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KYOSEI

真夏の週末の昼下がり。
相方と2人でファミリーレストランへ。
家族づれや友達同士のグループなどで賑わう店内。

噴き出る汗を拭き、扇子であおぎながら
「ビール?ワイン?」とメニューを覗き込んでいると、
隣のシートから、2歳くらいの女の子がこちらをジッと見ている。
子どもが屈託なく気になるモノを凝視する姿は愛らしい。
隣には少しお疲れのようなママ。
女の子がシートとテーブルの隙間から落ちないように、
食べ物の上にダイブしないように左手で抱えながら、
空いた右手でお食事。

ドリンクはセルフサービス。
コップが空になったのか、
女の子に「お水もらってくるからね。
ちょっと待っててね」と言って、猛ダッシュで、
ドリンクコーナーへ走り、戻るママ。

反抗期真っ盛りの17歳の愚息に重ね
「こんな大変な日もあったな」と懐かしい思いと、
必死に育児するお母さんに何もできないもどかしさ。

90歳近い女性から聞いた話を思い出す。
田舎から結婚のために来阪し工場を経営するお家に
お嫁入りして4人の男の子を授かった。
工場では多くの従業員を抱え、その世話や家事を
一手に引き受け夫と切り盛り。
「よく4人も育てられましたね」と感嘆の声を挙げると、
「苦労と思わなかったわ。工員さんや事務員さんたちが皆で
世話してくれたからね。小さい時はいつも誰かに抱っこされてたよ」と
笑顔で語ってくれた。

少子高齢化が叫ばれて久しい私たちの社会では、
「みんな」で子供を育てることをしなくなってしまった。
個々人が尊重されるのは、非常に大切なこと。
一人一人が「人」として、意思を持ち、自由に生きていくことができるのは
とても素晴らしい。

でも、行き着くところが他者との分離なのであったら、それは悲しい。
私たちは、無垢で素直なかわいいお子さんを「かわいいね」と抱っこしておくから、お母さんがせめてお食事くらいはゆっくり摂れる時間を確保してほしいだけ。
お母さんから「食べる間、ちょっと見ていて」って
言ってくれてもいいんですよ。
残念ながら、私たちは声を掛けることができず、
お母さんも、私たちに助けを求めることもなく。

持続可能な子育てを支援することが、持続可能な社会を作り、
そして持続可能な日本、引いては世界を作っていくのに。

かき込むように食事を終えたお母さんにベビーカーに乗せられて、
私たちに「バイバイ」と手を振ってくれた女の子。
お母さん、ごめんなさい。お役に立てなくて。
共生社会には、ほど遠い。


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