見出し画像

イベント友達 #01/01

『0101 お正月』

1月1日、0時0分、お正月。

美波:来年も……あ、あはは…先に年明けちゃったね

美波:あけましておめでとう、〇〇!

カウントダウンが終わると同時に、神社に集まった人々は大きな声をあげた。

美波:来年もよろしくって言おうとしたのに先に年が明けちゃったよ〜

〇〇:すごい中途半端なタイミングだったな

美波:ほんと、上手くいかないな〜

美波の職場への迎えから始まったこの1日は、幾度となく遠回りや遅刻を繰り返していた。

しかし2人は悲しそうな表情一つ見せず、「私達2人らしい」と笑い合いながら参拝列に並んだ。

美波:私今年、大吉だったんだよ?すごくない?

〇〇:ちゃんと大吉効果あった?

美波:うーん、特になかったかな?別に仕事も普通だったし、運も特に良かったわけじゃないしね〜

〇〇:大吉で普通なら凶とか引くとやばいんじゃない?

美波:確かに、え、急に不安になってきたんだけど!!

〇〇:あはは!今更怖気づいてるの?

美波:うっわぁ〜怖くなってきたぁ…

怖気付く美波とは裏腹に、三杯列は少しずつ前に進み、〇〇達の出番が近づいていく。

〇〇:やべ、5円あるかな

美波:私1万円くらい入れようかな…

〇〇:入れる額がデカくても別にご利益は変わんないと思うぞ?!

いつも通りのボケをしながらも2人は財布の中にある5円玉を賽銭箱に入れ、鈴を鳴らした後、手を合わせて目を閉じ、頭を下げる。

〇〇:……

美波:……

普段からかなりうるさいはずが、2人は静かに1年間を振り返りながら、目を瞑る。

今年1年間の仕事や人間関係、悩みや様々な出来事、そして今隣にいる幼馴染への想い。

様々な思いを心に浮かべながら、2人は祈る。

「今年も2人で色々なところへ行けますように」

そしてその願いを祈り終えた2人は、息の合ったタイミングで笑い合い、その場を後にした。

美波:つぁー、これで今年の分の祈りは終わったし、あとは日の出だけど……それまでどうする?

美波の発言を聞き、〇〇は腕時計を確認するが、時間は未だ0時24分と、初日の出までの時間はまだまだ充分にあった。

〇〇:じゃあ、とりあえず屋台でも回るか!

美波:賛成ー!

つい1時間ほど前に行きつけの喫茶店で腹ごしらえをしたはずの2人は、神社にある屋台を回った。

カステラ、焼きそば、アイスクリーム、たこ焼き等、この町で1番栄えた屋台を2人は堪能した。

美波:改めてすごいねここって

美波:年末年始の神社でこんなにいっぱいの屋台がある所なかなかないよね?

アメリカンドックを食べながら美波は歓喜した。

〇〇:ここって確かあれでしょ?日本で1番栄えた神社って言われてるらしいよ?

美波:うっそ!私達、地元出てから4年間毎年ここ来てるけどそんなに有名なとこだったの?!

〇〇:うん、だから見てみろよ

そう言って〇〇が指を刺した先を見ると、そこには参拝列の大行列が見えた。

美波:うわぉ……すっごい列だ……

〇〇達が到着したその時は地元民だけがいたが、年越しから時間が経ち、外部の人間達も日本1の神社の姿を拝もうとする者の姿が顕著になっていた。

〇〇:人も多くなってきてるし、そろそろ岩谷山の方に向かうか

美波:そうだね!!

美波:最後に……カステラだけ……

〇〇:おい!さっき買ったやつはどうした?!まさか全部食べきったの?!俺の分は?!

車を走らせおよそ40分が経ち、3時がすぎた頃、夜の山道に、ビビりながらハンドルを握る〇〇の車が山頂を目指しおそるおそる加速していた。

美玖:はいビビリくん、あ〜ん

隣でカステラを食べる美波は、初の山道に恐れを抱くためハンドルから手を話せない〇〇の口元にカステラを運ぶ。

〇〇:あ、ありがとう…

少し躊躇いながらも、〇〇はありがたくあ〜んを頂く。

美波:去年まではジャンケンで負けてた私が車を出してたけど、まさか今年は〇〇の運転とはねぇ

〇〇:3年連続美波に任せてたけど、まさかこんな道が怖いとは思わなかった……

美波:3年負け続けた私なかなかだね

美波:ま、そのおかげで今は山道なんて、ビビり〇〇くんとは違って平気で運転出来るけどね?

〇〇:そんなこと言っていいの?ハンドル握ってんのは俺だよ?

美波:うん、待った落ち着いて?その暴挙に出るには自分自身の命も賭ける事になるの忘れないで??

〇〇:何か言うことは?

美波:すみませんでした…

〇〇:ん、よろしい

美波:あの…カステラどうぞ…

〇〇:うん、よろしい!

それから車を走らせること約30分後、いつもの山道を乗り越えた先にある駐車場に車を停め、2人は細く暗い道を歩いていた。

美波:あ、相変わらず……ここ怖いなぁ……

ホラーが苦手な美波は、盾にするために〇〇を先に歩かせながら怯えていた。

〇〇:さっきと違って今度は美波がビビってんじゃん

美波:う、うるさい!ビビってないもん!

〇〇:ほんと美波って昔から強気なくせに心霊とかホラーとか苦手だよね

美波:そ、そんなこと…

〇〇:別に俺の前で強がらなくていいよ…だからほら

強がりな彼女だからこそ、〇〇は彼女の強さに頼るように行動をする。

〇〇:俺も怖いからさ、手繋いでて

勇気を振り絞り、言葉を絞り出し、手を差し出す。

普段言わない言葉と取らない行動に羞恥心を覚えたためか、顔を真っ赤に染めた〇〇は美波の顔を見ることはできなかった。

美波:そういう事なら……しゃーなし……

同じく顔を真っ赤に染めた美波は手を握る。

〇〇:よし、後一息……登り切るぞ……

細く暗い夜の山道を、繋がれた手に安心感を覚えながら頂上へと歩く。

そして2人は頂上についた時、光はそこにあった。

〇〇:お、おぉー!すげぇ!!日の出だ!!

美玖:本当だ!すごい!きれー!

2人の目に映ったのは、太陽のほんのごく一部。本体の100分の1、もしくは1000分の1ほどの光。

しかし、2人の目は光を捉えた。

そして太陽の1部は少しずつ姿を現し始める。

美波:見てみて!〇〇!太陽が本当にゆっくりだけど徐々に見えてきたよ!

〇〇:だな!すげぇ綺麗……

1年の間、毎日自身の役目を果たした太陽が2人の幼馴染を照らす。

美波:〇〇、改めて去年もありがとうね

〇〇:俺の方こそだよ、やっぱり美波いると落ち着く

〇〇:俺……本当に言語化するのが下手だからさ……何言ってるかわかんないと思うけどさ

〇〇:やっぱり俺は、美波がいないと生きてけない……

〇〇:そう思うんだ…

美波:……

〇〇:あ、あはは……ごめん、変なこと言ったね。今俺が言ったことは全部…

美波:私はね、全くそうは思わないんだ

〇〇:え…?

美波:正直な話をすると、私は自分の好きな事以外は興味ないし、基本めんどくさがりなんだ

美波:だから、私は何かがないと生きていけない

美波:そんな事を思った事はない

〇〇:……

美波:でもね、言ってる意味は同じように思うかもだけど、私はこう思う

美波:〇〇がいるから私は生きていける

〇〇:え?

美波:あなたがいるから私は生きてるの

美波:だからあなたがいないこの世界では、私は生きているのかどうかなんてわかんない

美波:だから、あなたがいれば生きていける。あなたと共に生きているんだよ、私は…私たちは…

美波の告げた全てを〇〇は理解する事はできなかった。

それでも、彼が生きた22年間は、22年間生きた彼女の中で今として存在していた。

それが今、彼の中で分かった。

美波:ねぇ〇〇、私は今日ね、あなたに伝えることがあったの

美波:でもまだいい。まだこのままでいたい

美波:だから、このまま私と"イベント友達"といてくれるかな?〇〇くんよ

答えは一つだった。

〇〇:もちろん、俺も君とまだこのままだいたい

〇〇:よろしくね、"イベント友達"さん

光に照らされながら手を繋ぐ2人は、新年を迎え、新たな信念を得て、また向き合った。

〇〇:さぁ、そろそろ降るか!

美波:そうだね

繋ぎ続けた手を引き、2人は山を下る。

美波:〇〇、改めて、明けましておめでとう

…to be continued

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?