雪はやがて消えて、また春がやってくる
「あれは、ネコヤナギ。」
「木にねこが生えているの?」
いつまでも溶けない雪と春らしさのあいだで、時間がゆっくりすすむ季節。
北国の四月のはじめ。
おばあちゃんが、手をつないで、歩きながら植物のなまえを教えてくれる。
わたしは、二歳で、まだ歩くことを覚えたばかり。
ネコヤナギ、
チューリップの球根とクロッカス、
すずらん、
木苺、
アスパラとにら、
真っ赤なほおづきと赤トンボ、
紅葉、落ち葉、
うずくまるねこ、
ゆき、
ゆき、
庭の木の赤い実を食べにやってくるキジ、
また、ゆき。
ゆきが溶けて、ようやく春。
ながい、ながい、故郷の冬。
祖母が大切に育んでいた庭と、遠くにみえる大雪山につもるゆき。
わたしのおぼえている季節たち。
最初の記憶は、日陰の部屋とアヒルのおまる、ペコちゃんみたいな起き上がりにんぎょう、だいすきなバス。
そして、庭とねことゆき、だった。
古ぼけたフィルムカメラのような、記録映像。
photo by inaba keita
銭湯へ行ってきます