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鉄道がその資格を取り戻してみた その4[7]

鉄道がその資格を取り戻してみた その4[7]

どーも、鉄道会社の総合職の人、です。

鉄道がその資格を取り戻してみた その4について

ご紹介させていただきます。

その3はこちら





12、和歌山電鐵の成功


 知る人ぞ知る和歌山県、貴志駅に至る14kmの路線を持つのは和歌山電鉄です。南海電鉄が沿線自治体にそれを伝えたのが03年10月。廃線反対の運動はイマイチ盛り上がりにかけるわけです。そりゃやはり沿線住民は車の利用者ですから。

 04年08月、廃止の正式発表、しかしながら並行する道路の渋滞が発生しやすく、自家用車利用者の中でも不満はありました。年間利用者は200万人。万葉線再生に尽力したRACDA高岡、えちぜん鉄道の再生に尽力したそのメンバーがアドバイスを行いました。日立電鉄廃止の際に後手に回った費用便益分析を和歌山大学、和歌山高専らが開始します。
 05年01月に貴志川線存続に向けた市民報告書を提出します。そこでは社会的に見て14.5億円の黒字があると示しました。そして自治体側が存続に向けた方策を示すことになったのです。

 ここで示されたのは上下分離でした。鉄道用地を行政が買い取り、運行する側に無償で貸し出すというものです。そして、地方鉄道再生に熱心に取り組んでいる岡山県の両備グループにラブレターを出します。両備グループ、いわゆる岡電は公共交通の旗手としてこの界隈には認識されています。

ポイントは、、

1、早い段階からの費用便益分析
2、欧州のように上下分離、運行サービスのプロを外部から登用
3、地元密着のサービスで利用者数を伸ばす。

しかしながら困難な例もあります。

13、都市再生の難しさ〜宇都宮市の例〜



 大型公共工事に反対する形で当選した福田知事でしたが当選後、LRT導入計画に反対します。

 その後、LRT賛成派の市長が当選し着実に進むかに思えましたがLRT反対派が市民団体を結成、関東自動車がLRT導入に明確に反対します。

 そんな中でトランジットモールの実験を行います。宇都宮市の大通りで実行します。そもそもバス対LRTも本質的に間違いで、お互いを補完するものです。
 海外の諸事例からポートランドではバスの利用減はLRT利用によって増加し始めます。
フランスのストラスブール、またルマンでも同様です。


 紆余曲折ありましたが宇都宮市は挫折から2011年に地区ごとの住民説明会をもって再スタートします。

 そもそもLRTや他の公共交通機関は水平のエレベーターと捉えられることがあります。欧州の地方都市では鉄道は社会インフラとして見られ、公的支援によって安価な運賃を実現しています。アメリカではもっと顕著で無料であることも少なくありません。百貨店のエレベータと同じなのです。道路整備にお金をかけるのも結構ですが公共交通機関にお金を使って街を活性化させるなら、結果として都市経営としては成功なのです。

富山市の挑戦
この部分は面白いので原著をチェックしてください。


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14、鉄道が拓く成熟社会



 日本が挑んできた大量輸送手段とは異なる移動の快適さと生活のクオリティ向上に焦点を当てた社会の構築が必要です。

エネルギーを浪費せず、環境効率が良く、老若男女の社会参加できる交通機関、それが鉄道、鉄軌交通LRTなのです。

鉄道の効果、その便益計算を考えてみましょう。交通施設とは一般に社会資本と呼ばれます。
社会資本の整備には費用便益分析によってその是非が問われるのが基本です。

旅客鉄道を新規に敷設するケースでは政府の便益計算マニュアルにおいて働く人の移動時間の変化分は時間当たりの平均賃金で計算されるというルールになっています。要するに乗り換えの利便性の向上と車内混雑の緩和が重要なわけです。

次に鉄道事業者の利益についてです。
新線により既存の路線の収益が上がる場合や、並行に新線を引くとマイナスになったりします。
混雑緩和、事故減少、汚染騒音の減少、二酸化炭素発生の抑制等を鑑みて、これらについても政府のマニュアルが整備されています。

これまでに所要時間の短縮で利用者に大きな利便性があり、事業者にも利益がありました。高度経済成長期、バブルには人口増加、地価上昇が続き、鉄道会社は不動産開発と新線の開発を行い、大きな利益を得てきました。
しかし、都市部の路線は出来上がり、人口が減少する時代に入った今日、新線の建設で所要時間が短くなったり、それが収益増に寄与することもなくなってしまいました。

これからは21世紀の費用便益分析が必要です。

15、計り知れない効果〜集積効果とオプション価値〜



 まずは集積効果ですが、これは雇用と産業ついての効果が主で、快適性も含んでいます。利便性の高い都市交通とは何かというと、人々は中心市街に戻り、都市が活性化している状態で、これが紙幣換算され価値とされます。

移動の質の問題も考えなければなりません。バリアフリーによる高齢者の外出の促進の効果、歩行障害の抑制、老年性認知症のコストの削減等です。これはこれまでのラッシュ、寿司詰、とにかく人を効率的に運ぶことを目的としていた鉄道の考えと全く異なるものです。

次にオプション価値についてです。バスと鉄道は違います。バスは乗り継いでいくのは容易ではありません。そして交通渋滞に巻き込まれば定時制は何も担保されず行楽シーズンには時刻表は全く役に立たないなんてことになります。例ですが、不動産広告の最寄りは鉄道駅です。それは鉄道駅にそれだけ価値があるからです。

リスク分散、基幹交通としての実力にいて考えてみましょう。大災害は鉄道の存在感を示します。東日本大震災で、石油列車は18両でタンクローリー40台分を運びました。短期収益だけで見れば採算性の低い鉄道も非常時の交通手段という観点で見れば存在価値を示すのです。

声を大にして言いたいことですが、長期的に意味があるかを見極めないといけない、短期的に見える部分しか見えていない、わけです。

つまりはリスク分散、災害時に幅広い選択肢があること、その観点からも理にかなった評価がされるべきです。


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参考文献 鉄道復権: 自動車社会からの「大逆流」
宇都宮浄人

その5に続く


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