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ウユニ塩湖紀行①

うだるような暑さで目が覚めた。

だらだらと流れ落ちる額の汗をぬぐい、腕を伸ばすこともできない狭いテントの中で腕時計を手探りで探す。時計に目をやるとちょうど正午、テント内の気温は38度、標高3,660m。脱水症状なのか高山病なのかわからないが、ひどく頭が痛む。

重い体をどうにか起こし、テントから出てみるといつものように地平線の向こうまで青い空と白い塩の大地が続いていた。紫外線たっぷりの強烈な日差しが降り注ぎ、360度どこを見渡しても人はもちろん、動物も植物も影すらない。

ここは南米ウユニ塩湖、世界で最も美しく、過酷な場所。

2016年冬、フリーの写真家として独立し、活動を始めた僕ははじめての海外撮影に向けて準備を進めていた。場所は南米ボリビアにあるウユニ塩湖。期間は1月の終わりから3月の中旬までの雨季シーズン。すでに3回訪問したことのある場所だが、世界中を放浪してもここを越える絶景を目にしたことがなかった。

ウユニ塩湖を知って、旅をはじめ、写真につながった。写真の前にまず旅があり、その旅の根っこにはいつも二十歳の時にはじめて見たウユニ塩湖の絶景があった。風景写真家として生きると決めた以上、この場所を撮らずして何を撮るのだろう。

いまや南米旅行でのハイライトになってしまったウユニ塩湖は多くの旅行客やメディアが訪れ、様々な写真があふれている。ただ、まだまだ人に見せたことのないような表情があるはずで、僕が撮りたいのはそんな風景だった。そんなお宝のような写真を撮るために何をするべきか考えた結果、突拍子もない結論にたどり着いた。

1ヶ月間ウユニ塩湖に張り付く。

ウユニ塩湖に行ったことのある人なら分かると思うが、通常の旅行者は車で1時間くらい離れたウユニ村を拠点にしてウユニ塩湖を訪れる。

そうではなく、広大なウユニ塩湖の中、もっと言えば塩湖の真ん中、誰もいないような塩湖に一ヶ月以上もテントを張って撮影をする。こんなことを考えた人間は世界中でも僕ひとりだろう。世界一の絶景を独り占めにして好きなだけ写真を撮る、そう考えただけで心が躍った。

ただ、この時の楽観的な判断が自分を生死に関わるほど苦しめることを僕はまだ知らなかった。後にキャンプ生活中に書いた日記には「あの判断をした自分をぶん殴ってやりたい」と書くことになる。



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