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静かに淡々と変化してゆくもの

 もう、無邪気にはしゃいでいたころの私たちではないんだなぁということを実感して、たった2時間程度のランチに疲れてしまったのはここだけの話。昔は2時間じゃ到底足りなくて、朝から晩まで話していても時間が足りなかったのに。

 久しぶりに高校時代の友人と会えることになり、ホテルのランチビュッフェに行ってきた。ここ3年くらいの間に、集まる場所は街中のカフェやご飯屋さんからホテルのレストランに変わった。昔は街中で待ち合わせてランチして、そのまま適当にお店をブラブラ見て、足が疲れた頃にカフェに入ってまたお喋りして、夕方くらいに帰るという流れだったし、もっとさかのぼれば、夜ご飯も食べて、それでもしゃべり足りなくて、名残惜しくそれぞれの帰路に就いた時代もあった。そんなに遠い昔でもない、10年程前の出来事だけれど、10年という月日は静かに淡々と、私たちの関係性を変えていく。

 誘ってくれた子は、私の数少ない友人の中で「親友」と呼べるくらい親しい子で(この歳で親友と書くのは、少しこっぱずかしいけれど)、コロナの影響もあって1年以上会えていなかったから、誘われたときはとても嬉しかった。コロナ以前は、1年に1回は一緒に旅行したり、帰省に合わせて食事をしたりしていたけれど、この1年はパッタリ交流が途切れていた。いつものように2人で会うと思っていたら、もう一人、共通の友人(こちらはもう2年半以上会えていなかった)を誘いたいと言うので、結果的に3人で会うことになった。

 本音を言うと、親友と2人で会えると思っていたので、少しだけショック(というと大げさだけれど)を感じた。でも、共通の友人のことが嫌いなわけではないし、断る理由もなかった。この時は思い当たらなかったけれど、もしかすると親友は気を遣ってくれたのかもしれない。終わった今になって思うと、2人で話す話題もそんなに無かったように思うから。

 行き慣れないホテルで道に迷い、待ち合わせ時間ギリギリに到着した。2人は待ち合わせ時間の15分ほど前には到着して合流しており、すでにレストランに居るというので、速足で向かった。入口に2人の姿を見つけて手を挙げると、2人も微笑み返してくれた。2年半以上会っていなかった共通の友人は、昔は久しぶりに会えたらとてもはしゃいだ様子で久しぶり、と声をかけてくれたけれど、ここでは静かに微笑んで久しぶりだね、と呟くだけで、こういうところでも、私たちは着実に大人になってしまったのだと実感した。

 ビュッフェはとても美味しかった。味はしっかりした。けれど、テーブルは思ったほど盛り上がなかった。誰が悪いでもなく、ただなんとなく、お互いがお互いを窺うような雰囲気があった。3人中、結婚して子供がいるのはその共通の友人だけで、私と親友は独身でもっぱら仕事人間だった(仕事が好きという意味ではなく、ただ、仕事が中心になっているというだけ)。その時点で、3人の共通の話題は無いに等しい。職場は以前と同じところか?在宅勤務はしているか?子育てはどうか?子供の写真を見せて。など、無難な会話を時々投げながら、なんとなく時間をやりすごしているような感覚で過ごしていた。共通の友人は、日頃の子育ての疲れもあったのだろう、途中から眠たいと呟き、口数が減っていた。

 帰りは、3人で同じ駅に向かった。当然同じ電車に乗って帰るだろうと思っていたら、親友も共通の友人も近場で予定があると言い、あっさりとバラバラの方向へ帰ってしまった。私は一人、帰る方向のホームへと向かった。向かってすぐに、間もなく電車が到着します、というアナウンスが聞こえて、駆け足でエスカレーターを上った。電車に乗ってすぐ、疲れたと思った。日頃運動をしないから、駆け足でも息が簡単に上がってしまう。でも、疲れた理由は多分それだけではないと分かっていた。

 会えたのは良かったと思う。けれど、これからしばらくは会わないかもしれない、と思った。親友にも共通の友人に対しても、怒っているとか不満だとか、そういう気持ちは一切ない。ただ、世間的には歳を重ねるにつれて友人とは疎遠になると聞くけれど、なんだかんだ言って私たちは程よく交流していけるだろう、と勝手に思い込んでいたものが、やはり例外なく私たちも時の流れには敵わないのだなぁということを体感して寂しくなった。

 昔を懐かしくは思うけれど、恋しいわけでもない。ずっと同じではいられないことは、友人関係に限らず今までも経験してきたことで、特段珍しいことでもない。親友も共通の友人も、これからも友だちで居たいと思う。またお互いに盛り上がれる日が来たら、その時は大いにはしゃぎたい。

 これを機に友人関係を精査しようなんてことは思わないけれど、これまでの関係を求めるのではなく、私は今の私に合う関係をまた見つければ 良いのだと思う。見つからないかもしれないけれど、それならそれで自分が自分を分かってあげられたら良い気もする(少し寂しいけれど)。31歳を迎えて、小さな変化を日々感じて少し寂しくなることもあるけれど、確実に歳を重ねていると実感出来るのは悪くないと、少し思える。

 親友も共通の友人も、今の環境に合う人たちと付き合っていくだろうと思う。これからの日々も健やかに過ごしていてほしいと思うし、私自身もそうでありたい。

 

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