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シャニPとの信頼関係から紐解く二律背反 【Merry】樋口円香考察

 いつの間にやらクリスマスはおろか三ヶ日すら遠い過去。
 気付けば5th LIVEが目前に迫っている今日この頃ですが、今更ながらに【Merry】の考察を投下しようかと思います。


 投稿こそ遅れてしまいましたが、現状、趣旨が被っている考察を投稿している方はいないようなので、記事としての独自性は担保されていると思います。
 ということで、今回もよろしくどうぞ。

※この考察は【Merry】を含む樋口円香が登場する多くのコミュのネタバレを含みます。予めご了承ください。


前書き

 この考察は少し長くなるため、先に結論付近の話をしたいと思います。

 今回のTrue END『GIFT』にて、シャニPは円香に空の宝石箱を渡します。

(【Merry】True END『GIFT』)

 このTrue ENDで空の宝石箱を渡すという状況は、"渡す側"と"渡される側"が入れ替わってはいるものの、【ピトス・エルピス】のそれと一致していると言えるでしょう。

 どちらにおいても宝石箱は非常に重要なアイテムであり、それに関わる踏襲がTrue ENDという物語の核心部分でされているわけですから、この踏襲には何かしらの意味があると考えられそうですよね?



 さて、同じ宝石箱というアイテムという話でしたが、実のところ【ピトス・エルピス】の宝石箱は宝石箱ではありません

【Merry】にて宝石箱を渡す際のBGMがオルゴール仕様だったのは恐らくここら辺が理由なわけですが、ここで重要なのは箱が変われば中身の解釈も変わるという点です。

 というのも、物品を収納する箱として見た場合、宝石箱は間違いなく空箱と言えますが、オルゴールという曲を聴くための箱(音を収納する箱)と捉えた場合、曲を流すことができるのであれば空箱と言うことはできなくなるのです。

 つまり【ピトス・エルピス】の宝石箱は空箱ではなく、見かけは空箱だが実は中身が入っている箱なわけです。

 これは一見強引な理論にも思えますが、カード名の由来からしてパンドラの箱(ピトス)とその中身(エルピス)というどちらも複数の解釈がある言葉ですし、コミュ中に登場する宝石箱以外の箱には必ず中身があり、その中身は捉え方によって解釈が変わるものとなっています。

(【ピトス・エルピス】4話『kara su』)


 では何故このような迂遠な描写がされているのか。
 それはこれが円香のコミュだからです。

 そもそも、【ピトス・エルピス】ではいくつかの箱が登場し、それらの箱(ピトス/ダンボール/カラスの巣/宝石箱)とその中身(エルピス/捨てる物/カラスが残した物)はそれぞれメタファになっており、これは宝石箱も例外ではありません。

 また、オルゴールの宝石箱とは別の宝石箱も登場します。
 この宝石箱は円香の心のメタファであり、メタファであるからこそ作中では実体がなく中身のわからない箱として扱われます。


 これらのことを頭に入れた上で、【ピトス・エルピス】のTEを思い出して見ましょう。

 このコミュはオルゴールの音色と円香の歌声が重なり、それを見たシャニPが『樋口円香には激情がある』と確信することで終わりを迎えます。

 一見、因果関係が見えない展開ですが、箱の中身同士はメタファの関係であるからこそ、オルゴールの音色(宝石箱の中身)を聴いたシャニPは円香の心(もう一つの宝石箱の中身=激情)に気付いたという描写になっていることがわかります。

 つまり、宝石箱がオルゴールだったのは、円香がぱっと見ではそう見えないが実際は激情を持っていることを示唆するためだったわけです。

【余談】
 ちなみに、2つの宝石箱が初登場したコミュのタイトルは『hako』であり、オルゴールの音色が初めて流れたのも、シャニPが激情があると確信したのも『gem』です。

 実際に入るものこそ違いましたが、宝石箱に入るべきもの(宝石)が示されたコミュだからこそタイトルが『gem』になっているわけですね。


 このことを踏まえて改めて【Merry】のTrue END『GIFT』を読み返すと一つの疑問が浮かびます。

 踏襲先の【ピトス・エルピス】の宝石箱が実はオルゴールであり、空のように見えて中身(gem)が入っている箱だったのなら、【Merry】の宝石箱も空のように見えて何かが入っているのではないでしょうか?


 それらしいもので一番に思いつくのは、有料パッケージで売られていたビジューの髪留めでしょうか。

 これなら宝石に類するものと言えそうですから、宝石箱の中身として相応しいように思えます。

 しかしながら踏襲先である【ピトス・エルピス】の宝石箱の中身はどちらも宝石ではありませんでしたし、"音"や"激情"といった無形のものに対応するのが"髪留め"という有形のものであるというのは少しばかり違和感があります。

 ですが、だからといって、今回円香に渡した宝石箱もオルゴールだったという話でもないでしょう。
 そうであるのなら【ピトス・エルピス】のようにコミュ中で何かしら言及があるべきです。

 だとすれば、シャニPの渡した宝石箱には一体何が入っていて、それはどこへ行ってしまったのでしょうか?



2話『WEEKDAY』/アンビバレントの真意

【シナリオ概要】
 クリスマス一色の商店街にて、シャニPと円香はクリスマスパーティとその際仕事の関係者に贈るプレゼントについて話す。

 このコミュでは、クリスマスパーティプレゼントという話の大筋に関わる2つの重要な要素が提示された上で、シャニPのある発言を起点に話が展開されていきます。


 クリスマスパーティに向けてプレゼントを贈る相手(仕事の関係者)の好みをリサーチしていると話すシャニPは、円香から自分もその対象なのかと尋ねられ『円香は違うよ、そういうんじゃない』と答えてしまいます。

 当然その場の空気は凍りつくわけですが、シャニPはそれを紛らわすように『クリスマスプレゼントで欲しいものは? なんでも言ってくれ』と円香に質問を投げ返します。
 それに対する円香の答えは……。

 パッと見、お互いに豪速球を投げまくっている二人なわけですが、彼らの発言は当然そういった意味ではありません。
 シャニPの発言はいつも通りの迂闊なものであり、円香の言葉の真意は『ぐちゃぐちゃに引き裂かれてしまえばいいのに(以下、"ぐちゃ引き")と同質であると考えて問題ないでしょう。


 私は"ぐちゃ引き"をプロデューサーという好青年の肩書きを取っ払った(スーツが引き裂かれた)シャニPの姿を円香は見たいという意味だと解釈しています。

(最低限必要な要素だけ抜き出すとこんな感じ)

『真面目で誠実、少しだけユニークで、商店街のみなさんからも大人気な好青年』といったように、完璧に自己プロデュースした姿しか見せないのが円香からすると『信用ならない』から、その肩書きで隠しているものを見たいのだと。

 実際、これに近しいことは【ギンコ・ビローバ】以外でも語られていますし、この解釈が大きく外れているということはないでしょう。

(【オイサラバエル】4話『ノンフィニート』)

 そして、シャニPも円香のこういった考えを知っています
 だからこそ、先の豪速球に対して『今のが好意じゃないことはわかってるよ さすがにそんな勘違いはしない』と返すわけです。

 ですがシャニPはその上で、円香が自分にプロデューサーらしくあってほしいのか、そうじゃないのかわからなくなる、と零します。

 直前の『プロデューサーじゃない時のあなた』という円香の発言や、過去の描写を踏まえても、円香はシャニPにプロデューサーらしくあって欲しくないと考えていそうですが、どうやら彼の目にはそうは映っていないようです。



《選択肢→教えてくれ/……どうなんだ?》

 どちらであって欲しいのかと円香に尋ねた場合、彼女はそれに対してきちんと回答を示してくれます。

(左:教えてくれ 右:……どうなんだ?)

 第三の選択肢でもって。

 円香自身も『たまにわからない』と零しているということは、彼女は"プロデューサーを放棄したシャニP"と"プロデューサーらしいシャニP"の間で揺れているのだと解釈できそうです。

 つまり、もう一つの選択肢に合わせた言い回しをするならば『どっちも欲しい』という回答なわけです。

 この回答は『どっちも嫌』と相反するものではありますが、実は根底にある考えは同じであり、だからこそ矛盾しているというわけではありません


 そもそも、どちらか片方を欲することはもう片方を否定することと同義(A, B)です。

A."プロデューサーらしいシャニP"が欲しい
 ="プロデューサーを放棄したシャニP"が嫌
B."プロデューサーを放棄したシャニP"が欲しい
 ="プロデューサーらしいシャニP"が嫌

 にも関わらず『どっちも欲しい』や『どっちも嫌』と回答しているのだから、大前提として彼女の感情自体が相反するものなのです。

"プロデューサーらしいシャニP"が嫌だけど、それが欲しくもある
 ="プロデューサーを放棄したシャニP"が欲しいけど、それが嫌でもある

 つまり、最初から矛盾した感情なのだから、相反する回答が出力されるのは当然という話なのです。
 いやはや、なんともめんどくさい。


 ちなみに『どっちも嫌』の選択肢では、円香がシャニPを「酷い言葉を投げかけられたのに何故怒らないのだ」と詰ります。
 何を言われても傷つかないと『勘違いしそうになる』からやめてくれ、と。

《選択肢→教えてくれ》

『……どうなんだ?』の選択肢を選んだ場合、円香は自分に何を言われても聖人君子のように受け止める姿が嫌なのだと、まるで仕事の為ならなんでもするような心がない人間だと『勘違いしそうになる』と零します。
 そして「今もこうして酷いことを言われているのに、あなたは感情を荒げていないでしょう」と指摘するのです。

《選択肢→……どうなんだ?》

 順序こそ違いますが、どちらの選択肢でもシャニPの勘違いさせるような言動の実例円香が勘違いしそうになる理由が提示されているわけですね。

 要するに円香は、何を言っても傷つく素振りを見せず、怒ることすらしないシャニPに対して不満を持っている、つまりシャニPの感情が見えないのが嫌だと言っているわけです。

 このことから、先述したプロデューサーじゃない時のシャニPを望む理由は"ぐちゃ引き"のそれと同質であるという考察は間違っていないように思えます。


 さて、この『勘違いしそうになる』という言葉はもう一つの選択肢『俺にどうしてほしい?』でも登場するものなのですが、どの選択肢を選んでも語られるということは、それだけ物語的に避けては通れない要素であると捉えることができそうです。

 つまるところが、"プロデューサーを放棄したシャニP"が欲しい理由を重要視しているという話ですね。

 ですが、その理由は"ぐちゃ引き"などの形で過去に何度も登場しているものであり、"プロデューサーらしいシャニP"が欲しい理由が一切触れられていない状況でそれだけが重要視されている状況には違和感を覚えます。

 では何故このコミュでは片方の理由だけが提示され、あまつさえ重要視までされているのでしょうか?


 その理由は回答自体が相反するものなのだから、その理由も相反するからです
 わざわざ併記する必要がないということですね。

 つまり、らしいは"プロデューサーを放棄したシャニP"が欲しい理由の逆のシャニPの真意が知りたくないからという考察です。

 これを裏付けるのがシャニPと円香の信頼関係です。



 まず大前提に戻りましょう。
 "ぐちゃ引き"がキャッチーかつインパクトがあるせいで印象が薄れがちですが、そもそも円香はシャニPと出会った当初から彼の真意を探っていました

(W.I.N.G.1話『夜に待つ』)

 これはシャニPが透を騙していると考えていたからであり、だからこそ彼女は監視という名目でシャニPのスカウトに応じたわけです。

 ですが実際のところ、彼の真意がどんなものであったとしても円香自身にはなんら関係がなかったはずです。

 透が騙されているのであればアイドルを即刻辞めさせていたでしょうし、騙されていなかったとしても活動が長いこと続くとは思っていなかったでしょうから。

(【雨情】2話『場面・鳴』)

 ですが、同じ時間を過ごしていくうちにシャニPへの認識が信頼できる相手へと少しずつ変わっていきます。

 このことはW.I.N.G.後半のコミュの描写からもわかることですし、【ギンコ・ビローバ】での円香の発言を見る限り、"ぐちゃ引き"に至った理由は『夜に待つ』とは別のものだということが伺えます。

(【ギンコ・ビローバ】True END『銀』)

 ところで、初対面のシャニPのような、自分の身の回りの人間を害するような相手には何を思われていようが大した問題ではありませんし、その真意を知って幻滅したり落胆することもないわけですが、それが信頼している相手ならばどうでしょう?

 例え、その人の真意を知りたいと考えていたとしても、同時に知りたくないと考えてしまってもおかしくないように思えませんか?

 その上、我々は言葉と真意が一致しないことを今回経験しています。

(言葉と真意が違う例)

 だからこそ、いかに【ギンコ・ビローバ】が"ぐちゃ引き"の本家本元の総本山と言えど、円香が"ぐちゃ引き"だけを思っていたと断言することはできないのではないでしょうか?

 ただ、この時点の彼女がシャニPの真意が知りたくなくなるほど信頼関係を築いているかと問われると、これもまた断言することができません。

 どんなに状況証拠を示したとしても、どの程度まで関係を進めればそうなるのか〜なんて人によって違いますし、そもそもの話、信頼関係の度合いを定量化することなんて不可能です



 信頼関係の度合いを定量化することなんて不可能です……?


 そういえば【Merry】では『最悪な夢』という円香の信頼度が最終盤になった時のボイスを想起させる出来事が登場しました。
 状況やセリフを鑑みても、あの描写は信頼度ボイスを意識していると考えて間違いないでしょう。

 ということは、【Merry】の時点でかなりの信頼関係が築けていると考えても良さそうです。

 であるならば、【Merry】での円香は彼の心理を知りたいけど知りたくないというハピリリな二律背反な状況でもおかしくないと言えるのではないでしょうか?



《選択肢→俺にどうしてほしい?》

 さて、他二つの選択肢が何が欲しいのかを尋ねたものだったのに対し、この選択肢は何をして欲しいのかを尋ねたものになっています。

 そのため、ここでの話題はプレゼントをどうするのかというものであり、シャニPはプレゼントについてある指定をされることになります。

 詳しくは後ほど触れますが、この指定はシャニPにとって非常にハードルが高いものであり、コミュの終盤において非常に重要な要素になっていきます。



1話『NREM』/理解と恐怖

【シナリオ概要】
 シャニPは円香とのやりとりの回想、及びそれを踏まえた想像という2部構成の夢を見る。
 夢から覚めたシャニPは、間髪入れずに現実の円香と対面することとなる。

 このコミュは夢(回想)・夢(想像)・現実の3つの場面で構成されており、それぞれが物語的な意味を持っているという少し変則的なものとなっています。

(上:回想 中央:想像 下:現実)


【夢(回想)】

 ここでは、過去の共通シナリオ(W.I.N.G.〜LP)における円香とのやりとりを回想しつつ、その合間合間にシャニPのモノローグが流れるという構成になっています(以下、回想の一部抜粋)。

「──ああ、アイドル志望というのは嘘です」
「私の幼馴染がそちらに所属することになりまして
 騙されてないか、確かめに来たんです」

引用元:W.I.N.G.1話『夜に待つ』

「私は、誰かのために歌っていない」

引用元:感謝祭最終話『然るに受信』

「それって、あなたがいれば安全ってこと?」
「嫌い……」
「……本当に……」

引用元:LP5話『yoru ni』

 それらが回想であるということは、過去のセリフがそのまま引用されていること、引用された場面と符号する背景が使用されていること、レコードのノイズのようなSEが流れ続けていること(再生しているという聴覚的な描写)、夢での回想が登場するコミュで用いられたエフェクトが【Merry】でも使用されていること(下に示す画像)などから間違いはないでしょう。

(左:【ハシルウマ】 右:【Merry】)


 それに対し、シャニPのモノローグは過去の出来事を思い出しながら『なぜ、あの時』と自問するものになっています。

なぜ、あの時
なぜ、あの時、呼び止めたのだろうか
あの時の俺に、
一体、何がわかっていたのだろうか
彼女の何が
でも
願わくは、信じたい
ここまで連れてきてよかったのだと

シャニPのモノローグをつなぎ合わせたもの

 特筆すべき点は、シャニPが「円香を理解できていなかった」と考え「円香を理解しようと努めている」ということでしょう。

 言うまでもなく、この「相手のことがわからないからこそ理解しようと努める」ということは今までの円香のコミュにおける核心部分であり、円香やシャニPが心掛けていたことです(2話『HOLIDAY』にて円香が勘違いすることを嫌っていたのは、それが理解とは対局に位置するものだから)。

 シャニマスにおいてイントロダクションの色合いが強い1話にてこれが今一度提示されている以上、これが【Merry】においても重要な要素であると考えても良さそうです。


 ちなみに、このモノローグはW.I.N.G.〜LPまでの回想の合間に流れているものであり、各場面を振り返りながら自問するという形式のものになっているわけですが、この自問すらも回想の一部であると考えることもできます。

(左:前者 右:後者)

 LPの回想が登場する以上、【Merry】の時系列がLPより後なのは確かですが、実はこのモノローグ、LP終了後でなくとも機能します(少なくともW.I.N.G.中盤以降であればどこに挿入しても差し支えはない)。

 なぜなら、先述したようにモノローグの要点である「相手のことがわからないからこそ理解しようと努める」こそが、これまでのコミュにおけるシャニPの振る舞いであり、コミュの核心部分(=共通したテーマ)だったからです。

 つまり、今までシャニPは【Merry】でのモノローグに値するものを考え続けていたと言えるわけで、だからこそ、このモノローグすらも回想の一部と解釈できるわけです。

 今までのコミュでの彼の振る舞い(相手のことがわからないからこそ理解しようと努める)を見る限り、前者の解釈よりも後者のモノローグすら回想の一部であるという解釈の方が自然に思えるため、今回の記事では後者の説を採用して考察をしようと思います。

【補足】
 シャニPのモノローグには『願わくは、信じたい ここまで連れてきてよかったのだと』という「相手のことがわからないからこそ理解しようと努める」ということから外れている部分もありますが、これもやはりシャニPが普段から考えていることなので、回想の一部だと解釈して問題なさそうです。

 まとめると、今までシャニPが円香のことがわからないからこそ理解をしようと努めてきたということが夢(回想)では示されていたわけですね。



【夢(想像)】

 この場面も先程と同じく夢なのですが、先述した回想である根拠が一つも当てはまらない(実際に経験したことではない)という点が大きく異なります。
 つまり、ここでの夢は寝ているシャニPが想像で作ったオリジナルストーリーだということです。

 そしてここでは、先ほどまで回想していたコミュを想起させるような話題が飛び出します。

 この夢において、シャニPが円香を何から助けたのかに関しては一度たりとも描写されることはないのですが、この直前にLP5話『yoru ni』という円香を助けるかどうかの話が展開されるコミュを回想していたことから、これがLPのことを指している(あるいはそれに近しいことが起こったのだと示唆している)のは間違いないでしょう。

 つまりこのオリジナルストーリーは、回想として登場した現実での出来事が色濃く反映されているわけです。


 さて、夢の内容を読み解くためにも、まずはLP5話『yoru ni』における「シャニPが円香を助けた」という話がどういったものだったか、軽くおさらいをしましょう。

 このコミュの中盤にて、シャニPからかけられた言葉が原因で円香は河原の方へと逃げ出しまうのですが、シャニPは円香を追いかけるべきか否か逡巡してしまいます。

 これはシャニPが『円香のことは おそらく、信じて見守るのが正解だ』というスタンスをとっているのが原因なのですが、結果的に彼は円香を追いかけ、川に落ちた彼女の手を掴み、助けてしまいます

『間違いだとしても────!』や『俺が助けるよ……勝手に助ける』という彼のセリフからも、この行為が普段のシャニPらしからぬ円香の都合や正しさをガン無視した自分のための行いであることは間違いないでしょう(これはこれで逆にシャニPらしいとも言えそうですが)。

 その結果、シャニPは円香から『嫌い』とブーイングをかまされるわけですが、彼が自分のために円香を勝手に助けたからこそ、LPはあのエンディングに帰結するのです。


 ちなみに、何故シャニPが『信じて見守るのが正解』というスタンスをとっていたのかというと、彼が【カラカラカラ】2話『水、風、緑』の出来事を経験しているからです。

 この【カラカラカラ】2話『水、風、緑』とLP5話『yoru ni』は状況が非常に酷似しており(踏襲されているので当然ではあるが)、ここでシャニPはLPと同じ河原というロケーションにて、川に落ちそうになる円香の手を掴むが振り払われてしまうという経験をしています。

 こういうことがあったが故に、シャニPは円香を追いかけたり手を伸ばして助けたりすることに消極的だったわけですね。


 さて、LPではシャニPの勝手に助けるという自分のためのに行ったことが功を奏したわけですが、もしもそれが完全に裏目に出ていたら、LPは一体どんな結末を迎えていたのでしょうか?
 そんな起こりえた『最悪の結末』が示唆されるのがこの夢(想像)の段落です。

 ということで、話を【Merry】に戻しましょう。

 夢の中の円香に「何故自分を助けたのか」と問われたシャニPは『円香のプロデューサーだから』助けるのだと返します。
 それは円香がオフの時だって変わらないと続けるシャニPに対し、円香は……

 円香が言い切る前にシャニPは目を覚ますのですが、彼女がどんなことを言おうとしていたのかは明白なわけで。

 これらのやりとりが全てシャニPの想像であることから、LPの時のような自分のための行動をシャニPが恐れているということが推察できるわけです。



2話『HOLIDAY』について再考

 1話『NREM』にてLPについて話が出たので、先程考察を後回しにしたある指定について触れようと思います。

 2話『HOLIDAY』の《選択肢:……どうなんだ?》では、円香が聞き覚えのある言い回しでシャニPを問いただし『「私のために選んだ」という言い訳なしで』プレゼントを選んでくれと語るのですが、これはいわゆる意趣返し兼踏襲の構図だったりします。

(上:LP5話『yoru ni』 下:【Merry】2話『HOLIDAY』)

 LPにおいて『他人のために〜』と問いかけ、自分のために行動したシャニPが【Merry】では『他人のために〜』と問われ、自分のために行動してくれと言われるわけですね。

 ですが、シャニPにとってそれは夢に見るほどに恐ろしい結果をもたらす可能性がある行為であり、円香の『「私のために選んだ」という言い訳なしで』という指定はかなりのキラーパスと言えるわけです。


 ちなみに、2話『HOLIDAY』の考察にて先述した円香が河原の方へと逃げ出した理由とは『他人のために、自分を殺すな』という台詞とその後の追い討ち(選択肢で選んだ台詞)だったりします。
 前者がキッカケで後者がトドメですね。

【Merry】ではそのキッカケの台詞が踏襲され、『「私のために選んだ」という言い訳なしで』という追い討ちによってシャニPが窮地に立たされているわけですから、これらがLPとはシャニPと円香の立ち位置が真逆になっているのを示唆する演出でもあるわけです。

 このことから、LPでの円香とこの時のシャニPは同じくらい追い詰められているとも言えそうです。
 つまり、悪夢を見たり思わず逃げ出すほどのことをお互いに要求しているわけですね。
 いやほんと、良い趣味してるよ。



3話『HOLIDAY』/逆夢

【シナリオ概要】
 円香とシャニPは業界関係者が集まるクリスマスパーティに出席する。
 パーティは無事終了し、彼らは帰路につく。

 このコミュは1話『NREM』へのアンサー的な位置付けになっており、実際にオフだろうと構わずに円香を助けた場合、どうなるのかということが描かれています。

 だからこそ、解散する前に(トラブルに遭う前に)仕事とオフの境界線をキッチリ引くというやりとりが挿入されているわけです。
 そして当然、その後円香はトラブルに巻き込まれ、シャニPは夢での宣言通りに彼女を助けるわけです。

 シャニPが円香を『花子』だと、アイドルである樋口円香とは他人の空似だと言い張ったことにより、事態は一応の解決を迎えます。

 こうなると不安になるのが夢と同じ結末になってしまわないだろうかということですが……

(夢で描かれた結末)

 今回は夢で見たような大惨事にはなりませんでした。

 まぁそもそも1話の夢は、円香はシャニPの手を掴まない(=助けを拒む)という認識がベースにあったのに対し、円香はシャニPの『花子』という助け舟に乗ったわけですから、前提からして違っていたのです。

 だからこそ、当然結果も違ったわけで。

 まぁ、例え円香がシャニPの助けを拒んだとして、予想通りの結果になっていたかは微妙なわけですが。

(誰かさんは90%を外した前科持ちなので)


 ちなみに、シャニPが助けに入る前と後だと家までの付き添いを拒否するかどうかが変わっているのはここら辺が理由だったりします。

 今更振り払ったところで、その手を掴んでしまった(受け入れてしまった)という過去は変えることができないという話ですね。



4話『REM』/誰のために

【シナリオ概要】
 円香はシャニPとのやりとりの回想、及び想像という2部構成の夢を見る。

 シナリオ概要からもわかるように、このコミュは1話『NREM』と対比されており、夢の構成もほとんど同じものになっています。

 そのため1話と解釈が似通ってしまう部分も多く、その上そうでない部分も解釈が既存のコミュで登場したものとほぼ同じである上に単体で完結している(全体の考察に関係ない)ものが多いため、ここでは要点だけを述べていこうと思います。


【夢(回想)】

 1話同様、このコミュでも夢の中で過去の共通シナリオ(W.I.N.G.〜LP)を回想するのですが、それとは一部回想の引用元が異なっています

 二人ともW.I.N.G.とLPの回想をしているのは共通しているのですが、感謝祭とG.R.A.D.はそれぞれ片方のみが回想しているわけですね。

 どちらも誰のためにに関わる会話であり、1,2話の考察においてもこれが重要だったことを踏まえても、この誰のためにという要素は【Merry】において重要であると言えそうです。



【夢(想像)】

 1話『NREM』の夢と同じく、ここでも回想である根拠が当てはまる描写がない(実際に経験したことではない)ため、この夢は寝ている円香が想像で作ったオリジナルストーリーだと言えるわけですが、回想を踏まえた夢ではないという点が1話とは異なっています。

 とはいえ、どこかで見たような言葉が出てきてはいるので、文脈はしっかりと存在しているわけですが。

 実際、この夢ではシャニPがプロデューサーという肩書きなしで円香と向き合おうとするという、いわゆる"ぐちゃ引き"が実現するところが描かれています。

 ですが、"ぐちゃ引き"を求めていたはずの円香はあまり意欲的ではないようで、シャニPに『何も望んでない』と告げます。

 この理由は2話の考察で語った通りであり、1話の夢(想像)の表していたものがシャニPが恐れていることだったことからも、やはり円香がアンビバレントな考えを持っていることが伺えるわけです。



 さて、4話の考察の冒頭にて『このコミュは1話『NREM』と対比されて』いると書きましたが、それは何も構成だけの話ではありません。

 1話『NREM』がシャニPにとっての最悪の結末を提示していたように、ここでは円香にとっての最悪の結果が示されています。

 それはシャニPがプロデューサーをやめるということです。


 そもそもの話、何故円香はシャニPのスカウトに応じたのでしょうか?

 それは言うまでもなく透のためであり、シャニPが信用できなかったからです。
 だからこそ"ぐちゃ引き"状態だったわけで。

 しかしながら、同じ時間を過ごすことでシャニPへの認識も少しずつ変わり、最終的には信頼するようになったわけです。

 なのに、今更『本当の自分を見せる』なんて言われたらたまったもんじゃないですよね。
 それはつまり今まで見せてきたプロデューサーの姿が偽物ということであり、今まで築いてきた信頼関係の否定なわけで……。
 程度の差こそあれど、円香の予想って当たっていたって話になってしまうわけですから。

 だからこそ、あの夢は円香にとっての最悪の結末なのです。
 とはいえ、"ぐちゃ引き"の衝動が無くならないのも確かなことで。

 では"ぐちゃ引き"を達成しつつ最悪の結末を回避することはできないのでしょうか?



True END『GIFT』/円香にとっての宝石

 3話『HOLIDAY』が1話『NREM』へのアンサーだったように、このコミュは4話『REM』へのアンサーとなっています。
 アンサーの内容は当然、彼らにとっての最悪の結果(夢の結末)が、果たして訪れるのかどうかです。

 だからこそ、3話で1話の夢の状況を踏襲したように、TEでも4話の夢と同じく円香とシャニPがサシで話をしているわけですね。

 さて、円香の願いが"ぐちゃ引き"であり、円香にとっての最悪の結末がシャニPがプロデューサーをやめるという選択をしてしまうことという話だったわけですが、現実のシャニPは一体どのような選択をしたのでしょうか?


 円香がシャニPに望んでいたのは、プロデューサーをやめることではなく、プロデューサーでありながら自分の本心を見せることでした。

 それはつまり、プロデューサーをやめることでプロデューサーである時のシャニPと普段のシャニPとの間に境界線を引くのではなく、プロデューサーである時の自分も普段の自分と本質は変わらないということを示すことです。

 それが示されたからこそ、彼女は『事務所に行かない』と言うわけですね。

 何故なら、彼女が事務所に訪れたのはプロデューサーという信頼ならない相手の魔の手から透を救い出すためだったから。
 シャニPの本質は変わらないということが示され、その前提が崩れた以上、彼女が事務所に行く必要はないというわけです。


 さて、プロデューサーでありながら自分の本心を見せることが重要だったという話なわけですが、TEではクリスマスプレゼントという別の角度でもそれが示されています。

 前書きにて先述したように、シャニPが円香に贈ったのは空の宝石箱でした。

 それは2話『HOLIDAY』での円香のオファー通り、決して円香のためのプレゼントではなく、『円香はきっといらないって言うだろうけど』と語っているようにシャニP自身もそれはわかっています。

 だけれども、だからこそ押し付ける

 プロデューサーらしくない、円香の言葉を借りるなら『聖人』らしからぬ理由と行動でもって。

 その上で、プレゼントに込めた想いはプロデューサーとしてのシャニPのものなのです。


 ちなみに、このシーンではBGMとしてオルゴールが流れているわけですが、同じくオルゴールの音色が流れ、空の宝石箱の受け渡しがあり、隠されていたことを見るという展開があった【ピトス・エルピス】では、その隠されていたもの(激情)が宝石箱の中身として示されています。

 であれば【Merry】の空に見える宝石箱に入るべきなのは、隠されていたもの(シャニPの本質)なのではないでしょうか?

 円香がそれを、シャニPが言うように『好きなものとか大事なもの』として捉えるかどうかについては、わざわざ語る必要はないでしょう。



後書き

 まずは、長々とお付き合いいただきありがとうございました。

 まぁ全部が正しい自信なんてないですし、私は高尚な文章を書けるわけでもないので、とりあえずはここまで読んでくださった方が面白かったと感じてくださっているのであれば幸いです。
 そもそも考察なんてものは正しくないのが前提ですからね。公式が明言していないものは程度の差こそあれど全て妄言妄想の類なわけで、、



 ちなみに、この記事ではハピリリがどうだのと一見するとそれっぽいことを書いてはいますが、私は【Merry】をPラブのコミュだとは解釈していません(これは他の円香のコミュも同様)。

 確かに「クリスマスプレゼントはあなた(要約)」という発言や、円香が見た夢なんかは単体で見ればPラブにも見えます。
 ですが物語を俯瞰で捉え、それぞれの演出が何のために必要だったのかということを考えると、つまりはそれらの要素を単体では無く文脈で捉えると、それによって描こうとしたものが恋愛ではないことは明らかだと考えます(それぞれの詳細については既に記事の考察部分で書いた通り)。

 確かに、円香のコミュで描かれた「相互理解への欲求」とか「知りたいけど知りたくない」という想いは恋愛感情に近しいものですが、当然ながら他の関係にだって当てはまるもので。
 だからこそ、恋愛感情だとするのであれば、それなりの理由や描写が欲しいわけですが、、特にそういうものは見当たらず。
 だからこそ、恋愛感情であると断言することはできないなぁと私は思うわけです。


 じゃあ円香のシャニPへの感情は何なのかって話ですが、私は現時点での適切な表現はごちゃ混ぜでどこにでも転びうるものだと思います。

 一個人に対する感情としては質感も大きさも極まっていると言う他なく、内包する感情のジャンルもぐっちゃぐちゃ(感情とは得てしてそういうものではありますが、それにしたってちゃんぽん)。
 だからこそ、ふとした拍子に恋愛感情にも発展する可能性を有しているが、同じくらいの割合で逆方向にも振り切るかもしれない。
 そういう、どこに行くかわからないという意味で危うい感情だと。

 なので、"恋愛感情"といったように一言で表現できない、というより一つの言葉に収めるには過剰だったり余分なものが多いと言いますか。


 故に、この考察では【Merry】をPラブのコミュだとは解釈していない……というか円香をPラブ勢だとは考えていません。

 まぁそもそもの話、円香のコミュってそういったごちゃ混ぜな感情を楽しむものだと私は思っているので、定義するのが勿体ないという話でもあったり(もちろん、それを理由に解釈を捻じ曲げたりはしていませんが)。
 なんなら、彼女の感情を恋愛だけで括ることよって見えなくなるものは、シャニマスが過度な記号化を避けたことで取りこぼさなかったものと似ているんじゃないかなぁ、、みたいなことを思っていたりもします。
 一つの言葉にすることによって削ぎ落とされてしまうものにこそ、大切なものがあるのではないのか、みたいな。


 閑話休題。


 ちなみに、今回の【Merry】以外にも【ピトス・エルピス】や【オイサラバエル】の考察なんかも投稿しています。
 この記事が面白かったよって方はそちらの方も読んでいただけると幸いです。

 改めて、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
 それでは。

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