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THEIR story

前回は、私の職場である医療機関で出会う人々のストーリー。
2016年4月に「39歳11ヶ月の新人看護師」として
入職してから、2年間の介護老人保健施設を除いては、
対応する患者さんが比較的女性が多かったので、
「HER story」とした。

今回は、2年間の介護老人保健施設(老健)でのお話。
大学院の修士課程の研究テーマが
日本の介護老人保健施設で働くベトナム人介護職員だったので、
非常勤看護師として勤務しながら、
倫理的な配慮を行なった上で、フィールドワークさせてもらった。

修論の「主人公」はベトナム人介護職員だったのだが、
介護の対象者である日本人要介護者にもインタビューを行なった。
そこで、私は何度も雷に打たれたような経験をする。

基本的に入所や利用をできるのは、要介護認定を受けた高齢者。
認知症の症状を呈する人も多い。自分自身のこと、
家族のことの記憶を失い始めていたり、忘れてしまっていたり、
真実とは異なる認識をしていたりする人もいる。

何度も同じ質問をしたり、
何度も同じ話を繰り返したり、という人もいる。

元々の性格、人格と変容してしまう人もいる。

ただ、じっくり話を聞くうちに(看護師として勤務する日は
仕事が優先なので、腰を据えてコミュニケーションを図ることは
できなかったが、フィールドワークとして介入する時は、
深く長くお話をさせてもらうことができた)、

その人の「核」に触れることができる。
第二次世界大戦前に生まれた人も多く、
戦争時代の体験を生々しく語ってくれ、
疎開した思い出、子供の頃の社会の様子を
淡々と、時に笑いを誘いながら、言葉を紡ぐ。

今も、お話を聞かせてくださったみなさんの顔が
目に浮かぶ。
とある男性は、認知症が進んで、時に
身体的に言語的に「暴力」をふるうことがあったが、
ある日、心が落ち着いたところを
見計らって声をかけてみると、
自分の出身地について、懐かしそうに
鮮明に語ってくれた。
目の前に聳える山々や、子供の頃に
友達と潜った海、砂浜で焼いた焼き芋の話・・・・

「あんたを連れて行ってあげたいなあ。
山も海も見せてやりたいなあ」と何度も私に言ってくれた。
普段、会話など成り立たなかったこの方との対話は、私の
胸の奥底に沁みた。

歳を重ねることによって、身体的に老化が進み、
脳の機能が低下するのは抗いようがない。
多くを忘れてしまって、記憶が薄れていっても、
その人の大事なことは最後まで残り続ける、
と私は信じたい。

ただ、「忙しい、忙しい」と日々の仕事や日常のあれこれによって、
ゆっくりお話を聞く機会がないだけ、
と私は思いたい。

懐古主義を推進するのではないけれど、
核家族化が進み、高齢者と触れ合う機会はどんどん減っている。

人生の先達の語りに耳を傾けるチャンスを大事にしたい。
人生の先達たちは実は「すぐ近くにいる」。

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