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イベント友達 #12/25

『1225 クリスマス』

12月25日、4時53分、クリスマス。

〇〇:はぁー……寒っ……

肌寒い冬の朝、始発列車が走り出す前に最寄駅に着くために家を出ていた。

〇〇:ふぁ〜……ほんでめっちゃ眠……

普段から生活リズムが破綻している〇〇にとって、早起きをすると言うのはとても珍しく、今日1日は欠伸に蝕まれる日なのだろう。

文句を言いながらも5時4分、彼は始発列車運行10分前に待ち合わせ場所についた。

美波の姿はなく、〇〇は右手に巻いた時計で時間を確認し、まだ美波に時間で攻められない事を悔しく思い、備え付けのベンチに腰掛けた。

〇〇:ふぅ……って冷たっ!!

ベンチに腰掛けた瞬間、両の頬に氷のような物が触れた感触が走った。

美波:おはよ〇〇!これで目が覚めたかな??

背後にいたのは、冷えて冷たくなったミルクティーを両手に持った美波だった。

〇〇:美波……何してんの?本当にバカなの?目が覚める以前に死にそうなんだけど……バカなの??

〇〇:てか何で2本ともアイスなの?バカなの?覚めて自分の分はホットにしなよ…

美波の愚行に〇〇は疑問を抱く。

美波:いいじゃん!どうせ電車の中は暑いんだし、それじゃあ〇〇行くよ!レッツゴー!

しかし美波は何の疑問を抱かず、季節違いのアイスミルクティーを〇〇に手渡し、改札口にICカードを当て、ホームへと歩き出す。

〇〇:ほんと……マイペースな奴……

美波:何ニヤついてんのよ!電車来てるよ!馬鹿〇〇!

〇〇:誰が馬鹿だ!あ、ちょ、待って!!

改札の向こう側にはすでに電車が来ており、〇〇は急いでICカードを取り出していた。

美波:それでね、私やっぱり1番最初に乗るのは、背面ジェットコースターだと思うんだよね〜

電車に乗り込んだ途端、美波は1番初めに乗り込むアトラクションを提案していた。

美波:やっぱり初めから慣れないと、その後に乗るアトラクションがしんどくなるわけよ。だから初めは派手だけど背面で安定の……

〇〇:ふふっ、これだからテーマパーク素人は……

美波:なにをぅ?!

〇〇:やっぱり1番初めに乗るべきは、バーニング・ウォーターのモルアンツ城を乗るべきに決まってる

美波:はぁ?!バニウォタが初手?!

〇〇:考えてみな?ユニーバーランドに来る客はまず、何から始める?

美波:えっと……カチューシャを買うかな……

ここで1つ〇〇は見当違いに気がついた。彼の予想ではここでジェットコースターに並ぶ事が一般人の行う最善手と踏んでいた。

だが違った。

〇〇:あ、確かに。じゃあ、俺らもカチューシャから買いに行くか……

美波:賛成ー!!

2人のやかましい幼馴染を乗せた電車は、片道2時間を経て、目的地へと到着した。

美波:ついたー!ユニバーランドぉぉ!!

目的地へと到着した瞬間、奇声をあげたり、建物や着ぐるみの写真を撮り、とてもやかましかった。

〇〇:おい、やかましいぞ。早くカチューシャ買いに行くよ

美波:はーい

出入り口すぐそばにあるグッズ屋さんに寄った2人はお揃いの恐竜に食べられるカチューシャを買った。

店員:お2人とも、お揃いのカチューシャとてもお似合いです!それでは、楽しんでってね〜

幾度となくそう言われ、2人は少し恥ずかしいながらもお礼を言いながら最初の目的地へと向かう。

〇〇:じゃあ、早速!モンアンツ城へゴー!!

ジャンケンと言われる最高効率で決定権を得る儀式を制したのは〇〇だった。

美波:ちなみに〇〇はバニウォタどこまで見たの?

〇〇:ばか言え!シリーズ全部見てるに決まってるだろ!

アトラクションの列を並び始めた2人は、長時間の無言になる事はなく、2人話し続ける。

美波:昔から〇〇、オタクだっもんね〜

〇〇:ちなみに美波みたいに原作読んでないのにアトラクションだけ好きな奴を俺は蔑んでるよ

美波:それ思ってても本人に言わないほうがいいよ?

そんなやかましい会話により、15分と言ったかなり短い並び時間を終える。朝早い時間のおかげで未だに他の入場客の姿は見えなかった。

〇〇:まさかこんなに早く来れるとはな!!

美波:ほぼ並ぶ事なく歩いてたもんね!

店員:お次のお客様お2人さまですかー?でしたらお次のお客様の後にお続きください、いってらっしゃーい!

クルーの指示に従い、2人はアトラクションに乗り込む。

映像:私の声に合わせるのよ?3…2…1…

〇〇、美波:バーニング……ウォーター!!

2人は2人でいる間、恥じらいという物は捨てていた。

美波:あー、楽しかったぁ!じゃあ次は…背面ジェットコースター行くぞー!!

〇〇:余韻は?!

美波:そんなの浸ってる暇なーい!!

そのまま美波は休む事なく、〇〇の手を引っ張りながらジェットコースターエリアまで走る。

〇〇:せめて歩いて行こうよ……

当テーマパークの顔であると言われる背面ジェットコースターは流石に人で溢れかえっていた。

〇〇:85分だって……

美波:まぁそれでもだいぶマシなほうでしょ。てか〇〇前話してたあのアニメ見ようよ!

そう言って、美波は自身の携帯とワイヤレスイヤホンを取り出し、片耳を〇〇に手渡した。

〇〇:お、おう……

ジェットコースターを待つ間、2人は1つの携帯画面を見ながら列が歩き出すと、2人も歩き出した。

美波:え、すご……こんなにお化けに対して強気な小学生とかいるの?

〇〇:まず小学生こんなに落ち着いてない

だが、アニメを見ていても2人はやかましかった。

そんなこんなで2人はお昼時まで乗れる分のアトラクションを乗り込んだ。

美波:はぁ〜乗れるだけとりあえず乗ったね〜

朝のゴールデンタイムを狙った2人は、朝のうちに半分以上のアトラクションを制覇していた。

〇〇:な!だいぶ乗れたな!それにそろそろお腹空いてきたな…

美波:確かに、そろそろお昼にしようか

そして2人は目の前に見えたハンバーガー屋さんに足を運ぶのだが、それは少しタイミングが遅かった。

〇〇:うわ、席全部埋まってんじゃん…

ダイナーのような内装のハンバーガー屋は多くの客と被り物により、席は埋まっていた。

美波:ぬぬっ、仕方ない。多少根が張るけど別の店にしよっか!

そして2人は、幼い頃に2人で見た巨大な魚に襲われる映画を題材にしたアトラクションスペースに備えられたレストランで昼食を取った。

美波:ねぇ見てよ〇〇!このフライドチキンはウォーズのお肉かな?!

〇〇:チキンは鳥だよ!!

美玖:あ、そっか、このシュリンプバーガーは……

〇〇:シュリンプは海老!!てかシュリンプに関しては見た目で分かるでしょ?!

美波:サメ肉ないのか……

そう言って美波は目の前にあった"サメ肉ナゲット"と表記された商品を口に運ぶ。

〇〇:いや今食べてるじゃん!って、昼飯くらいにボケるのやめようよ…

美波:〇〇は本当にダメだねぇ?そんなんじゃいつまで経っても彼女出来ないよ?

〇〇:っ……み、美波こそ、そんなにボケてばっかりだから彼氏の1人も出来ないんだろ?

少しダメージを負いながらも、〇〇は反撃する。

美波:私はいいんだよ、こうやってボケてたら〇〇がツッコミを入れてくれるだけで何もいらないよ…

〇〇:っ、なんだよそれ…

美波:あ、私もそれ食べたい!一口ちょうだい!!

〇〇:あっ、バカ!これは俺のクリームソーダロールケーキだぞ!

美波:なんでデザート先に食べてんのよ!!

どこにいても変わらない2人は、いつも通りの2人で2人だけの時間を過ごす。

映像:眠れ……眠れ……この列車の中で……眠れっ!!

美波:あれ、こんなシーン原作にあったっけ?

〇〇:2人で映画見に行った奴ってさっき言ってたじゃん!内容だけ忘れたの?!

人気アニメーションとのコラボアトラクション。

店員:私……キレイ……??

美波:ギャァ!!すごいキレイです!!お相手がいなかったらぜひこの男があなた様に!

〇〇:ビビりながら褒めて俺を紹介するな!

妖怪を題材にしたお化け屋敷型アトラクション。

〇〇:あぁあぁ!高い!高すぎる!死ぬ!てか俺もうすでに死んでる!生きてる…?!

美波:きゃー!〇〇が死んだー!!ヒャッフー!

〇〇:あれ、俺が死んだわりにテンション……うわぁぁぁぁ!!

恐竜の研究所をモチーフとしたジェットコースター。

店員:みんなぁ……盛り上がってるかぁぁぁああ!

美波:私でもギリあの舞台に立てるな

〇〇:ダンスイベントのダンサーに張り合おうとするなんておこがましすぎだろ

クリスマス限定のダンスパレードイベント。

そんなこんなで時間を過ごす内に、朝5時から始まったユニバーランドは闇に包まれていた。

美波:ねぇ〇〇、今日1日本当にありがとうね

クリスマス限定の大きなツリーのイルミネーションの下で、美波はそう言った。

〇〇:美波、お礼を言うのは俺のほうだよ

〇〇:こちらこそ本当にありがとう

〇〇:今日、美波と2人でユニバーランドに来れて本当に良かった。楽しかったし、俺はこうやってたまに美波と会えるから、今を生きれてる

こんな時期、こんな場所だからなのか、〇〇は思いのままに心の言葉を言語化していく。

美波:〇〇……

「いつも美波の方から誘ってくれる」

二人の行事ごとの度に会う関係の中で、その事実が〇〇の中で、違和感として残っていた。

〇〇:ねぇ美波

美波:な、なに?

〇〇:大晦日、暇してない?もし暇だったら、俺と遊びに行かない?もちろん初詣も…

美波:……

22年、いつ頃から始まったかはお互い覚えていないが行事の度に集まる2人の関係性は、毎度美波が約束を取り付ける物だった。

だが今回は、〇〇から始まった。

美波:え、へへ……なんだよバカ……そんなの当たり前に遊ぶに決まってんじゃん

美波:もちろん、最初から開けてたわよ

美波:誘うのが遅いよ、バカ

顔を真っ赤に染めた美波は、言葉とは裏腹にやけに嬉しそうな表情でそう言った。

〇〇:言うのが遅くなった、ごめんバカで…

美波:ふふっ、今回限りは許してあげるよ

〇〇:へいへい、ありがとうございますよ

2人の間に確実にある絆、それは幼馴染と言う関係性なのか、男女の友情と呼ばれる物なのか、それとも恋心が存在しているのか、それは誰にも分からない。

それでも、2人は同じ気持ちでクリスマスツリーを見上げる。

「また来年、一緒に来れるといいな」

そう思い……願いを込めながら。

美波:あっ、そういえば私もこれを言うのが遅くなったね。〇〇、メリークリスマス!

…to be continued

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