少人数コミュニティを運営して思ったこと
「とりあえず、6ヶ月限定でやってみましょうか」
このような形で始まった、共同運営マガジン『ICT教育ライターの回覧板』。夏野が個人的にお付き合いのあるライターさんを中心に、毎週持ち回りでコンテンツを発信してきました。
自発企画であることから、原稿料の発生はナシ。“全員ボランティア”の前提だったため、スタートしたときは、「もしかしたら途中で、何名か抜けられるかもしれないな」と考えていました。
ところが、蓋を開けてみると、ありがたいことに離脱はゼロ。2ヶ月に1回しか回ってこないゆるやかさが大きいとは思うのですが、最後まで定期的な発信が続けられたのは、非常にポジティブな結果だと感じています。
というわけで今回の記事では、『ICT教育ライターの回覧板』発起人として、コミュニティをどのように運営してきたのかや、得られたメリット、反省点などを振り返ってみようと思います。
■なぜコミュニティを運営したのか
そもそも、『回覧板』がどういう経緯でスタートしたのかというと、きっかけは夏野の個人的な悩みでした。
その悩みとは、「複数人に向かって、ラフに話しかけられる場所がない」こと。
というのも、法人化後、ありがたいことにディレクター業務なども受注するようになったのですが、思った以上に“やわらかい相談”を受けるケースが多いんです。「〇〇って分野がホットらしいんだけど、誰か詳しい人いない?予算はつけられるからさ、思い当たる人がいたら紹介してよ」的な。
で、これを、今までのやり方で対応しようとすると、
という、オープンすぎ/クローズすぎな2択しかありませんでした。
それならば、「参加者は限定されているが、オープンな議論ができる場(セミクローズドな場)」を作ればいいのかなと。さらに、それにあたり、何かみんなで一つのプロジェクトを進めた方が紐帯を強められるかもしれないなということで、『ICT教育ライターの回覧板』という企画を立ち上げ、気になる方をお誘いした、という流れでした。
■どのような体制でコミュニティを運営してきたのか
まずは事実から共有しますと、『回覧板』の運営は、夏野の作成したプライベートSlackで行っていました。このSlackには以下の5チャンネルがあり、それぞれの役割をこう定めています。
投稿頻度は1日あたり1テーマ程度で、誰かが相談すると、ワッと複数人が反応し、また静かになる、といった感じでした。
関与の濃度はまちまちで、毎日リアクションをくれるライターさん半分、“気が向けば”スタンスも半分、という感じ。すでに他のコミュニティに属しているライターさんなどはそちらがメインなので、気が向けばコメントをくださる、という距離感でした。
■どういうルールにしたか
自発コミュニティは、うまく運営すれば参加者に安らぎを与える一方、失敗すれば全員が去っていく……というギャンブルでもあります。
そのため、運営にあたっては、以下のルールをドキュメントで共有しました。(下に、証拠画像も貼っておきます。)
中でも、私が重視していたのは ④なんら義務発生なしでした。
私見ですが、ボランティアで何かを運営すると、楽しい間は良いのですが、どこかで参加者に「やってもらえるのが当たり前」感が出てしまう。その結果、「ケッ!金もらってないのに文句まで言われて、やってらんねーよ!」となり、「来年からや〜らね」と立ち消えになってしまうんだよな、と。
それを防ぐためにも、「これは全員ボランティア企画であって、『なんでやってくれないの?』『もっとあなたも頑張るべき』みたいなのはやめましょうね」と明文化しておく必要がありました。なんでもドキュメントにするの、頭でっかちな人間みたいでちょっとヤなのですが、大事なところなので、ステートメント代わりにテキスト化しました。
■具体的にはどういう活動をしたか
活動内容は、基本はコミュニティでの交流+決められた日に記事公開、の2つだけですが、夏野個人としては、こんなこともやりました。
こうした踏み込んだ活動ができたのは、ひとえに、和やかな雰囲気づくりに協力してくださった参加者のみなさんのおかげです。ありがとうございます。
■コミュニティ運営にはどんなメリットがあるのか
メリットの話が出たので、6ヶ月運営してきた今、コミュニティ運営にはどのようなメリットがあったか?をまとめてみたいと思います。
定期的に活動するモチベーションになった
原さんが書いてくださった通り、私はライター業を「職業人」として営んでいるタイプなこともあり、SNS等をじょうずに活用できていませんでした。「やらなきゃなあ」と思いつつも、クライアントワークもある中で、リソースを割くモチベーションが湧かなかったのです。
それが、『回覧板』の運営を通し、耕作放棄地となっていたSNSを改めて活用し始めたところ、意外なほどお仕事のお問い合わせが増えました。
メンバーの小澤さんいわく、「SNSに動きがないと、今お仕事を受け付けているかどうかが分かりづらいので、声をかけられなかったのでは」とのこと。うーん、確かに。傍目から見ると、「こいつ生きてるのか?」感があるアカウントだったので、むしろネガティブな印象を与えていたのかもしれません。
「定期的に活動するモチベになった」は他のメンバーからも聞かれた感想で、ライターとして活動する歴が長くなれば長くなるほど、原稿料の発生しない、セルフブランディング的な仕事は優先度が下がっていくものなのかなと感じました。定期的に自己発信していく契機を生み出せたのは、大きなメリットとなりました。
(SNS運用が苦手なライターでも実績発信ができる方法は、こちらのnoteでまとめています)
心理的安全性が担保され、いろいろな相談を受けやすくなった
リモートワークが少しずつ広がり、直接顔を合わせずともお仕事ができるようになりました。私はそうしたDXの恩恵をビャンビャンに受けているほうなので、基本的にはこちらの方向に社会が転がっていくと嬉しいなあ……と感じていますが、もちろんデメリットもあります。言うまでもなく、関係構築の難しさです。
ビャンビャンにITが好きな私ですら、「1杯行く?」みたいなコミュニケーションが取れない状況での仕事はまだまだ手探りです。即レスしすぎて引かれることもあれば、レスが遅すぎてタイミングを逃すことも。あちこちで指摘されることではありますが、同じオフィスにいれば「なんか具合悪そう」と感じ取れることも、リモートだと見逃しがちになります。「この間まで元気そうだったのに、突然『もうダメです』的なメッセージが来た」という話を、本当に本当にあちこちでよく聞きます。
私はビャンビャンのネット弁慶であるからこそ、コミュニティの運営を通して、「リモートでも仲良くなれるわい!」という前例を作りたいなと思っていました。いかなる質問も拾うし、なんならお金も出しますで。的な。
そうした思いが伝わったのかどうかは分かりませんが、『回覧板』コミュニティでは大きく揉めることもなく、しょうもない話題からマジの仕事相談まで、幅広いトークが流れる場となりました。(私の気づいていないところで不快な思いをされていた方がいたら、すみません。お叱りのDMをください。)
結果的に、みなさんからいろいろな相談を受けることができ、プライベートでの趣味や特技(!)を教えてもらうなどして、新たな企画につなげることもできました。みなさんにとって居心地の良い場が作れたかどうか、不安なところもありますが、少なくとも「企画につながったアイディアが出た」事実においては、成功と言ってよいのかなと思います。
(メンバーの少年Bさんが編集、あずささんがアイキャッチイラストを担当してくださる、Workship MAGAZINEでの連載記事。夏野のマガジン用noteをきっかけに企画がスタートした)
質問を相互に解決してもらうことで、ディレクションコスト減
これはものすごく打算的なメリットで、メンバーが不快に思ったら申し訳ないのですが、「相互にコミュニケーションをとってもらえると、ディレクションコストが下がる」というのは事実としてあります。
たとえば、多くのWebサービスは、軌道に乗ってくるとユーザー同士でのQ&A掲示板を設けます。なぜなら、「iPhoneの画面がつきません!どうしたらいいでしょうか!?」みたいな質問に対し、すべて運営が対応していると人件費がかかるからです。
そうではなく、ユーザー同士で「まずは充電してみましょう。電池切れではありませんか?次に、ケーブルをパソコンにつないで、データが生きているか確かめましょう。それでもダメなら……」のように疑問を解決してもらえると、運営としては非常にうれしい。
これと同じことがメディア運営にも言え、原稿の相互チェックやツールのレクチャー、モチベーション低下時のケアなどをメンバー同士で行ってくれると、「いつなんどきでも夏野がスクランブル出動!」という状況を防ぐことができます。
まあ、私の場合はネット弁慶なこともあり、めっちゃこまめに書き込んでいた(ディレクション工数が減ったわけではない)のですが、発起人(便宜上の代表)から励まされるのと、同じ立場のメンバーから励まされるのとでは、元気の出かたも変わってくると思うんですね。そういった意味でも、メンバー同士が安心して交流できる場をご提供できたのは、ひとつのメリットだったのかなと感じています。
■失敗例から学ぶ、よくないやり方
こんなに自画自賛しちゃって、あとから「おめーのコミュニティ、今まで言わなかったけど、すげーサイアクだったからな!」って言われたらどうしよう。不安になってきましたが、とりあえず続けます。
みなさんに聞く限り、(そして、私の体験も踏まえると、)中にはうまくいかないコミュニティもあるようです。具体的にはどういう状況なのか、よく聞くパターンをまとめてみます。
そもそも、参加するメリットがない
よほどの暇人でない限り、メリットのないコミュニティには所属しません。ましてやフリーランスなんて、腕一本でゴリゴリ食っていく道を選択した方なわけですから(※)、メリットがなければ当然抜けます。そのリソースをよそに割けば、仕事が取れる = お金になるかもしれないわけですしね。
(※)実際にはいろいろなスタンスのフリーランスさんがいらっしゃいますが、単純化して書かせていただきました。
そのため『回覧板』では、はじめの段階で、夏野個人からイラストレーターさんにご依頼し、オリジナルのアイキャッチイラストを描いていただきました。「これは譲渡しますので、個人ブログ等にも、ぜひお使いください」という形で。まずは“身銭を切る”という形で、誠意をお見せしたつもりです。
また、メンバーの小春さんには、原稿料をお支払いした上で、各メンバーの仕事スタイルについての取材記事を書いていただきました。というのも、最近は「noteでポートフォリオ」がスタンダードになってきて、採用側から飽きられている空気があるようで……。取材記事という形で出すことで、少し差別化できるかな?というねらいがありました。
加えて、条件が合いそうな方には、お仕事をご紹介したこともありました。
ただ、残念ながら全員へのメリット提供には至らず、「正直なところ、別段メリットは感じなかった」というお声もいただきました。まったくの力不足で申し訳ないところですが、率直なフィードバックをいただける関係性を作れたこと自体はポジティブなのかなと思っています。今後はより強いメリットを提供できるよう、工夫していきたいところです。
同じ人ばかりが発言している
次の失敗例は、2ちゃんねる(現5ちゃんねる)で言うところの「コテハン」みたいな存在が居座って、永遠に書き込み続けている状況です。加えて、「初心者は半年ROMれ」的なことを苛烈な口調で言い始めたら末期。コミュニティの死はすぐそこです。
どんな場でもそうですが、初心者が気軽に発言できない環境になると、空気のめぐりが悪くなり、初心者がやめ、中堅が抜け、“ベテランの日記帳”と化します。たとえベテランに強烈なファンがついており、一時的には問題ないとしても、不老不死でない以上、いずれベテランも引退するので、運営は得をしません。
こうならないためには、発起人が積極的に初心者に声をかけるとか、ヒートアップしたベテランにいったん落ち着いてもらうなど、ある程度の介入が必要となります。「放任主義のほうが、理想的なコミュニティができるだろう」というのは、ちょっと楽観的すぎるのかなという印象です。
『回覧板』に関して言えば、そもそも少人数なので、確かに(夏野など)一部のメンバーが多めに発言する、というタイミングが多々ありました。ただ、10人未満しかいない場で、「あまり発言しないでください」「もっと発言してください」と促すのはむしろ逆効果なのかなと。人によっては、別のコミュニティで活躍されており、『回覧板』へのコミットは低め、というケースもあるので。
そういった判断から、とくに発言の頻度をコントロールすることはしませんでした。これが30人くらいになると、もう少し発起人の介入が必要になるのかもしれませんが、別段問題にはならなかったかな、という印象です。
「きっちりしなきゃ」と締め付けすぎる
これは完全に反省なのですが、「『回覧板』はみんなの共有物なので、ふさわしいコンテンツを作りましょう」と伝えすぎて、みなさんを萎縮させてしまったかなと感じた部分がありました。もっとみなさんのことを信頼して、「自由にどうぞ!」とお願いするべきでした。力不足ですみません。
というわけで、自戒として書きますが、「きっちりしたい」と意気込みすぎると、自由なアイディアは出てきづらくなります。
これは、とくに研究会などに顕著だそうです。はじめこそ、「身内で楽しくワイワイ研究トークしましょ」の会だったのが、いつのまにかそこそこの権威性を帯びるようになり、「こんなレベルの話題を出したら、会の格を落とすかな……」なんて萎縮する人が出てくると。
これを防ぐためには、はじめから締め付けるのではなく、まずは自由にやってもらって、どうしても必要な場合のみ指摘する。そのくらいの塩梅でやればよかったなあ、と感じております。
■いい空気にするために、どう努力したか
反省を終えたところで、じょうずにできたかな、と感じる部分についてもシェアしていきたいと思います。
コミュニティ運営においては、いい空気を作るために、以下のようなポイントに気をつけていました。
みんなで決める。「暫定的に」こうしました、という言い方をする
全員ボランティア、全員が対等なコミュニティなので、「その都度、話し合う」ことを重視していました。
たとえば、『回覧板』は6ヶ月限定の企画だったので、
などを決める必要があり、なるべく全員から何らかの意見をもらえるように配慮しました。
ただ、意見が割れることはあったので、そのあたりは発起人として「折衷案として、こういう形でどうでしょうか?」と調整させてもらいました。
その結果、『回覧板』終了後もSlackは存続(随時脱退自由)、事前チェックの機会をもらえるなら寄稿もOK、という形になりました。もちろん、あくまでも暫定的なもので、ある日突然終わるかもしれません。そのときはそのときですね。
参加頻度で扱いを変えない
これもしつこくリマインドしてきたことです。参加メンバーには、別媒体でお仕事をご一緒している方もいるので、「ここでの関係性は外に持ち出さない」ことを何度でも強調しました。マガジンSlackですごく揉めても、「もう発注/受注しないから!」みたいな事態には絶対にしませんし、するべきではありません、と。
ここを徹底しないと、それこそ「イヤなのに断れない飲み会」みたいで最悪です。仕事 = お金 = 暮らしに関わるポイントですので、少々潔癖すぎるかな?というくらい、こまめにアナウンスさせてもらいました。
発起人が憎まれ役を買って出る
アナウンスの話ともつながるのですが、発起人である限り、憎まれ役を買って出る必要があるなあと覚悟していました。
実際に、トラブルではありませんが、うっかり話が盛り上がってしまい、チャンネルの目的から逸れてしまった事態は何度かありました。そうしたときには、私からそっと「ここは〇〇するチャンネルなんで、その話題は▲▲でやりましょ!」とお伝えしました。
ありがたいことに、私から指摘したのはそれくらいで、憎まれ役になるタイミングはほぼありませんでした。これも、献身的なメンバーのみなさんのおかげだなあと感謝するばかりです。
ときには席を外す
と、このように、軽い忠告ですら行うタイミングがなかったため、完全に私が力を入れすぎだった感は否めませんが……。
実は、「ウラで陰口言われてもいいや」と覚悟のうえで、たまに席を外していました。「いつでも夏野が見ている」みたいなやり方は、かなり窮屈だなと思ったので。
人間、そこそこの年齢になると「全部自分を通して」病が発症しやすくなるそうです。私は心配性なこともあり、すべての仕事のステータスを事細かに確認しがちなので、相当ギクっとしました。
病気への対処法は、何よりも“予防”。「私の知らんとこで、なんかオモロいこと進んでたらええな」という大らかな態度を身につけられるよう、ひそかに頑張っておりました。
■いい仕事はいいチームから
起業を機に、“ディレクター1年生”として活動し始めた夏野。『回覧板』運営においては、さまざまなことを学ばせていただきました。
その中でも、まだまだ難しいなと感じているのが、みなさんとの距離のとり方でした。個人的に仲良くはなりたい。でもなあなあな対応はしたくない……。そうしたジレンマへの対応指針や、メンバーからの相談をどこまで受けるか?については、今も悩み続けています。
とはいえ、当初の期間を完走できたのはひとえにメンバーのみなさんのおかげなのと、リアクションをくださった方のおかげです。今だから言えますが、どなたかがコメントをくださるたびにSlackで「〇〇さんの記事、読まれているよ!」と盛り上がることで、コミュニティ活性化の燃料となっておりました。厚く御礼申し上げます。
今回で『回覧板』の定期コンテンツ更新はいったん終了となりますが、不定期なコンテンツ公開は今後も行なっていく予定です。相変わらずリクエストも受け付けておりますので、メンバーのTwitterやメールアドレス等に、ぜひお気軽にお問い合わせください。
今後のマガジンメンバーの活躍に、乞うご期待!
6ヶ月間、ありがとうございました。
とっても嬉しいです。サン宝石で豪遊します。