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その2貨物新幹線と鉄道組織について[5]

5、その2貨物新幹線と鉄道組織について

その1からつづき


6、二酸化炭素の排出量については鉄道が圧倒的に優れている

 

 飛行機及び自動車との環境性能の違いについても貨物新幹線輸送は大きな差を見せつけます。移動距離に対する二酸化炭素の排出量については鉄道が圧倒的に優れていることは関係者間では周知の事実ですが、多くの人はそれほど知らないと思います。

新幹線はトラックに対してエネルギーは1/10、二酸化炭素排出は1/6と格段に環境性能がいいわけです。

昨今のSDGsの浸透は、投資家たちにESG投資として本気で環境問題について考えさせています。

このような点からも貨物新幹線は各財界からの支持が得られるのではないでしょうか。

そして余談としてですが、リニアと東海道新幹線そして北陸新幹線の“広義”の三重系に対して、貨物の二重系、東海道貨物新幹線と東海道本線貨物列車は国土の二大経済圏を強固に支えてくれるでしょう。

7、新幹線と空港、港湾


 全国新幹線網とハブ空港、港湾とのドッキング拠点機能へ取り組みを進めなければなりません。

国内の輸送量は効率化にかかわらずわずかな伸び幅であり、海外へ目を向けましょう。成長著しいアジア市場に対して、その輸送の要として飛躍が予想されるのは"佐賀空港"ではないでしょうか。

九州はアジアに対して地理的な優位があり、さらに長崎新幹線を佐賀空港経由し全国新幹線貨物輸送網の一翼を担うことでさらなる効率化が見込めます。

となると長崎新幹線のフル規格開業については前向きな検討が必要です。

8、新幹線という国家インフラを考える


 幹線鉄道は当時、軍事経済の重要設備であり、主に陸軍の意向で海岸からできるだけ内陸寄りにルートが選ばれました。

それは敵国の艦砲射撃を恐れたからです。全国の主要幹線はおおむねこれにのっとり内陸部を走っており、結果的に津波被害に強い理由にもなりました。
東海道線については新幹線も同様に日本アルプス横断工事が難航、それにより結果海岸寄りのルートになってしまいました。

しかし、北陸新幹線の全線開業、さらに現在では脱線防止の措置、また大規模地震発生時に遠方から早期に検知するシステム等、新幹線の設備に改善が常に成されて強固な体制が整っています。

これほど金のかけられたインフラは徹底的に使い倒さないといけないし、そもそも人口減少、高齢化、生産性の低さ、さまざまな諸問題を抱え、かつての勢いのないこの国ではやれることはすべて、「一生懸命がんばる」しかないというわけです。


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9、大きなチャレンジと官僚精神


 国鉄は明治以来の独占企業の気風が残り、経営者ばかりかお客様に直接会う現場社員ですら“乗せてやる根性丸出し”だったのは事実です。

お客様離れは次第に加速することになり、それから国鉄改革までの23年間一度も黒字に返り咲くことありませんでした。

もちろんまじめにお客様に向き合う国鉄係員もいたとは思います。

しかしながらその人たちは完全に少数派であり、だからこそのお客様離れだと考えます。

経営の悪化とともに、労使関係ばかりが先鋭化し、勤勉な日本人の組織風土の行き着く先は破滅だったわけです。


鉄道はなくならない。

この意識が危機感を生まなかったのです。知名度があれば、人材、ノウハウはあつまるけれど、しかしそれは忠実な業務実行のみにつかわれ、改善、工夫は見られません。

乗客本位の発想より、すでにある制度、組織に忠実な業務形態となり、系統別のセクショナリズムが優先します。

では現状はどうかというと確かにサービス改善、路線整備、延長と高速化の拡大施策はとってきました。

しかしパラダイム(ある時代に支配的な物の考え方・認識の枠組み。規範。)としてシステムを変革していくようなチャレンジはこれからなのです。

10、鉄道運営の取りまとめ役


 「一生懸命がんばる」しかないこの時代においては早急に国家体制の構築が必要になります。

在来線新幹線、旅客、貨物の具体的な運営、その指針を示す組織を設立する必要があります。

さしあたっては新幹線物流推進会議の立ち上げでしょうか。

かつては国鉄の救済は政府からありました。これは国鉄が国の管理のもと予算を請求し、施策をうっていたからというのもあります。

しかし一番大きいのはあの時代だったから実現できたということです。日本経済は隆々としていた時代に国鉄に予算を割くことは大した疑問も抱かないことでした。

今は違います。人口減少、経済規模は縮小していく中では、ビジネスも組織も、他者を救う余裕すらなくなるでしょう。我々は自分たちで考えなくてはならなくなったのです。

鉄道は強固に必要性が高い装置であり、その存在は多くの価値観(戦争と発展)を内在しているため、リーダーシップを発揮することが難しいものです。

技術、政治、経済、哲学によるシステムであり、広大な範囲の議論が必要であるにも関わらず、国内にリーダーは不在です。鉄道は戦争も平和も作ります。鉄道というものをコントロールする叡智の結集が必要です。

11、まとめ


 具体的に描いたようで概算まみれの記事でお目汚し失礼しました。

どちらにしても上述したようなパラダイムシフトが必要で鉄道マンの踏ん張りどころはここからでしょう。

勤勉性の行きつく先は組織の崩壊だと書いた通り国鉄の崩壊は進みました。しかし社内の政治的な力、内向きの労働、それらは現代の古き日系企業によくあるものではないでしょうか。

それらは私たちの働く意欲を削ぎ、意味のない疲弊をもたらしているでしょう。一人一人がこの時代に、かつての日本のような輝きを取り戻すために立ち向かわなければならないときが来たのです。

皮肉にもかつては勤勉性こそ日本の高度経済成長を支えた、と言われました(人口増加だけでなく本当に勤勉性は日本に成長をもたらしたと考えています)。

しかし今、かつての燃料、エンジンそれ自身が人の生きる意思を削いでいるのです。

顧客、従業員、その他すべてのステークホルダーが、協働し、不安を払拭し、創造的に関わりあえる世界のためにまだまだ汗を流す覚悟です。

おわり

参考 

人口減少と鉄道 石井幸孝
新幹線利用高速貨物輸送の可能性について  波床 正敏 ほか

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