんをつくってくれたひと、ありがとう。


またどこかで、かたちを変えた愛車ちゃんと巡りあえたらいいな。
しょうもない駄洒落とへんてこな歌で
「ああ、おまえか」って思い出して、笑ってほしい。


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