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ライターからディレクターになるには?フリーランスのキャリアアップ術

ライターギルドblanksさまが主催する「ライターアドベントカレンダー」への参加記事となります。ほかの参加者さまの記事はこちら↓からどうぞ。

【blanks with】ライター Advent Calendar 2023
https://adventar.org/calendars/9037

2023年もクライマックスとなりました。今年の年始といえば、外に出れば避妊具とブラジャーが落ちているような世紀末都市・梅田のヤベー宿で年を越したことを思い出します。

数十年もののヤニが染み付いた壁を見つめながら年を越していると、ぐずぐずだった時代のことを思い出して妙に懐かしくなりました。

フリーランスという茨の道を選ぶ以上、ときどきこういう体験をして、セルフで尻に点火したいものです。去年はなんとか生き延びられたけれど、今年はどうなるか分からんぞという危機感のもとに、スキルアップを誓うのでした。

さて、スキルアップといえば、近ごろ本当によく聞かれるのが「どうやってディレクターやPMになったんですか?」というお話です。

ライターアドベントカレンダーに参加しながら大変申し訳ないのですが、現在の私はライターの仕事はほとんど受けていません。

とくに今年の後半などは、急に農村へ行った記事くらいしか書いていないかもしれません。去年はドイツに行っていたわけで、方向性の変化がすごいですね。(ドイツも農村も同じくらい大好きですよ)

【急に農村へ行った記事(3本立て)】
https://coeteco.jp/articles/13391
https://coeteco.jp/articles/13399
https://coeteco.jp/articles/13402

じゃあ今の夏野はいったい何をしているのかというと、編集、ディレクション、WebサービスのPM、その他もろもろで生計を立てています。

なおかつ取引先ではフリーランスさんのマネジメントを任されているため、ライターから動画編集者、ディレクター、営業補助など、キャリアアップを実現した方も多数見てきました。

今日はその経験から、とくに希望者の多い「ディレクター」に焦点を当て、ライターからキャリアアップする道筋や必要な心構え、気をつけたいポイントなどをご紹介できればと思います。


そもそも、ディレクターって何をするの?

ありとあらゆる雑用です。

「ディレクター」というと何やらカッコイイ職種名ですが、少なくとも夏野の限られた観測範囲においては、「明確に切り出せる業務以外、すべてを担う雑用係」と捉えておくのが良いように思います。

(というか、こう表現されてムッとするような……つまり、「縁の下の力持ち」であることを許容できないタイプはディレクターに向いていない気がします。)

分かりやすく、取材記事の場合で説明しましょう。Webメディアの記事は、公開までにこのようなステップを要します。

いや、ウチのメディアはこんな流れじゃなくて……など、細かな違いがあるかもしれませんが、その話は本質ではないのでいったん傍へ置きます。

【取材記事が世に出るまでの流れ】

取材企画の立案

有識者へのアポイント

取材依頼書の作成

取材日の調整

ライター/カメラマン等のアサイン

取材同席

記事構成案の作成

原稿制作

写真素材の受け取り・管理

原稿の編集、ライターとのやり取り

アイキャッチの制作

入稿

有識者への連絡、原稿確認

修正対応

公開連絡

SNS投稿

ライター/カメラマンへの報酬支払い

このうち、誰がどの部分を担当するかは媒体によります。具体的に言うと、媒体によってはライターさんがCMSに直接入稿する場合もあれば、いったんGoogle Document上にて原稿を完成させ、入稿は編集者が……という場合もあります。

取材以外の部分でも、たとえば報酬支払いの部分はバックオフィスのスタッフが一律で担当しているとか、企画立案の部分をライターさんに追加料金でお願いしているとか、いろいろです。

ともかくここで言いたいのは、取材原稿が世に出るまでには思った以上の工程があり、3〜5人で協力しながら進行していること。そして、ディレクターは臨機応変にすべてを巻き取って進行する立場だということです。

たとえば、依頼するはずのライターさんが体調不良になり、当日来られないとなれば、代わりに取材のフロントに立ち、他のライターさんに録音からの原稿制作をお願いするとか。

有識者への連絡がなかなか返ってこず、「月に◯本」の目標が達成できなさそうだと分かれば、急いで予備の企画を引っ張り出し、本数を担保するとかです。

さらにいえば、この工程を回すなかでボトルネックになりそうな部分は業務改善をしたり、同じライターさんにばかり負担が偏っていそうだと分かれば新たに募集(採用)をしたりするなど、周辺業務もできればgood。

ジグソーパズルの全体を見渡し、欠けているピースを先回りして埋めていくのがディレクターの仕事です。

ライターからディレクターへキャリアアップするには?

では、ライターからディレクターへキャリアアップするにはどうすれば良いでしょうか。

確実なのは、自分の担当している記事まわりの用事を巻き取りながら、最終的にすべてを司ることです。たとえば、このような部分から担当していくと良いでしょう。

【SEOライターの場合】

(初級編)
・新規キーワードの提案
・構成案の作成
・記事中に挿入する画像の選定

(中級編)
・ライターチームを作り、月に◯本の納品を確約
・アフィリエイトリンクの最適化

(上級編)
・他ライターの原稿の検収
・過去記事を分析し、リライトによって順位を上げる
 …など

【取材ライターの場合】

(初級編)
・企画案の提出
・取材依頼書の作成
・修正対応の巻き取り

(上級編)
・有識者アサインのフロントに立つ
・他ライターの紹介、斡旋
・カメラマンも兼任する

このときに大切なのは、クライアントと適切に交渉する力です。

工数が増えるわけですから、それに見合った報酬が欲しいと考えることは当然です。とはいえ、「キャリアアップしたい」は完全に自己都合なので、初めから「金!金!」なトークをするのは微妙なところです。

どのような交渉をするのが良いかはクライアントによりますが、夏野であればこのような申し出をするかなと思います。

「ちなみに取材依頼書ですが、もしお忙しいようであれば、次回以降は私のほうで作成することも可能です!

5分程度お話を伺ってから作成すれば、意図に沿わない内容になるリスクも避けられるかなと。

もちろんお送りする前にはチェックしていただくので、トラブルにはつながりにくいかなと思います。ご検討ください!」

ここでのポイントは、クライアントの立場に立ち、クライアントが不安に思うところを先回りして解消しておくことです。

日々忙しいクライアントからすれば、取材依頼書を任せられること自体はありがたい申し出です。しかしその一方で、意に沿わない取材依頼書が上がってきてしまえば、修正でかえって手間がかかる上に、「これはちょっと……」とフィードバックする心理的な負担まで生じることになります。

そこで書き添えたのが、「事前に話を聞いてから作成する」「チェックしてもらってから送る」の2点です。

簡易な電話会議をすれば、まったく意図しない取材依頼書は上がってきづらい。なおかつ、事前にチェックしてもらうことで、有識者に不快な思いをさせるリスクも避けられるよ、とアピールしているわけですね。

このような配慮ができれば、クライアントからも「ではぜひ1度、トライアルで……」と前向きな反応をもらいやすいでしょう。そこでクオリティを見てもらい、満足いく出来だと判断してもらえたら、そこで初めて金額の交渉をするのがおすすめです。

ディレクターに向いているのはこんな人

そんなわけでライターからディレクターへのキャリアアップルートを示したわけですが、残念ながら人間には向き・不向きがあります。ここからは多少厳しい話も交えながら、ディレクターに向いている人/向いていない人を本音で語りたいと思います。

名前の出ない仕事でも喜んで取り組める人

まず大前提としてこれがあります。ディレクターの仕事は名前の出るものではありません。なおかつ、ポートフォリオに書けるタイプの実績でもありません。

ライターとして名前を売り、その名前によって高い報酬を得たい……という希望を持っている方とは相性が良くないので、生活のためと割り切れるのか、それとも記名の仕事を増やすのかを一度考えてみると良いでしょう。

ちなみにポートフォリオについては、書けない仕事が多くてもあまり問題ありません。私はフリーランスさんを募集する立場ですが、ディレクターとしての実力は会話をしていればだいたい分かります。

「ディレクターを目指したいけれど、名前が残らないと次の仕事につながらないのでは……」と不安になる必要はありません。目の前の仕事に誠実に取り組めば、きちんと次につながります。

「自分」ではなく「お客様」中心で動ける人

これは1点目と多少重なる話ですが、ディレクターに向いているのは、自己実現<<<お客様の利益、で動ける人です。

どのような動機で働くかは人それぞれなので、「私はこういうライターになっていきたい!」という展望を持つのは悪いことではありません。

しかし、ディレクターに関して言えば、自分のキャリアプランは二の次三の次。それはいいから、とにかく公開スケジュール厳守で進めてね。って感じです。

分かりやすくいうと、たとえば募集面談などで、「私は〜したい」「私は〜になりたい」という話ばかりしている人は黄色信号かもしれません。お客様は我々フリーランスのために事業を営んでいるのではなく、利益のために動いていらっしゃるからです。

もしもディレクターを目指したいのであれば、「我が我が」ではなく、「お客様は何に困られていますか?」「お客様のために私がいま出来ることはありますか?」というマインドを持つようにしましょう。

「郷に入っては郷に従え」ができる人

私はディレクターとして軽微な業務改善にも取り組む立場ですが、決して初めからずけずけとものを言うことはありません。まずはお客様のやり方を見て、それを踏襲しながら、「このように変えてはいかがでしょうか?」と様子を見て提案しています。

なぜなら、すべての業務フローにはそうなっている意味があるからです。

たとえば取材依頼書をGoogle DocumentではなくWordで管理している媒体があったとしましょう。

Google Documentなら有識者からのコメントもリアルタイムで同期できるし、バージョン違いが散らばることもないのに、なぜ?と思うかもしれません。

でも、そこには必ず理由があるはずです。その「理由」は必ずしも合理的ではなく、「Wordのほうが安心するから」とか、「前の担当者もこうやっていたから」のようなものかもしれません。でも、きちんと理由はあるわけです。

それを無視して、勝手に「Google Documentにしておきました」と業務フローを変えたら、思わぬトラブルにつながるかもしれません。「ちょっと!あなたの作った依頼書、電波の入らないところで閲覧しようと思ったら、見られなかったんだけど!」なんて言われてしまうかもしれません。

「いや、Google Documentにはオフラインモードがあって」と思うかもしれませんが、それはこちらの知識レベルの話。担当者、もしくは有識者がそれを知っているかどうかは分かりません。

だからこそ、郷に入っては郷に従え、なのです。目安として3ヶ月くらいは様子を見たほうがいいでしょう。そのうえで、「別にこのフローに強いこだわりはなさそうだな」と感じれば、そのとき提案すればOKです。

これもまた、「自分」ではなく「お客様」中心で動くマインドの一環です。

「とりあえずやる」ができる人

ディレクターに降ってくる仕事の中には、要件が明確でないものもあります。というか、お客様が忙しすぎて、要件定義をする時間がないことも多いのです。

たとえば、イベントの集客を考えてみましょう。お客様から「500人くらい呼んできて。予算はこれで」と言われたとして、お客様が気にしているのは「500人来るかどうか」。

その500人をWeb広告で呼ぼうが、ティッシュ配りで呼ぼうが、親戚を500人連れてこようが、別にどうでもいいわけです。

もちろん、実際には「データ収集の観点からWeb広告が最適」など、いろいろ考えるべきことはあります。ここではたとえ話として、極端な例を挙げています。

このことを理解せず、

「まず何をすればいいですか?」
「ティッシュを配ればいいんですか?」
「そのティッシュはどこで発注すればいいんですか?」
「ティッシュはどこで、何個くらい配ればいいですか?」

と聞いてしまうのは、ちょっと頼りない印象。というか、そこまで細かく要件定義できるなら、わざわざディレクターなど置かず、お客様が自分でやっているでしょう。

このように細かくたずねてしまうのは、失敗してお客様をがっかりさせたくないと考えるからかもしれません。気持ちはわかりますが、ただでさえ忙しいお客様にとって、こまごまとした質問ばかり投げてくるディレクターはむしろマイナスでしかありません。

それならば、500人が300人になろうとも、自分の力でできるところまでとりあえずやる。この精神を持てるかどうかが、ディレクター適性を左右します。

すぐに謝れる人

ディレクターをやっていると、自分のせいではなくとも謝罪するタイミングが絶対にやってきます。

たとえば、手違いで有識者のもとに取材依頼書が渡っていなかったとか。カメラマンの機材が壊れ、写真の撮り直しになったとか。ライターさんが原稿を予定通りに上げてくれないとかです。

そんなとき、「アイツのせいで〜!(メラメラ)」とキレてしまう人には、ディレクターは向いていません。シンプルに健康寿命が縮まるので、やめておいたほうがいいです。

スケジュールの遅延やミスを人のせいにせず、すぐさま「申し訳ありませんでした!」と謝罪する。そして、すぐさまリカバリー策を考える。この動きができる人なら、ディレクターとしてバリバリ立ち回っていけるでしょう。

ディレクターに向いていないのはこんな人

ここまで、ディレクターに適性がある人の特徴についてつらつらと書きました。以下では上記を踏まえ、ディレクターに向いていない人の特徴も本音でまとめたいと思います。

締切を守れない人

ディレクターはスケジュールの防衛前線です。「たとえライターさんの原稿が遅れても、自分の作業を2日巻けばスケジュール通りだな」のように立ち回りながら物事を進めていかなければならないので、ディレクター自身が物事を先延ばしにするタイプだと、なかなか厳しいものがあります。

モチベーションが上下しやすい人

ライターであれば、「今月は調子がいいからたくさん書こう」「梅雨の時期はパフォーマンスが落ちがちだから、受注を抑えよう」のような調整が効きますが、ディレクターの仕事は毎週、毎月発生します。モチベーションが高かろうが低かろうが、関係ありません。

どれだけ調子が悪かろうと、自分で自分の機嫌をとりながら淡々と業務を遂行できるかどうかは大きなポイントです。

人から褒められたいタイプの人

ライターとして活動していると、書いた記事がメディアでランクインしたり、SNS上で拡散されたりと、何らかのリアクションがもらえる機会があります。対するディレクターは、そのような反響をもらえることはまずありません。

というか、誰かからメンションやDMがくれば、たいていの場合は仕事の依頼かトラブルです。

つつがなく進んでいれば反響がなく、トラブったときだけ連絡が来るのがディレクターの仕事なので、「読者のポジティブな反応が生きがい!」みたいな人だと、なかなか気持ちが満たされることはないでしょう。

トラブルが起きるとパニックになる人

ディレクターをやっていると、さまざまなトラブルに見舞われます。軽いものだと、お約束していた有識者が来ない、とか。委託していたフリーランスさんが“飛んだ”などです。

そんなとき、受け止めるはずのディレクターがいちいちパニックになっていたら話になりません。

どんなトラブルも「あらら(笑)」で受け止め、次にどうすべきかを考えて動ける泰然自若さが求められます。

SNSに何でも書いてしまう人

ディレクターになると、他の方への発注内容や、お客様の事業の全体像を見る機会も増えます。ライターと比べて相当にセンシティブな情報に触れることになるので、お客様は当然、SNS等もチェックしながら「この人は信用してOKか?」を判断することになります。

そんなとき、「過去にこんなクソクライアントがいた!」みたいなことを頻繁に投稿していると、リスキーな存在として受け止められます。

SNSを使うなとは言いませんが、「その投稿は本当に必要?」と立ち止まって考える慎重さは欠かせません。

とくにお客様が上場企業の場合、下手するとインサイダー取引につながることもあるため、情報モラルは相当厳しく見られることを知っておきましょう。

お仕事に慣れれば、安定した収入も◎

というわけでこの記事では、ライターからディレクターへのキャリアアップに焦点を当て、リアルな話も交えながら語りました。

厳しい話もいろいろとしましたが、適性さえあれば毎月決まった発注をいただくことができ、収入も安定します。不安定になりがちなフリーランスにとって、これほどまでにありがたい仕事もありません。

キャリアアップの声がかかるかどうかは、日頃の稼働実績にかかっています。

なかなか連絡が取れず、納品も遅れ気味で、それなのに「金!金!」で交渉してくるフリーランスには、なかなか声はかからないでしょう。

反対に、毎週安定して稼動してくれ、細かな雑用も「やっておきますよ!」と爽やかに巻き取ってくれる人がいれば、多少のミスを覚悟してでも「お願いしてみようかな」と考えるものです。

何度でも書きますが、お客様は我々フリーランスのために事業を営んでいるわけではありません。我々がキャリアアップしようがしなかろうが、お客様にはまったく関係のないことです。

それを念頭に置いたうえで、「なにかお困りのことがあれば、教えてください!」というスタンスでいれば、きっとチャンスは巡ってくるはず。私も心構え新たに、2024年も地道にお客様に貢献していきます。

とっても嬉しいです。サン宝石で豪遊します。