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「夏と秋」Webマガジン 第13号

【はじめに】
こんにちは、「夏と秋」です。2か月ぶりの公開となります。
Webマガジン第13号は、歌人の瀬戸さやかさんと秋月祐一の短歌推敲セッション、読者投稿欄でぐでぐを中心に。短歌の推敲の過程をご覧ください。

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今回のマガジンは、
【俳句「熊ノ子ハ」/秋月祐一】
【読者投稿欄でぐでぐ(11)/瀬戸さやか】
【読者投稿欄でぐでぐ(12)/瀬戸さやか】
【カピバラ温泉日記/秋月祐一】
という内容でお送りいたします。

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【俳句】

  熊ノ子ハ  秋月祐一

妻の服ちつちゃ勤労感謝の日

たて笛がチェコ語のやうで冬あたたか

むささびのゐる森そつと手をつなぎ

熊ノ子ハコドモ割引ナリマスカ

ずる休み鯛焼ひとつだけ買うて

ロールキャベツくはへ明日は面接へ

冬といふことばを猫に教へをり

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【読者投稿欄でぐでぐ(11)】

*投稿者の瀬戸さやかさんと、秋月祐一のメールのやりとりを紹介させていただきます。短歌の推敲がどのようにして行われているのか、その様子をご覧ください。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

ご無沙汰しております。

次号のでぐでぐへの投稿です。

【原作】
わがままで気楽でさみしい台所おいしいものは自分で作る

わがまま、気楽、さみしい、おいしい、と、感情を表す言葉が多すぎるのが問題だとは思っていますが、どう直せばいいのでしょうか。私にとっての普遍的な問題です。

今回も推敲にお付き合い願います。

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

ご投稿ありがとうございます。

〉わがままで気楽でさみしい台所おいしいものは自分で作る

まず上の句ですが、3つ並べた感情表現のうち、「わがまま」と「気楽」が、ちょっと近いような気がしました。そこを調整してみてください。

次に下の句ですが、「おいしいもの」に料理名や調理の手順などの、具体を入れられないでしょうか。そこに入れる言葉によっては「自分で作る」も変わってくるかも。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

「わがままで」ではなく「不器用で」というのを考えたのですが、下の句の方はまだです。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

下の句を作り直して、

【改作1】
不器用で気楽でさみしい台所豆板醤は多めに入れる

でどうでしょうか?
自分では、台所豆板醤の部分が漢字がキツめになってると感じるので、「台所」を「キッチンで」に替えることも考えたのですが、それはそれでムムム…という感じです。

【改作2】
不器用で気楽でさみしいキッチンで豆板醤は多めに入れる

どうでしょうか?

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

ご改作ありがとうございます。

〉不器用で気楽でさみしい台所豆板醤は多めに入れる

たしかに「台所豆板醤」は漢字が詰まりすぎかも。

〉不器用で気楽でさみしいキッチンで豆板醤は多めに入れる

で、「キッチン」にしたけど、なんか違う、というのにも同感です。
(「不器用」「気楽」「キッチン」と「き」音で韻律が張れている点には心ひかれますが)

では、どうするか?

【改作案3】
不器用で気楽でさみしい台所 豆板醤は多めに入れる

ひとつ戻って、「台所」と「豆板醤」のあいだに一字空けを入れてみるとか、

【改作案4】
不器用で気楽でさみしい台所で豆板醤は多めに入れる

「台所」を「だいどこ」と読ませて(国語辞典にも載っているかたちです)「台所で」とするか。
「キッチン」のとき、「〜で〜で〜で」という形が面白いと感じたので、「台所で」を提案してみた次第です。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一


うーん、

〉不器用で気楽でさみしい台所 豆板醤は多めに入れる

台所と豆板醤の間を一字あけがいいかなと思いました。

「だいどこで」を取らなかったのは、私が、私の短歌を読んでほしい読者、私が設定している読者は、「だいどこ」をルビなしでは読んでくれないだろうなぁと思ったのと、じゃあ、「だいどこ」とルビを振るのもなんだかなぁと思ったからです。

どうでしょうか?

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

たしかに「だいどこ」と読ませるにはルビが必要ですね。よけいなルビを振りたくない、というお気持ちも理解できます。

一字空けのかたちを、今回の最終稿とさせていただきます。

【最終稿】
不器用で気楽でさみしい台所 豆板醤は多めに入れる/瀬戸さやか

瀬戸さんが、自分の作品を届けたい読者像をイメージできているのは、すばらしいことだと思います。

的確なご改作、ありがとうございました。


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【読者投稿欄でぐでぐ(12)】

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

ご無沙汰しております。
でぐでぐに応募いたします。

【原作】
何千の卵を割って何千の卵焼き焼いた母の命日

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

ご投稿ありがとうございます。

これは、このままで、いい歌だと思います。

「何千の卵を割って何千の卵焼き焼いた」までが「母」にかかっているわけですが、作者もまた、何千もの卵焼きを焼いて生きている、ということが同時に感じられます。

ぼくはいつも意外性ということを言いますが、この歌の場合は、卵焼きという日常的な料理をえらんだことが、効いているのではないかと思います。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

実は、この歌は、最初、目玉焼きとして作りました。それを友達に見せたところ、卵焼きと間違えられまして。そして、比較検討して、卵焼きの方がいいかな、と思い、秋月さん宛には、卵焼きで出しました。
私は、卵焼きがいいと思いますが、改めて、卵焼きでいいんでしょうか。

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

「何千の卵」ということばのくり返しと、卵焼き焼いたの「焼」のくり返しが、ふしぎな味わいを生んでいるので、卵焼きのほうがいいと思います。

【最終稿】
何千の卵を割って何千の卵焼き焼いた母の命日/瀬戸さやか

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【カピバラ温泉日記/秋月祐一】

10月1日(火)
[日々]今日は、歯医者さんへ。欠けた歯を、みごとに修復していただきました。

10月2日(水)
[壁球]今日は、スカッシュ教室をお休み。プチぎっくり腰(?)はだいぶ良くなってきました。

10月3日(木)
[短歌]しばらく寝かせていた、第二歌集の草稿を検討中です。出版は来年になるかと。ご期待ください。

10月4日(金)
[日々]渋谷で所用をすませたあと、ヒカリエの〔d47食堂〕で、ぼくは香川定食、妻は大分定食をいただきました。

10月5日(土)
[日々]ぬかどこ生活。今日は胡瓜。ちょっと浅漬け。

10月6日(日)
[映画]石橋夕帆監督の『左様なら』@吉祥寺アップリンク。夢のように儚く美しく、それと同時に、突き刺さるようにリアルで。出演者みなさん素敵でしたが、主役の芋生悠さんがとびきり魅力的でした。これから全国での上映のあとに、ディスク化されるといいな。

10月8日(火)
[日々]ひたすら就活に励みました。

10月9日(水)
[壁球]2週間ぶりにスカッシュ教室へ。

10月10日(木)
[映画]『左様なら』@アップリンク吉祥寺。これが2度目の鑑賞で、ますますこの作品が好きになりました。

10月11日(金)
[美術]本間洋さんの展示「よる、生きるものたちの夜 」@京橋・ギャラリーKを観てきました。シニカルなユーモアと残酷さの入り混じった世界が、漆黒の闇に浮かび上がり、見ごたえがありました。

10月14日(月)
[日々]台湾のテナガエビ釣り。釣り堀が各地にあって、釣った海老を、その場で塩焼きにして食べられるそうです。いつか台湾に行く機会があったら、チャレンジしてみたいな。

[演劇]野田地図『Q』を観てきました。超豪華な俳優陣で、ロミオとジュリエットを下敷きに、観客の想像力に挑むような作品。後半の展開に圧倒されました。

10月15日(火)
[映画]『左様なら』@アップリンク吉祥寺。3度目の鑑賞。観るたびに、芋生悠さん演じる主人公・由紀とともに、この世界をはじめて体験するような気持ちにさせてくれる素敵な作品です。

10月16日(水)
[壁球]今日は、スカッシュ教室へ。コートの壁を利用してボコンボコンと打つ「ボースト」の練習など。

10月17日(木)
[錆猫]ここ数日でぐっと寒くなり、冬が近づいてきました。サビ猫くうちゃんは、夜、ぼくの布団の上で寝るようになりました。

[音楽]深夜の音楽は、鈴木祥子さんの『あたらしい愛の詩』。ぼくは生涯このアルバムを聴きつづけてゆくのだろうなと思います。そのくらい好きな作品です。

10月18日(金)
[日々]親知らずの抜歯をしました。あっさり抜けて、麻酔が切れたあとも、ほとんど痛みはなくて、助かりました。

10月22日(火)
[映画]『二重生活』。劇場公開時に観ていて、このたび再見。門脇麦さん演じる大学院生が、哲学の修士論文のために、他人を尾行することから始まる、心理サスペンスです。

10月23日(水)
[電影]『全裸監督』全8回を観ました。ドラマとしてのクオリティはきわめて高いですね。AV業界の負の部分はヤクザがやったことにしているのと、ヒロインのモデル女性の許可を得ていない点、もやもやが残りますが、シーズン2の制作も決まったとのこと。

10月24日(木)
[映画]『四月物語』を再見。北海道から東京に上京してきた、大学生を演じる松たか子の初々しさと、岩井俊二監督の人をみる目の温かさが印象的で、時おり見返したくなる作品です。

[日々]今日は、就活の自己分析で、自分の強み100個、弱み30個を書きだすという課題に取り組みました。明日つづきをやります。

[音楽]深夜の音楽は、小川美潮さんの『4 to 3』。これは名盤中の名盤です。1991年のリリースだから、ぼくが社会人になった年に出たアルバムです。それから長い年月、愛聴してきました。

10月28日(月)
[日々]昨日今日は、まじめに就活。自分の強み100個+弱み30個を書きだす課題を終え、履歴書と職務経歴書のブラッシュアップに励みました。

10月30日(水)
[映画]『銀河鉄道の夜』を再見。監督:杉井ギサブロー、キャラクター原案:ますむらひろし、脚本:別役実、音楽:細野晴臣、という深遠な世界。ブルーレイ化の際に、監督がこだわったという、黒地に銀砂を撒いたような銀河の描写が、とても美しかったです。

[読書]小林久美子さんの第三歌集『アンヌのいた部屋』(北冬舎)より。

戸棚から
蜜蠟をとりだすとき
そこを聖堂に
おもう日がある

つめたさの模写だろうか
うつくしい多角の
かたちを
結んで雪は

10月31日(木)
[映画]『イリュージョニスト』(監督:シルヴァン・ショメ)を再見。年老いた手品師と、彼を魔法使いだと思った少女の、奇妙な旅を描いたアニメーションです。水彩画のような美術と、洗練された演出。ぼくはこの作品が大好きです。

[映画]『告白』を再見。劇場公開時にも感じたことですが、この題材をエンターテインメントととして撮ろうと思い立った中島哲也監督の胆力がすごいですね。クラスメイト役で能年玲奈さんが出演されていることに、エンドクレジットではじめて気づきました。

11月1日(金)
[映画]『愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景vol.1』を観ました。古書店を舞台に、ふたりの男性のあいだで揺れる女性、ユリの物語です。越川道夫監督の美意識をひしひしと感じさせる絵づくり。主演の瀬戸かほさんの魅力。古書音羽館やコクテイル書房というロケ地。とても愛しく思える作品でした。

11月2日(土)
[映画]『伽倻子のために』を観ました。太田省吾さんが小栗康平監督と共同で脚本を書かれた作品ということで、いつか観てみたいと思っていました。

[音楽]ジョアン・ジルベルトの『LIVE IN TOKYO』を観ました。一切の飾り気なくライブを切り取った、いいディスクでした。神様の眼鏡のずり下がりが可愛いらしい。

11月4日(月)
[読書]加藤幸枝さんの『色彩の手帳 建築・都市の色を考える100のヒント』(学芸出版社)を、興味深く読んでいます。

11月5日(火)
[映画]『ジョーカー』を観ました。2019年版の『タクシー・ドライバー』という印象。ホアキン・フェニックスの名演がすばらしかったです。

11月6日(水)
[読書]就活がらみで読んでいるのですが、栗田朋一さんの『新しい広報の教科書』(朝日新聞出版)面白くて、勉強になります。

11月9日(土)
[錆猫]部屋に暖房を入れたら、サビ猫くうちゃんがぼくの布団に来てくれなくなって、ちょっと淋しいこの頃です。くうちゃんは、妻の裁縫箱の上で寝ています。なぜそこ?

11月11日(月)
[映画]『時をかける少女』を再見。原田知世ちゃんは、ぼくの永遠のアイドルです。

11月12日(火)
[日々]今日は、就活の面接を受けてきて、さすがに疲れました。いい結果でありますように。

[映画]映画『響 -HIBIKI- 』を観ました。エキセントリックな15歳の天才作家・響が、平手友梨奈さんのハマり役で、とても愛しく思える作品でした。ディスクを購入したので、くり返し観たいと思います。

11月13日(水)
[日々]このところ忙しかったので、今日はのんびりと過ごしました。夕食の舞茸天そばがおいしかったな。

11月14日(木)
[音楽]原田知世さんのライブ映像『35周年アニバーサリー・ツアー in 東京 2017』を観ました。知世ちゃんの駆け抜けてきた35年は、今年50歳になったぼくにとっても、大きな意味を持つ35年です。

11月15日(金)
[日々]今日は、就活がらみの、調べものをこつこつと。その合間に、平手友梨奈さんの動画を見たり。ベストヒット歌謡祭2019の「避雷針」はよかったですねー。

11月18日(月)
[電影]『魔法少女まどか☆マギカ』を第6話まで観ました。

11月19日(火)
[電影]『魔法少女まどか☆マギカ』を第12話まで観ました。この物語の、ほんとうの主人公って、ほむらちゃんなのでは?

11月20日(水)
[音楽]深夜の音楽は『Midwinter Spring』。グルジア出身の作曲家ギヤ・カンチェリのピアノ曲を、アレッサンドロ・ステッラが弾いたアルバムです。雪の夜みたいなイメージの、静かな曲ばかりで、じっくり聴くのもよし、書きものをするときのBGMにするのもよし、といった感じです。

11月22日(金)
[音楽]和太鼓ライブ『伊能忠敬~星とともに~』を観てきました。日ごろお世話になっている、指圧治療の佐久間崇先生がご出演。演劇的な要素もあって、迫力満点な演奏でした。

11月23日(土)
[演劇]SPAC『マハーバーラタ』。本格的な雨降りの中、合羽を着ながらの観劇は、これが初めてでしたが、演目のクオリティの高さもあって、忘れがたい体験となりました。池袋西口公園野外劇場の今後の展開に、期待しております。


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【編集後記】

就活の合間に、映画をたくさん観た2か月でした(秋)

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「夏と秋」Webマガジン 第13号
2019年11月29日発行
発行人:秋月祐一
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