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「夏と秋」マガジン 第4号

(2018年10月31日発行)

【はじめに】

 こんにちは。こうさき初夏と秋月祐一の創作ユニット、「夏と秋」のマガジン第4号をお届けいたします。今号は、こうさき初夏の書き下ろし短歌と、秋月祐一がみずからの俳句デビュー作について語る「教えて秋月さん」をお楽しみください。

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今回のマガジンは、
【こうさき初夏の短歌「あたらしいみづ」】
【教えて秋月さん(3)】
【こうさき初夏の珍獣ライフ(2)】
【カピバラ温泉日記】
という内容でお送りいたします。

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【こうさき初夏の短歌】

 あたらしいみづ  こうさき初夏

   宮沢賢治『ツェねずみ』より

「償つておくれ 償つておくれ」の『ツェねずみ』を初めて読んだ小六の秋

うまれたてのペンギンみたいな歩き方よよよよよよよよゐよゐよゐち
 
あたらしいみづをください、できるならわたしの奥の奥から湧いて

センステの水たまりから金平糖はじけるやうなスポットライト

まひるまに口説かれて識るくどき方あの人にいつためしてみよう

TOKYO にただよふわたしペラペラの紙は重石にたぶん勝てない

白髪混じりのひげを見下ろす騎乗位は(死なないで)つて喉まで出かけ

いれずみを首に彫られる心地して愛撫、わたしは脈動になる

『ツェねずみ』が風に吹かれて落ちたあと革命前の青いチェ・ゲバラ

 注

償つておくれ……「まどっておくれ」と読む。「償ってください」の意。

センステ……センターステージ。ジャニーズコンサートにおける 
      ステージの呼び名。ステージは複数ある。

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【教えて秋月さん(3)】

 お待たせしました。マガジン第2号でご紹介した、秋月祐一流俳句の作り方・後編です。今回は「席題」のときの作り方についてご説明いたします。

 席題(せきだい)というのは、歌会ではあまり見かけない句会独特の作法で、席上で出された題に対して、1句あたり5分くらいで、えいやっと句をつくるものです。

 短歌界から、俳句へ越境してきたぼくは、この席題がとても苦手だったのですが、俳人は席題が大好きなんですよ。郷に入れば郷に従え、習うより慣れろという感じで、席題の経験を積んでいるところです。

 5分で1句つくるためには、歳時記を引いたりする余裕はなく、とりあえず頭に浮かんだ言葉を書きとめて、書きながらなんとかしてゆく、というのが実態に近いかと思います。

 席題の句会に参加して、この場では紹介できないような駄句を量産しつつも、時折スマッシュヒットを打てることがあります。そういった句を例に挙げながら、具体に即して、話を進めてゆきますね。

○ちくわぶと口ついて出る春の宵

 この句は、2015年2月に行われた、俳句グループ「船団」の高円寺吟行会のときに生まれたもの。吟行会は、ねじめ正一さんのガイドで純情商店街を散策するというぜいたくな企画で、ぼくは飛び込みのゲスト参加でした。

 その日の二次会席上で「句相撲」がはじまり、ぼくは生まれてはじめて席題を体験することとなりました。

 句相撲というのは、作者名を伏せて読み上げられた句(2〜3句)のうち、どれが勝ち(=よい句だと思うか)かを、参加者の挙手の数によって決めてゆく、トーナメント戦のことです。

 このときは、「船団」代表の坪内稔典さんから「春の宵」という題が出され(「春の宵」は季語です)、六十名ほどが制限時間5分で作句を行いました。

 ぼくは、おでんのちくわぶを偏愛しており、その思いを素直に吐露したような句ができました。なにしろ、俳句を作りはじめて一か月あまりで、で、ルールもろくに知らない頃のことでしたから。

 このとき「披講(ひこう)」といって句を読み上げる係を務め、場を盛り上げてくださった、関西在住のメンバーがおふたり。

 ここでハプニングが起きました。ぼくの句を読み上げる方が関西人で、ちくわぶをご存じなかったんですよ。毎回「くちわぶ」と言い間違えたりして、それがまたウケてしまったのです。

 ちくわぶの句は2回戦、3回戦と勝ち上がり、ついに決勝戦をむかえました。対戦相手は、言語学者の金田一秀穂さん。果たして、その結果は……拙句の優勝でした。

 句のつくり方よりも、その句が生まれた背景の記述が多くなりましたが、思えばふしぎなものです。この日の句相撲で1位になっていなければ、ぼくにとっての俳句は、1日かぎりの浮気で終わり、その後は何も考えずに、短歌だけを書き続けていたのかもしれないのですから。

 歌人であるぼくは、この日、なにかに血迷った。あるいは、俳句にとりつかれた。そんな体験でした。

このあと、3月に「船団」東京句会に初参加し、3月末に「船団の会」へ入会すると同時に応募した、生まれてはじめて書いた俳句20句で、第7回「船団賞」を受賞することになるのですが、それはまた別の話。

 席題でつくった句について、もうすこし語りたいので、この稿、次回へつづきます。

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【こうさき初夏の珍獣ライフ】

お久しぶりです。生き方相談こうさき初夏の珍獣ライフのコーナーです。ぽっ。

早速頂いたお便りを繙いてみましょう。
↓↓↓

「アラフィフにして、今ひとつ自分に自信がないのですが、どうやったら自分に自信がもてるでしょうか?」(匿名希望)

〈こうさき初夏の回答〉

ぽっ。最初に宣言します。今回の回答は前後編に分けさせて頂きたいのです。

ご質問の内容は「アラフィフを迎えていること」「自分に自信が持てないこと」この二つに分類することができます。

「分類する」とはひとつの考え方です。「考え方の定型」を押さえることも生き方のひとつであります。

今回の生き方指南は……

「困難なことがあったら一つひとつ分割して対処する」

こうさきじゃない人が既にいろんなところで言ってそうですが、今回のお悩みにぴったりの生き方です。

アラフィフであることと自分に自信がもてないことの両方をいっぺんに考えるよりも、ひとつずつ考えたほうが精神的な負担は下がります。

今回の回答ではアラフィフについて考えてみましょう。

こうさきの夫の秋月祐一はアラフィフです。私の周りのアラフィフの方だけかもしれませんが、見ていると、アラフィフというのはそれまで培ってきた生き方が望むと望まざるとに関わらず変化が起こりやすい時期なのかなと感じます。
個人的な話で恐縮ですが、こうさきは二十五、六歳の頃介護の仕事をしていたのですが、いまいち不器用で利用者からの信用が得られず(マジしんどかった)、加えて「年齢」がその一つの理由となっていたのは、利用者さんの態度や言動から垣間見えていました。

お鍋焦がして出禁になったり(それはオマエがワルイ)、上司からチェックを受けて、OKが出ていたお宅の入浴介助を突然利用者側から断られたこともあります(これは年齢とか見た目が若すぎだったから説が濃厚)。

少なくともこの入浴介助の例に関しては、アラフィフだったら、同じ仕事をしていたら断られていなかったんじゃないかと。

そんなこともあり私自身は年齢を重ねているのっていいなうらやましいって思うこともあります。アラフィフだから出来ることって、ある。

匿名希望さんにもアラフィフになったぶんだけ積み重ねてきた、まだ可視化されていないスキル的な資産はきっとあるのではないでしょうか。それは何も、パソコンや外国語ができるとかそういうことではなくて、アラフィフでいらっしゃる匿名希望さんが醸し出す雰囲気のようなもの、もきっと資産だと思うのです。

ほかにも、得意の自覚はなくとも、やることが全く苦にならないもの、そういうものにフォーカスすることで積み重ねてきた時間のかたちを把握できるようになるのではないでしょうか。

もう一つだけ考えていただきたいのですが、どんなアラ還になっていたいですか? あるいはその先でも構いません。あんな風になっていたいと憧れるような人生の先輩はいませんか? そのためにはこの一年、一ヶ月、一週間、一日をどんな風に過ごせそうですか? 不安とワクワク感の両方が湧いてきませんか?

アラサーの私はアラフィフの夫を目の当たりにしつつ、今後十年、二十年をどう過ごすか考えさせられるわけです。時間が過ぎ去るのは不安にもなるけれど、現在の自分ができることと未来への目標を重ねるようにしていくプロセスはその本人しか出来ないもの。時間が経つことを恐れるよりも時間そのものを積み重ねる感覚を楽しんでみませんか。
私が敬愛する映画スタジオジブリの「風立ちぬ」(宮崎駿)のなかにこういったセリフがあります。
「きみの十年を力を尽くして生きたまえ」
あなたも私も素敵な十年を、お過ごしください。

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【カピバラ温泉日記(秋月祐一の日記)】

■10月17日(水)

[観劇]『ゲゲゲの先生へ』@東京芸術劇場。脚本・演出の前川知大さんは劇団「イキウメ」の方で、ぼくは今回が初見。水木しげるの作品世界を自在に編集するような手法でつくられたオリジナル・ストーリー。大ざっぱにまとめると、ねずみ男がねずみ男になるまでの物語なのかな? 佐々木蔵之介さんはいい役者さんだと思います(コケカキキー役の池谷のぶえさんも怪演&快演)

■10月18日(木)

[読書]「探偵!ナイトスクープ」のプロデューサーにして、『全国アホ・バカ分布考』の著者である松本修さんが、またすごい本を出しました。その名も『全国マン・チン分布考』。女性器・男性器の呼び名に関する本格的な考察です。本来、性器の呼称はいやらしいものではなく、親が愛情を込めて、わが子の性器を呼んだ言葉であるにちがいない、という着想がすばらしい。

■10月19日(金)

[片付]引越しから4か月。いっこうに片づかないわが家の状況を見かねて、初夏さんがプロの収納整理アドバイザーに依頼。今日がその初回でした。いやー、3時間の作業で劇的に状況が改善したから、プロはさすがですね。段ボール20箱くらい開封し、本や書類を棚に詰め、空間を確保することができたのではないかと。次回は2週間後。

■10月20日(土)

[映画]『夏目友人帳〜うつせみに結ぶ〜』。この作品らしく、人や妖(あやかし)のやさしさが丁寧に描かれていて、いい劇場版だったと思います。ニャンコ先生が超ラブリー。

■10月21日(日)

[観劇]*danke*「遊戯唄-もう、いいよ-」H組を観劇。逆境に負けずピアニストを目指す少女役、和泉ひよりさんの力強い演技。謎を秘めた生徒会長役、竹内麻美さんのはじけるような魅力。ヤクザの四代目だけど、なぜか教師やってる、成田圭吾さんの色気。とても楽しかったです。

[映画]映画『日日是好日』。黒木華さん演じるひとりの女性が、長年にわたる茶道の稽古を通じて、成長してゆく様を描いた作品です。まだ自分を持たない二十歳の頃から、つらい恋や、父の死を乗り越え、四十代くらいのしっとりとした女性になるまでを、演じ分けた黒木さんがじつに見事。おすすめの作品です。

■10月22日(月)

[手帳]リブロさんに通販を申し込んでいた「カク手帳」が届きました。「カク手帳」は、ウィークリーやノートページが、どういう使い方をしようかと考えてみたくなる、じつにユニークな形式なのです。来年の今ごろをコピーして、あれこれ試し書きしてみようかな。

■10月23日(火)

[禁断]風邪にやられてダウン。午前・午後とも、校正の学校を休んでしまう。これまで無欠席だったから、禁断の果実の味を知ってしまったような気分です。

■10月24日(水)

[面接]校正の学校に通うようになってから、はじめての就活。某出版社の面接を受けてきました。女性の社長さん直々の面接でしたが、とても気さくな素敵な方で、約50分間、じっくりとお話しさせていただきました。

■10月25日(木)

[演算]ここ数日、風邪気味のせいか、自分が演算子のひとつになって計算をくりかえす、円城塔さんの小説のような夢ばかり見て、眠りの浅い夜がつづいています。

■10月26日(金)

[読書]第64回「角川短歌賞」発表号を読む。個人的には、佳作・小野田光さんの「ホッケーと和紙」、次席・山階基さんの「コーポみさき」が好みでした。

■10月27日(土)

[錆猫]風邪引きで予定が狂っているけど、サビ猫くうちゃんが、ぼくの布団の上で眠っているから、他のことはどうでもよくなっています。くうちゃん湯たんぽ、ぬくぬく。

■10月28日(日)

[俳句]あいかわらず風邪引きなので、きょうの句会は、参加を自粛しました。長老たちに伝染してしまうといけないので。ざんねんむねん。

■10月29日(月)

[読書]佐藤りえさんの句集『景色』(六花書林)が、とても楽しみです。11月後半の刊行が待ちどおしい。

■10月30日(火)

[座右]妻の好きな言葉は「再現性」と「持続可能性」で、ぼくの好きな言葉は「一回性」と「棚から牡丹餅」。正反対なふたりですが、夫婦仲は良好です。

■10月31日(水)

[読書]あいかわらず風邪ぎみです。大好きな阿部完市を読みながら、眠りにつきます。おやすみなさい。

 十一月いまぽーぽーと燃え終え
 阿部完市

これが昭和四十八年の作。

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【編集後記】

漫画を初めて書きました。三コマ漫画を描いています。Twitterでも発表予定(夏)

阿部完市の句集を読むことが、なによりの喜びです(秋)

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「夏と秋」マガジン 第3号
夏と秋:こうさき初夏・秋月祐一
発行人:こうさき初夏
無断複製ならびに無断転載を禁じます
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