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【物語】組曲:忘れ物 Op5-2


※こちらの物語はぜひ、運動会でよく流れる「組曲 道化師 Op.26-2(道化師のギャロップ)」という曲を頭に思い浮かべてお読みください。

チャーーーチャーーーチャーーーチャーーー  
チャラリラリン♪

チャーンチャーンチャーンチャーン
チャーチャーチャーチャー

タラリラリッラ タラリラリッラ 
タラリラリッタ チャ チャ チャ♪


わーすーれーもーのー
しーたーよー!!

これはまずいぞ、これはまずいぞ、
お昼時間が、消える♪

頭の中で運動会の時に聞いた「道化師のギャロップ」が演奏を始めた。

僕は、まっすぐに並んでいる集団登校の列を乱して、先頭にいる班長のもとに向かう。そして、現状を報告した。

「班長!お昼ご飯忘れました!!」
トラックが通ったけど、僕の声はトラックより大きい。

「早く取りに行け!!!先に行くからな!!!!」
班長のところにもトラックが通り過ぎたけど、班長の声は僕より大きい。

「ラジャー!!!!!」

『集団登校の列、乱すべからず』という掟を破ったことと、忘れ物を取りに行く許可をくれた班長に敬礼して、僕は来た道を逆走した。

自転車に乗った高校生や通勤途中の車とすれ違う。
さっき聞いたばかりのお弁当屋さんから、「おにぎり、握りたてですよ。」という掛け声がまた聞こえた。

商店街を駆け抜けていくと、集団登校を見守るおじさんとおばさんが戻ってきた僕を見て穏やかに話しかけてきた。

「あらあらー?忘れ物かしら?」
「気を付けるんじゃよー。」

「ありがとう!」

僕は、元気いっぱいに走りながら返事をする。
ありがとうの「う」が言い終わるころには、おじさんとおばさんが僕の後ろにいた。

朝から汗だくだ。
だんだん呼吸が乱れてきた。
しかし、体育の1,000m走で鍛えた体力は伊達じゃない!

走って走って、横断歩道に来た。
赤信号なので、仕方なく止まる。
汗がブワッと噴出した。

横断歩道の向こうには、別の集団登校班がいる。
その中の何人かは、「あいつ、忘れ物したな。」というようにこそこそ話していた。

恥ずかしい。
しかし、戻るほかあるまい!!

今日のお弁当には、大好きな大好きな唐揚げが入っている。
お母さんの魔法で、昼過ぎでもカリカリしていて、冷えても肉汁のうまみが消えない絶品唐揚げが。これを食べずして午後の授業ができるか!!!!

横断歩道が青になった。
先程向かい側にいた登校班とすれ違う。

「おい、お前何忘れたんだよ!」
その中にいたクラスメイトに話しかけられた。

唐揚げ!!!
間違えた。
いや、いいのか。

友人があっけにとられている間に、僕は住宅地に入った。

右も左も家、家、家。
時々アパート、そして家。

住宅地を入ってすぐ、青い屋根の家を左に曲がる。
大きな庭がある家を横目にまっすぐ走る。
1つ目、2つ目の十字路をスルー。
3つ目の十字路を右にある白いアパート側に曲がったら、ちょっと古びて茶色になった平屋の家が見える。僕の家。

玄関の扉を開ける。
バタン!!!

「ただいま!!お弁当忘れた!!!」

靴を蹴るようにして脱ぐ。
狭い廊下の一本道を通ってリビングに行く。リビングには、食卓でコーヒーを片手に新聞を読むお父さんがいた。

「どうした?」

黒ぶち眼鏡をくいっと上げながら、お父さんが僕を見る。

「お弁当忘れた!」

僕は答えながら食卓を見る。
ここに置いてあったはず、、

、、、お弁当が、、、ない??

「ああ、弁当なら、、、、、母さんが学校に届けにいったぞ?」

僕は膝から崩れ落ちた。












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