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ウユニ塩湖紀行③

空港を降りると濃紺色の空が目の前に広がっていた。痛いほど強烈な日差しが降り注いでいるが、風が冷たい。アンデス山脈特有の気候がなんだか懐かしい。

空港から乗り合いバスに揺られること約15分、ウユニ村が見えてきた。この10年で観光客もぐっと増えて、村の様子は大きく変わった。観光客用のレストランも増え、なんのためにあるのか分からない信号機も設置されている。ただ、ボリビア人らしい少しシャイな子供たちのはにかんだ顔や小さな雑貨屋さんに座るおばあちゃんの素朴な笑顔は全く変わっていないのが少し嬉しかった。

旅行シーズンだけあって村は活気に満ち旅行客があふれ、どこからもウユニ塩湖ツアーへの客引きの声がしている。誘われるまま、ツアー会社のオフィスに入ってみた。今回の撮影の成否は天気が90%を決めると言っても過言でない。この一番、神経質になっている点を少しでも早く明確にしておきたかった。部屋の奥に座るおばちゃんに早速、最近の天気を聞いてみると、想定もしていない最悪の言葉が返ってきた。

「60年間、ここに暮らしているけど、こんなに雨が降らない年ははじめてだ。」




そもそもウユニ塩湖とはどんな場所なのか。

はるか太古の時代、まだ海の下にあったアンデス山脈が大量の海水と共に隆起した。地上に上がった海は途方もない時間をかけて干上がり、標高3,700メートルもの高度に世界最大の大塩原を生み出した。そこは現在、10,582平方キロメートルという広大な平原が塩で覆われ、まるで雪原を思わせる純白の世界が地平線の向こうまで続いている。

このウユニ塩湖には一年のうち限られた時期にまとまって雨が降る。その雨水が巨大な塩の平原を満たし、いくつかの複雑な条件が揃うと大地が鏡のようになり空の色を忠実に映し出す。その幻想的な風景は奇跡の絶景と言われ、天空の水鏡とも評されている。

通常、南半球のボリビアでは1月から3月が雨季にあたり、ウユニ塩湖は2月にベストシーズンを迎える。この時期に狙いを定めて遠く地球の裏側まで来たのにウユニが奇跡を起こす大前提となる雨が今年は全く降っていないらしい。

その日に塩湖へ行った人に話を聞いても、乾期のように真っ白な塩の大地が広がっているだけだったと話していた。それでも2、3日待てば、と前向きに考えて長期撮影に向けて食料や水の調達などの準備をはじめた。

だが、そんな希望は見事に裏切られることになる。日照りは日に日に深刻になっていき、水道が止まるなど、水不足は村の生活にも支障をきたしはじめていた。

村に来て5日目、とっくに撮影の準備は終わっていた。今すぐにでもウユニ塩湖に行ってしまいたいのだが、行ったところで撮影ができないのは分かりきっている。天気を待つにしても村にいる方が良い環境なのは間違いない。食料も電気もあるし、インターネットで天気図を見ることもできる。

だけど、ウユニにきて1週間近くたつのにまだ1枚もシャッターを切っていない…


もう答えは決まっていた。


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