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ウイスキーで飲みこんで。

先日の話しを少しだけ。


ー 俺、晴れ男だから。

そう言って車を出した5分後に雨が降った。
梅雨明けしたはずなのに。

今でもお世話になっている元上司の、天気に関する発言はいつも雲行きが怪しい。

久しぶりに飲みに行こうかと誘われて、私も仕事の相談があったのでいいタイミングだった。とにかくいつもタイミングがいい上司だった。

たらふく日本酒やら泡盛やらを飲んだ後、おぼつかない足取りで私の隣へきた。足がおぼつかないのはビジネスバッグが重いせいだけではないだろう。そして、右手を肩に回しそぼそっと呟いた。

ー 奥さんが浮気した。

ー 、、、、、、。

ー 恋愛がしたいらしい。

いきなりすぎてわからない。そんな気配微塵も感じたことがないからなおさら理解するのに時間がかかる。

私は、こういう時どう返したらいいのか分からなくなる。結果、話しの方向性を少しずらそうという結論に至った。

ー 結婚と恋愛ってなにが違うんですか?

ー 何が違うんだろな。

あまり激しいリアクションを取らないように努めたのだが、決して派手とは言えないネオンの光が激しく揺れてみえる。

繁華街を抜けて、バーに入った。赤ワインを頼んだ上司に合わせるように、私もそれで。と店員さんに伝えた。こういうときはメニューをあれこれ見て、悩んでる場合じゃない。飲み物なんかはなんでもいいしどうでもいいのだ。

ー なんか、その兆候とかってなかったんですか?

正直、浮気話しの第二試合を開始する気はさらさらなかったのだけど、帰り間際になってその話しをやっかいな風邪ばりにぶり返しそうだったから、なるべく早い段階でスタートしておいた方が良さそう。と思ったのだ。

ー あった。

ー さすがに朝帰りとかはないですよね?

ー あった。

ー 知らない間に洋服とか化粧品がめっちゃ増えてるとか?

ー あった。

どんどん出てくる。怖い。
「あった。」が止まらない。
このままいけば「100あった」みたいなわけわからん単位が出来上がりそう。

「あった」といえば探しものが見つかった時のあった!!!くらいが一般的で、こんな短時間でこんなに見つけてはいけないものを見つけるつもりではなかったんだ!!

ー まさか奥さんの携帯見たとかはないですよね?

ー 見た。

オワタ!

終わりである。
質問をショートカットし過ぎた。
朝帰りとか化粧品や服をやたら買うくらい、別に浮気してなくてもあるだろう。女性にとっては生活必需品かもしれないし。

ー 携帯、ロックかかってなかったんですか?

ー 解除した。

怖い。ぶるぶる震えるくらい怖い。顎はがくがくして店内に震度3の緊急地震速報出そうなくらい震えが止まらない。

ー 相手はどんな人なんですか?

ー ゆうじ。

やばい。面白くなってきた。
絶対にそんなことをしていけないという縛りが、ちょうどガキ使の笑ってはいけないを思い出させる。

年齢を全く想像させない名前。ゆうじ。ゆうじさんは全く悪くないのだけど、なんでこのタイミングでゆうじかがわからない。
じゃあなんだったらいいんだ!ってなりそうだけど、おっしゃる通り多分どの名前がきても同じ展開だっただろう。

ー 離婚するんですか?

ー したくない。

これは難しい展開。もちろん離婚せずにそのまま順風満帆にいけば良いのだけれど、恋愛したい奥さんと疑って携帯見てしまった旦那さんとの溝はマリアナ海溝くらいある。

多分もう埋めるのは無理だろう。
それにしても、女性に限らず結婚後に恋愛がしたいと思うのはなぜだろうか?

ー 結婚してから、他の人のことを好きになったことはあるんですか?

ー あった。

出た!あった!!まさかの過去形のあった!「ある」でよかったはずなのにあえて過去形でお届けしてくれるあたりが好きなとこなんだよな!!

ー 奥さんもそれ気づいてたんじゃ?

ー 多分バレてない。

メンタルばけもんである。メンタルばけもんはある意味鈍感力のことを言うのかもしれない。敏感であればあるほど頭で理解する速度よりも圧倒的に早く心模様が敏感に変化していく。
視野もまるで、自分より前しかないようだ。自分から後ろが一向に見えてない気がする。

ー これからどうするんですか?

ー とりあえずきちんと話し合う。

携帯を見たことも自分も過去に違う人を好きになったことがあることも全部話すそうだ。
とことんまっすぐな人なのか、まっすぐに屈折した人なのか分からなくなってきた。

とにかく少しでもいい方向に落ち着くことを願うしかない。男女の仲は難しい。いや。難しくしてるのか。とにかく私はこの手の話が得意ではない。

帰ったらウイスキーを飲もう。
ロックで飲もう。
ソーダなんか入れたって、テンションはハイにはならないんだから。


     明日、晴れるかな。


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