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ウユニ塩湖紀行⑧

考えてみればウユニ塩湖が過酷な環境ということは分かりきっていた。何せ人間はおろか、ほとんどの生物が存在できない環境なのだ。一定の場所を除いて、基本的に土がないこの世界最大の大塩原では一切の植物は根を張り、育つことができない。当然、葉や果実もなく、それを食べる草食動物、そして、肉食動物も一切存在しない。

ただ唯一、高濃度の塩分を体内で自己分解できるフラミンゴだけが時々どこからともなく飛んでくる。精神的にも体力的にも限界だった僕には遠くにたたずむピンクの鳥達でさえ も孤独を和らげる存在になっていた。もしかしたら世界には僕とフラミンゴしかいないのではないかと本気で考えてしまう。

どんなに僕が下を向いてもウユニ塩湖は毎日毎日同じように何事もなく1日を終えていった。

ある日、5リットルのボトルに入った水を全てウユニ塩湖に撒いてしまったことがある。全く意識がなく、気が付いた ら空になったボトルを手に持っていた。いつまでたっても雨が降らないウユニへの怒りなのか、自暴自棄になったのか、手持ちの水で水鏡を作ろうと思って撒いたのたか、10,582平方キロメートルもの広さを誇るこの広大な大地を手持ちの水だけで満たすことなんてどうやってもできないと小学生でも分かる。

水を生み出せないこの地で5リットルもの貴重な水を自ら捨ててしまった精神状態、そしてどうにもならない状況に、もう終わりかな、と本気で考えてしまう。

村の方角はわかっている。その方向に歩いて いけばツアー客に出会うかもしれないし、最悪、3日も歩けば人のいる場所までは辿りつくことはできる。 もうテントも機材も全部置いて帰ってしまいたい。一刻も早くここから出て何も考えずにベッドでゆっくり 眠ってしまいたい。

一方で、ここで諦めたら全部終わるような気もする。この長期撮影だけでなく、始まったばかりの写真家としての人生も。

このふたつの気持ちがいつまでもぐるぐると頭の中を堂々巡りしていた。


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