風花が舞う

私は北海道の田舎町の出身だ。北海道でも、雪の少ない地域で雪祭りならぬ、氷祭りをする地域でスピードスケートが盛んな街だった。北海道でも冷え込む地域で、真冬の夜の凛として澄んだ空気が好きだった。晴れた夜には街灯が少ない地域だった事もあって、満天の星空が広がった。

幼い頃から、辛い事がある度に部屋を抜け出し、冬の夜空を見上げた。大人に理不尽に怒られた時。母に理不尽な要求をされた時。大人の男性に身体を弄ばれた時。夢や希望を全て壊された時。雪で作った椅子に座ってただ、夜空を見上げた。このまま、凍死できたら幸せではないかと思いながら。

それでも、私は故郷の田舎町が大好きだった。あの町で就職し、結婚し、死ぬまであの町で暮らすのだと信じて疑わなかった。あの町で幸せな人生を送ると思っていた。子供は、男女一人ずつを授かり、孫にも恵まれ、縁側で大好きな夫と二人、猫を撫でながらお茶を啜る。そんな、穏やかで和やかで幸せな日々を過ごす事を夢見ていた。

人生はままならないとは言え、思い描いていた人生と違い過ぎて、今になって驚いてしまった。私が愛した人は皆、私を愛してはくれなかった。違うな。私は愛されないように立振舞ってきた。怖かったから。愛されて幸せになって、そしてその先には何が待ち構えているのかを知るのが、心底怖かった。

こんなにも、愛されたい。愛して欲しい。大切にされたい。幸せになりたい。抱き締められて、キスをして、愛する人の腕の中で眠りたいと切望しているのに。それでも私は人が怖い。愛されるのも大切にされるのも愛するのも良い人でいるのも、全てが怖い。

こんな私でも息子に恵まれ、幸せではある。息子との暮らしは自由で楽しい。大切で仕方ない、愛しい存在。それでも、愛した人から愛されたいと、今でも記憶の中の故郷のように、心のなかで風花が舞う

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