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発声学の名著 『うたうこと』 フレデリック・フースラー/イヴォンヌ・ロッド・マーリングについて

このところ1ヶ月半ほど体調を崩して療養していまして、その間はスマホや本を読むくらいしかできなかったので、過去に何度も読んだ発声学研究の巨匠の本を久しぶりに読み返してみました。

フレデリック・フースラー博士の名著『Singen』/『Singin』邦題『うたうこと』。
かれこれ十数年ぶりに読みました。
(今回の記事は、いつもよりさらにマニアックな内容なので、歌いたいだけの方には退屈な内容かもしれません。)

『うたうこと』は発声学研究者のバイブル

この本は、発声研究者やボイストレーナーの間ではバイブルのような名著として知られています。
邦訳が一部違っているとか内容にも賛否両論はあるようですが。それでもなお素晴らし書籍です。

この本を購入してから30年ほど経ちますが、いまだに同じ日本語訳されたものが販売されています。それだけ多くの発声の関係者に読まれ続けているという事なんだと思います。

買った当時は、他の研究者の名著と呼ばれる訳本もいくつかありましたが、今はほとんど日本では絶版になってしまってます。

しかし『うたうこと』は、ずっと読まれ読まれいるだけあって、やはり他には類を見ない内容であったことは確かです。当時は解剖学的に喉の構造や機能を説明している書籍は、医学専門書以外では皆無で、発声の本といえば、共鳴感覚を中心にした私的な感覚と、そこから導いた個人的練習方法が書いてあるものが中心でした。
しかも、歌唱の複雑な発声の動きを解剖学的に詳しく解説した書籍は他にはなかったと思います。
以降に出た詳しい書籍も、ほとんどがこの本をベースに書かれていたり、引用されて書かれていることは間違い無いないでしょう。
やはり「巨匠の名著」と言わざるを得ない書籍です。

何度も読んだ時の進化と経過

この『うたうこと』は購入してから、何度読んだことかわかりません。
正直なところ、初めは難しくて全く頭に入らず、3回以上読んで、なんとか当時の自分として、大筋は理解したつもりでいました。

そこから、数年ごとに読み返していましたが、その都度新しい本でも読んでいるように新しい理解や、見落としていた視点など、以前の理解の浅さを反省する繰り返しでした。
はっきりとは分からない箇所があっても、その都度勝手な解釈をして片付けていたように思います。

本の前半は解剖学的な動きの説明が多く、そして後半から終盤に行くに従って、フースラー博士の個人的な仮説や意見も多く、両方の理解しにくい組み合わせでできており、本の主題や博士の真意を本当にわかるには、知識と多くの経験と聴き分ける耳とセンスが必要、という本だったわけです。

その後、僕も医学書や解剖学の勉強をしたことによって、前半部分は読み始めた頃とは違って、しっかり理解ができるようになり、当初なんとなくしかイメージできなかった動きや意味を、分かった気になって済ませていたことを残念に思い反省することもありました。

そんな繰り返しで進歩を感じつつ何度も読んでました。
そして最後に読んだのが10年前。
やっと全部を理解できたと感じ、その後読み返すことはなくなりました。

そして先日、十数年ぶりに「うたうこと」を読みました

そして、今回また読んでみて

以前よりずいぶん簡単に読めて、スーと内容が頭に入ってくるのが驚きでした。
ほとんどが、「そうそう、その通り」と思えるのが不思議でした。
また「なるほど、フースラー博士はそういう角度から書いていたっけ」
などの思いを持ちながら、最後までスイスイとかなり楽しく読めました

もちろん後半の仮説や意見は、自分の考えとは違うところも多々ありましたが、『うたうこと』は当時のヨーロッパのオペラ歌手の歌唱を指導することを基本に書かれたもので、日本人の独特な発声癖や、ジャンルや時代の違いによる美意識のギャップもあるので、食い違う部分があるのも当然のこと。
しかしそれらを考えると、仮説や意見も納得いくものでした。

そして、人の動きを細部まで書籍にすることの難しさ
また発声の動きを文章で表現ことの難しさは、自分も身にしみてわかっているので、これだけの内容を書籍としてまとめて書き上げた事が、本当にすごい偉業だと改めて思いました。

『うたうこと』の内容には賛否両論あるが

『うたうこと』の内容には、翻訳の間違など含めて賛否両論あるようですが、この本自体を評価できないとか、否定する人は、まず内容をちゃんと把握できていない上に、浅いレベルでしか歌唱という動きを理解していないのに、理解していると思いこんでいるのじゃないか、と推測します。

また、この本の一部に影響されて、細部にこだわって、そこばかり大事に教えている講師、例えば共鳴の位置ばかり重要視している講師なども、やはり浅いレベルで発声を理解したと思いこんでしまっているんだろうと思います。

『うたうこと』の主題 博士の主張

最終的には、フースラー博士は、発声は多くの筋肉や体の部位が一度に協力して動いてできる運動で、質の良い歌唱はバランスが全てであり、バランスを崩す指導に関して注意を促し、指導者は声そのものを聴き分ける能力こそが重要だと述べています。
細部までの説明は、それが分かる人だけの助けになるものだということも、書の端々で表現され、端々と何度も同じ主題を色々な角度で説明しています。

自分の発声理論との対比

そして、僕が提唱している「声帯のコントロールは、筋連鎖でつくる」という事を、実は『うたうこと』でも少し違った言い方で、同じ主題を言っていたんだということが、全体に渡ってやっと今回読み解くことができました。

違う角度の視点であっても、同じ主張と理解を感じられ、フースラー博士の感覚に、やっと追いついていたとを感じます
(フースラー信者にはかなり不評を買う言い方かもしれませんが…)

アンザッツについて
例えば有名な アンザッツ(声当て)も同じ主題なのです。
アンザッツは一見イメージ誘導や共鳴練習のようですが、全く違います。
実はフースラー博士はそれらの動きを、僕の言葉でいうところの筋連鎖」という現象の目安として、声帯のバランスを操作できると言っているわけです。
(ちなみに僕のレッスンではアンザッツは使いません。イメージ誘導で連鎖させるより、実際の声帯の動きを聴き分けながら体の動きの誘導でコントロールしレクチャーできるからです。共鳴の違いは自ずと感じます。)

アンザッツ以外の章でも同じ主題が随所に読み解けます。そして、最終的にそれらのコントロールやバランスをとる方法としてアンザッツという手法を提唱しているわけです。
そこは自分とは違うやり方ですが、今回また読み直して、
過去の自分と今の自分が見えてきて、歌唱運動の理解度の鏡になる本であった事にも気がつきました。

また期間をおいて読むことで、さらにまた何か見つかるのかは、正直分かりませんが、
やはりフースラー博士は間違いなく巨匠であり、「この『うたうこと』はいろいろな意味でやはり名著なのだ」と言わざるをえません。
と今回改めて感じました。
以上です。

読んでいただきましてありがとうございました!!
これからも発声に関して、いろいろと書いていこうと思います。

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今後ともよろしくお願い致します!!



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