![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/145574410/rectangle_large_type_2_51a1b416c69bd28ac8f5d7a81803fc6c.png?width=1200)
飴をなめるように
![](https://assets.st-note.com/img/1719634107890-n6mWEunADY.jpg?width=1200)
西加奈子さんの「地下の鳩」に収録されている「タイムカプセル」というお話が、おもしろかった。
本編で残されたままの謎も明らかになりつつ
ずっと不穏な感じが漂っていて、最後まではらはらした。
「小さいときに傷ついた人って、一生傷つかなあかんのでしょうか。」
(文春文庫『地下の鳩』)
トラウマが大いに刺激されてヒリヒリする中、こういうメッセージがおくすりのように効いてくる。「救い」を見つけると、ほっとする。
わたしは長い間、好きだった小説を読むことができなくなっていた。
小説どころか、録画した1時間ドラマすら、分割しないとどうにも観られなかった。疲れるのだ。
情報を処理するのにとても時間がかかった。
映画一本なんて観てられなかった。
それらが「うつ傾向の人に顕著にあらわれるもの」と知ったとき、納得した。
集中力と記憶力が低下していたから、本は読めないし映画も観ていられないのだった。
文章を読んでも入ってこないので、同じ行を何回も読み直す。
人物名を覚えていられない。
関係性を思い出せない。
遅読なうえに何ページも遡って読み返すので、一向に進まなかった。
そんなだったわたしがようやく、小説を比較的スムーズに読めるまでに回復した。
何も変わっていないようで、少しずつだけど進んでいた、と氣がついてほっとした。
BRUTUS特別編集 合本「すべては、本から。」 (マガジンハウスムック)をぱらぱら読んでいて「あ、これだ」と思う記事を見つけた。
(この方はうつということではなさそうです)
「びっくりするほど読めなくなっていて、ショックを受けました。あんなに好きで何度も読んだ作品なのに、集中できない。長いものを読む筋力が著しく落ちていたんですね。原因の一つは、走り読みや斜め読みに慣れすぎてしまったこと。時間をかけてゆっくり取り込まなくては自分のものにならないし、読む筋力も保てないのだと改めて思いました」。
重ねて今は、情報や雑音が絶え間なくなだれ込んでくる時代。30秒でどれだけ面白がらせるかが勝負のエンターテインメントが増え、アルゴリズムで選ばれたネット番組が、空いた時間をどんどん埋めていく。
「楽しくはあるんですよ。でも気づくと時間の奪い合いに呑み込まれそうになる。どんなことにも素早く反応すべき、みたいに思わされている感覚が、ぬぐえないままなんです」
敏感になりすぎた社会から抜け出すためには、意識的に時間の回転数を落とさなくちゃいけない。
(非アフィ)
移り変わりの早い「水のようなもの」と
適切な距離を置くことは、
自分のペースを守ることに他ならないのかもしれません。
じっくり、飴をなめるように。
文章を読むときはそんなことを意識しています。
ときどき「飴は噛むもの」というひともいるけど、それは「わたし」じゃないから「そういうひともいるんだな」ぐらいにとどめておくとして。
また、次の一冊を開きます。楽しみ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?