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リテイク・シックスティーン/豊島ミホ

春先に読んだ、豊島ミホさんの「リテイク・シックスティーン」についての感想です。感想を言葉にするのが苦手なので、読書感想を書くことってあまりないんですが、フォルダを整理していたら、珍しく感想を発見。感想を書いていたことすら忘れていたのですが、素直な感想が自分に響いたので、投稿しようかと。中身は、今年の5月ごろの状況です。

※途中、作品終盤部分のセリフなど、ネタバレ的なものを含むので、知りたくない方は回れ右を‥。

🌸

いつ買ったっけ、と思って購入履歴を見たところ、2015年だった。

というわけで、5年ぶりに読み返した。

いつか読み返したいなと思っていて、実は去年からタイミングを見ていたけれど、なかなか読まず。コロナの影響で外出自粛になり、本屋さんも我慢するようにしたので、今が読むときかなと思って読み始めた。

覚えているようで、案外覚えていないものだなと思った。

2015年当時、孝子の「あたし、未来から来たの」というセリフを見た時、豊島さんって、こんな話書く人だっけ?と思った。タイムトリップもの、非現実的なSF要素のある話を書く人ではなかったから、なんか意外だなと思った記憶がある。読み進めていくと、いつもの豊島さんワールドが広がっていて、ほっとした。

主人公の孝子は、高校入学してすぐにできた友人・沙織に、自分は未来から来たんだと話す。
27歳の未来から来た孝子。27歳の未来では無職だった。どうしてこうなったんだろうと思ったときに、高校生からやり直したいと強く思ったら本当に戻れた、という。

そんな感じで始まるこの話。

孝子は、自分かもしれないな、と、読んだ当時も読み返した今も思う。

本当にタイムトリップして来たかどうかは正直どうでもよくて、ただ、孝子が自分の人生をやり直そうと一生懸命になる姿は、すごく胸にくるものがあった。

それは、ひたむきにやり直そうと頑張る姿が良かったから、というよりも、やり直そうとどんなに思っても、人はそう簡単に自分を切り離すことはできない、ということを突き付けられたから。

孝子が言う、

「でもさ、あたしは、ホント言えばあたしから逃げたいんだよ」

このセリフが、グサグサグサっと刺さった。

そして沙織が孝子に返した、

「……また春からやり直せば?そうやってずっと回ってればいいんだ、同じとこで永遠に」

これもまた、グサグサグサっと刺さった。

人生をやり直すって、そう簡単なことではなくて、孝子のやり直したい気持ちと、そのために自分自身から逃げたい気持ちってすごく分かる。
自分自身から逃げたら、新しい自分になれるんじゃないかって思うし、それでやり直せそうな気になる。

でも実際のところは沙織の言う通りで、それは本当のやり直しではない。

最終的に孝子は、

「あたしはこのあたしで生きる。逃げたこと含めて引き受ける」
「(中略)あたしはあたししかいないの。今はわかるよ」

と言えるようになる。ここに辿りつけたことで、私は読んでて泣きそうになった。

前に進もうとするまっすぐなこのセリフに、私はすごく背中を押されたし、自分を受け入れることが出来たら、もうその時点で人生はまた新しく進めるんじゃないかと思った。

孝子だけじゃない、登場人物みんなが色々な運命を抱えて生きているけれど、それぞれの立場で良し悪しがあって、比較しても隣の芝は青いだけ。

でも、その中で、みんながひたむきに生きて、頑張ってるんだなと思うと、自分のリアルの生活でもきっと、この世界はつながっているような気がした。

私は、孝子の未来ネタが本当だと信じているので、2回目の高校生を過ごしている孝子が自分と向き合えたことで、1回目よりも良い高校生になり、良い27歳を迎えてほしいと思った。

そして私もまた、自分の人生をやり直しは出来ないけれど、より良いものにするために、頑張りたいと思った。

私もまた、この私で生きるのだ。いろんな苦しさがあるけれど、それも含めて、私は私なのだから。

豊島さんの集大成でもあるこの作品は、人生の節目にきっとまた読み返すと思う。

🌸

豊島さん、最近ブログを見返そうと思ったら削除されていました。どこかでお元気に過ごしていたらいいなと思います。

1番好きな曲は?食べ物は?芸能人は?と聞かれて、いつも、1番なんてよく分からないと思う私ですが、1番大好きでこれからも絶対に1番から変わらないと思える作家さんが、豊島ミホさんです。ずっとずっと大好きです。



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