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3Dプリンタの圧倒的な自由度は複雑さの裏返し

3Dプリンタは理屈の上ではどんな形状でも造形することができます。射出成形のような金型は必要なく、造形品をどんな配置や密度で作るかも細かく決めることができます。これは従来の成形加工ではできないことです。3Dプリンタには高い自由度があります。

しかし、自由度が高いということは、複雑だということもであります。3Dプリンタは自由度を手に入れる代わりに複雑さを招き入れてしまっています。複雑さと付き合っていく、というのはある意味3Dプリンタの宿命ともいえます。3Dプリンタにおいて、自由度は複雑さと表裏一体で、複雑さをなくせば自由度もなくなってしまいます。

一般的な成形加工は、基本的には道をそれることができません。成形品を精度よく、安定的に得られるよう金型を設計して、金型に応じた条件で加工する、というのが基本的な考え方です。おおざっぱに言えば、あらかじめ設計で決めてしまうことで、不確定な要素は事前に排除してしまうという世界です。正解は事前に決まっていて、決まった考え方からの逸脱ができません。逸脱しようとしても、設計からずれたことをやることになるので、理屈的に成り立ちません。しかし自由度がない分、圧倒的に量産性があり、品質も格段に安定します。

対照的に、3Dプリンタでは目的を達成する手段は無数にあります。同じデータでも、どういう形でスライスするかは任意に決めることができます。インフィルは何%にする?造形スピードをどうする?積層ピッチは?多数個取りにする?など決めることが無数にあり、これらのパラメータはユーザーが選択することになります。

できることが増えるというのはいいことではありますが、それによって発生する収縮、熱の逃げ、面内バラつきなどの不確定な要素についても毎回考慮して決めていく必要があります。要は、一般的な成形加工では事前に設計で決めていて、使う上では考えなくてもよくなっていた前提条件を、毎回頭の中で考えて対処していく必要があるということです。自由度があるといっても、理屈から解放されたわけではありません。意識していないことも多いですが、毎回ユーザーが頭の中でシミュレーションして一つ一つ決めていくプロセスが必要で、これが3Dプリンタの複雑さ、難しさを生むことにつながっています。

3Dプリンタは仕組みはシンプルですが、実際のところはかなり高度な技術が要求されます。もしどうしてもうまくいかない場合は、複雑さを少し取り除くのも一つの方法です。よく言われるところですが、例えば3Dデータをシンプルな形状にする、同時多数個造形をやめて一個造形にする、大きなものは分割する、などがあります。3Dプリンタ使いこなしのスキルは、どの程度の複雑さと折り合っていけるかだという風に言い換えても間違いではないかもしれません。

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