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動かないボーナス(SS No.58)

黴臭い実家の倉庫。段ボール箱の隙間から何かが転がり落ちた。
ピンク色の棒の先に星のついた、プラスチックの玩具だ。
「これ、父さんの…」懐かしい気持ちで拾い上げた。

仕事人間だった父は、私が起きている時間に家にいることは殆ど無かった。
珍しく顔を合わせても私の話には空返事。疲れ切っていたのだろう。
私は幼い子供なりに気を遣い、父との会話を減らしていった。

綺麗な薄桃色の包みは、なんでもない日の朝、枕元に置かれていた。
半信半疑で解く。眠気が吹っ飛んだ。
私が夢中だったアニメのグッズ、魔法のステッキが入っていた。
ボタンを押すと音楽が流れ、星形ランプが賑やかに光った。夢のようだった。
夢じゃないことを確かめたくて、何度も何度もボタンを押した。

箱の蓋に手紙を見つけた。
「いつも幼稚園がんばってるね。ボーナスです」
父の字を見たのは、それが初めてだった。

父は3年前、定年を間近に亡くなった。
今は動かない父さんのボーナスを、そっと胸にだいた。

(409字)

こちらの企画に参加させていただきました!いつもお世話になっております。

む、難しかったァーーー!!

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