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ショートショート王様(SS No.59)

可哀想な農夫は玉座の前ですっかり縮こまっています。
「さあ物語をせよ、つまらなければ打首だぞ」
王様が歌うように言いました。こうして気紛れに誰かを招いて小話をさせるのが、王様の趣味でした。
農夫は覚悟を決め、訥々と語り始めました。

主人公はこの国の始祖たる男神。
戦火に国乱れるとき、神は民草を救うべく鷲の姿で地上に舞い降り、鋭い鉤爪で敵兵を八つ裂きにするのです。
勇猛な物語に王様は心を躍らせました。

農夫が不意に口を噤みました。王様は訳を尋ねます。
「家で病に伏せる女房が気がかりで…物語どころでは」
唇を震わせます。
王様は大臣に命じて立派な病院を建てました。

さて続きをと促しますが、まだ農夫は沈んだ顔です。
「病院のお代が払えませぬ」
王様は国民にお金を配るよう命じました。
「これで心配事は無かろう。続きを話すのだ」

農夫はしゃんと立ち上がり微笑んで
「続きは今、王様がご覧になりました」
そう言って鷲の姿になり、天高く飛び立ちました。

(407字)

こちらの企画に参加させていただきました!
いつもお世話になっております。

1000本達成!すごーーい!!
毎回力作揃いで刺激をもらいつつ、楽しく読ませていただいています。
いつか一作に選んでもらえるように頑張ります…!

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